辛いことも「試されてる?」と思えば乗り越えられる!【介護リレーインタビューvol.61/クリーン 相田由紀子さん】#2
介護業界に携わる皆さまのインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。
お話を伺ったのは…
クリーン 店長
相田由紀子さん
理容師免許を取得してから3年ほど理容店で修業を積んだ後、両親が営むヘアサロン『クリーン』に。2007年に両親から事業を譲り受ける。2017年には毛髪診断士の資格も取得。自治体発行の福祉理美容券の利用者、ヘルパーや家族からの依頼で訪問理美容を行っている。
前編では、理容師のご両親から店を譲り受けるまでのいきさつをご紹介しました。
後編では、ご両親の代から行っていた訪問理美容でのエピソード、昔ながらの理容室には珍しく「完全予約制」を取り入れたいきさつ、壁に突き当たったときの対処法についてご紹介します。
発達障がいのお客さまも訪問理美容も日常の仕事のひとつ

子どもたちの人気スペースになっている秘密基地のようなロフト。
――相田さんは訪問理美容や発達障がいをお持ちの方のカットもなさいます。きっかけは何ですか?
両親の代から自治体が発行している「福祉理美容券」を取り扱っているので、ご依頼があればお宅に訪問して施術をしています。
発達障がいをお持ちの方は普段からよくいらっしゃるので、特別に意識したことはありません。
――特別なことではなかったんですね。
最初のうちは緊張しましたし、手間取ることもありましたが、両親からいろいろアドバイスを受けて、今はすっかり慣れました。
――訪問理美容で困ったことはありましたか?
いつもお邪魔している方のお宅に伺ったら、声はするのに姿が見えない。声のする方に行くとトイレの前で倒れていたんです。「救急車を呼ぼうか?」って聞いたら、「もうすぐヘルパーさんが来るから、ここで髪を切ってくれ」っておっしゃるんですよ。
――え!? 倒れているのに?
トイレに行ったものの、そこでエネルギーが尽きちゃったみたい(笑)。ヘルパーさんが来るなら大丈夫だろうと、その場で髪を切ったことがあります。
――倒れている状態を見たら、こちらがパニックになりそうです。
そうですね。ご家族と一緒にお住まいの方だと私たちも安心して伺えますが、お一人暮らしの方だと不安はあります。介護や医療のスキルがないので、何かあったときが怖いです。お邪魔するときは、できればケアマネージャーさんやヘルパーさんなどどなたか立ち会ってくださるようにお願いしていますが、叶わないこともあります。
――みなさんの予定を合わせるのは難しいですよね。
お客さまの中には首が動かせない方や呼吸を助けるチューブが入っている方もいらっしゃいます。そんなときはお客さまの様子を見ながら、「こうしたらいいか」「ああしたらいいか」考えながら施術しています。
――暴れる方はいないんですか?
暴れる方はいませんが、家族ではない私たちのような第三者に自分の辛いことをぶつけてくる方はいます。髪にちょっと触れただけで「痛い!痛い!」っておっしゃる。
――それは困りますね。
急に「痛い!」って言われたら、とっさに「ごめんなさい」って言いながら身を引いて、その部分に触れないようにしていたんですね。でも、お客さまに寄り添わなくてはいけないって気づいてからは、「どこが痛いの?」とか「どうすれば痛くない?」って聞くようにしています。もう一歩お客さまに踏み込むことで、本当に伝えたいことを言ってくださるようになりました。
――訪問理美容は髪を切ってさっぱりするだけじゃないんですね。
お店に来てくださる方でも同じですよ。不機嫌な様子だったら「いつもと違うけど、何かあった?」って聞くようにしています。そうすると「実は…」ってお話ししてくれます。
――他のお客さまがいらっしゃると、言い出しにくかったりしませんか?
ここは完全予約制なので、お店にはお客さまと私か母か息子しかいません。
――理容店で完全予約は珍しいですね。
子育てをしながら毎日お店に立つのが大変だったんです。お客さまが来ない時間帯も店にいなければいけないのも苦痛で。完全予約制なら次にどんな方がいらっしゃるか分かるので事前に準備しておけます。それに予定も立てやすい。それで私の代になってから、完全予約制にしました。
――古くからのお客さまは受け入れてくれましたか?
「歯医者に行くときも予約するでしょう?」ってお話ししたり、来店なさった日に「次に来る日を予約しておきましょうね」って提案したり。移行期間は5年ほどかかりましたが、今ではすっかり定着しました。
この業界の「ココが好き」が特技になる!

今でも店に立つ85歳のお母さまと。息子さんも理容師になり三代目が確定!
――今、ご両親は?
父は亡くなり、母が今も店に立っています。息子は昨年、理容師免許を取ってここで修業しています。
――洗脳成功ですね(笑)。
息子はおじいちゃん子で、私の父が働く姿を見て「カッコいい!」と思っていたようです。赤ちゃんの時から店にいたので、洗脳成功ですね(笑)。
――息子さんも訪問理美容に出られるんですか?
今はまだ修行中なので、訪問に出るのは私だけです。
完全予約制にしたので、母は予約が入ったときだけここに来ればいいし、今回のような取材が入ればその時間帯だけ予約を入れなければいい。
――完全予約制は、いろいろな面でメリットが大きかったんですね。
ここをリニューアルするとき、内装を含めていろいろこだわりたかったんです。例えば、外から店内が見えないような完全なプライベートサロンみたいな(笑)。でも、ここは通学路の途中にあって、子どもたちが「何をやってるの?」って、よくのぞきに来るんですよ。
私のこだわりを押し通すのではなく、お客さまを第一に考えた方が良いとプランを変更しました(笑)。
――こちらはアットホームな雰囲気ですごく居心地のいいお店ですよね。
完全予約にしたおかげで私たちが予定を立てやすくなっただけではなくて、1対1で向き合えるので、お客さまにも満足のいく時間を有意義に過ごしていただけるようになりました。
――相田さんは、これからどんな風に仕事を進めたいですか?
理容業界そのものが高齢化が進んで技術者不足という問題を抱えています。業界が発展するためにも、後継者を育成していきたいですね。
それから訪問理美容などのサービスが、必要な方に届いていないように感じています。できる限り多くの方に周知されるよう、SNSなどを活用していきたいです。
――この業界に進もうと考えている人にアドバイスをお願いします。
まず、この業界の「ココが好き」をひとつ探してください。それがあなたの特技になります。一生ものの仕事と考えて、プライドを持って目標を目指してください。
相田さん流!訪問理美容の心得三か条
1.様子や行動を観察して、相手の気持ちに寄り添う
2.「痛い」や「イヤ」の言葉に隠された本音を探る
3.常に「どうすればいいか」を考える
撮影/森 浩司













