「あなたのような方に手伝ってほしい」のひと言で目の不自由な方のガイドに【介護リレーインタビュー Vol.49/ガイドヘルパー 久保田綾子さん】#1
介護業界に携わる皆様のインタビュー通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。
お話を伺ったのは…
NPO法人横浜市視覚障害者福祉協会
同行援護事業所アイポート ガイドヘルパー
久保田綾子さん
伯父と伯母の介護をきっかけにヘルパー2級(初任者研修)を取得。その後、デイサービスやグループホームで介助・介護の仕事に就く。ある視覚障がい者との出会いを機に9年前にガイドヘルパーの資格を取得し、現在に至る。
前編では、久保田さんが介護業界に興味を持ったきっかけやガイドヘルパーになったいきさつ、ガイドヘルパーとして気をつけていることなどをお話しいただきます。
体力の限界を感じ始めた頃、ガイドヘルパーに出合う!
――久保田さんが介護業界に入ったのは、ガイドヘルパーがきっかけですか?
ガイドヘルパーになる前は、デイサービスやグループホームで介護の仕事をしていました。伯父を介護していた伯母が過労で倒れ、私が介護することになりました。介護をするなら正しい知識があった方がいいと思い、ヘルパー2級(初任者研修)の資格を取りました。
――介護のお仕事をしながら、ガイドヘルパーになったのはなぜですか?
目の不自由な方との出会いがきっかけです。出勤途中の交差点で、「どなたか私を向こうへ渡してくれませんか?」という声がしたんです。周りを見るとその場には私しかいなくて、「私でよければ」とお答えしました。その方は目が不自由で、その当時の私はどう接すればよいのか分かりませんでした。「どのようなお手伝いをすればいいですか。教えてください」と指示をいただきながら交差点を渡ったんです。
――運命的な出会いですね。
その日をきっかけに、通勤途中にその方をお見かけしたら、お声をかけて一緒に交差点を渡るようになりました。その道すがら、お話しをするうちに同行援護という仕事があることを知ったんです。「あなたのような方に手伝って欲しい」とおっしゃってくださったのを真に受けて(笑)、資格を取ることにしました。
――介護のお仕事からガイドヘルパーに切り替えたんですか?
そうですね。たいへん悩みました。同行援護の資格を取ってからも、しばらくはデイサービスのヘルパーとガイドヘルパーを掛け持ちしていましたが、今は同行援護だけで活動しています。
――仕事の掛け持ちは大変でしたね。
実はガイドヘルパーという仕事を知る少し前から、デイサービスの仕事に限界を感じていました。体力が落ちてきて入浴介助がキツくなっていたんです。頭痛や吐き気もあって仕事に対して意欲もなくなりかけていました。そんなときにガイドヘルパーという仕事に出合えたのは幸運だったと思います。
ガイドヘルパーに求められるのは『か・き・く・け・こ』
――同行援護というのはどんなお仕事ですか?
視覚に障害のある方が外出されるときに、安心・安全に気を配り、目的地までの誘導を行うことです。書類や手紙の代筆や代読をすることもあります。
病院へ一緒に行くこともあれば、みかん狩りやイチゴ狩りなどのバスツアーに同行することもあります。行ったことのない場所に行かれる楽しみがありますね。スポーツ観戦やボーリング、カラオケに同行することもあるんですよ。
――一般的なヘルパーとはまた違うんですか?
「同行援護従事者養成研修一般課程」を修了する必要があります。
――久保田さんが同行援護をするときは、どんなことに気をつけていますか?
目的地に安心・安全に誘導できることです。道路での段差、階段を上り下りするときの一歩目、電車やバスの乗り降りは特に気をつけています。
私が同行援護を始めて1年くらい経った頃でしょうか。ある利用者さんから「あなたにこの言葉をプレゼントします」と贈られたのが『利用者さんもヘルパーさんも“かきくけこ”』です。
――それはどんな意味があるんですか?
「か」は感謝、「き」は聞き上手、「く」は口は禍の元、「け」は謙虚さ、「こ」は声を出す。この5つにガイドヘルパーに求められているものがすべて込められていると思って、ずっと大切にしてきました。
――「声を出す」というのは、具体的にはどんなことでしょうか?
一緒に歩いている途中で、「お店が開きましたよ」とか「道端に花が咲いています」とか、気づいたことや利用者さんが興味のありそうなことを声に出して伝えています。そうすると話が広がって、和やかな雰囲気になります。
――自信を持ってガイドヘルパーの仕事をするために、どんなことをなさっていますか?
研修などがあれば積極的に参加しています。また養成研修のときにいただいたテキストを読み返すこともあります。
――読み返す?
いつの間にか自己流になっていることもあるので、基本に立ち返るために読み返します。
分からないことや疑問に感じたことは、ほかのガイドヘルパーに聞いて情報交換することもあります。
あとは、街で見聞きしたことを、自分の立場に置き換えてみることも大事ですね。
――どういうことですか?
あるとき電車に乗っていたら、目の不自由な方とガイドヘルパーがいました。その利用者さんが「最近、見えづらくなってきて困るので、今までより細かい指示をお願いします」と、ヘルパーに伝えたんです。別にとがめる口調ではなく、穏やかにお願いしている様子でした。それなのにヘルパーは「私の指示が悪いってことですか!」って怒りだしたんです。あまりにひどい対応だったので、私もビックリしてしまいました。
私だったら「利用者さんが直接おっしゃるのは、不都合をガマンなさっていたのでは?」と捉えます。利用者さんの「こうして欲しい」という想いに、できる限り応えられるガイドヘルパーでありたいと思いました。
同行するたび、必ず1つ何かを見つけて調べることが目標
――ヘルパーの知識もあるので、ガイドヘルパーのお仕事も難なくこなせているのでは?
決してそのようなことはありません。もちろん、今までのすべての経験はムダではなく宝になっていますし、同行援護につながっています。それでも、新たに覚えることはたくさんあります。
――例えばどんなことですか?
視力がわずかに残っていることを「ロービジョン」ということや、点字の本ばかりを集めた日本点字図書館を「日点」と呼んでいることなど、利用者さんとお話しするなかで、いろいろ学ばせていただきました。
――一般的な介護の用語とはまた違うんですね。
利用者さんがふだんの生活で使っている用品や用具、点字ブロックにも意味があります。毎回の同行援護で必ず1つ、何か分からないことや新しい言葉を見つけて調べるようにしています。日点のようにみなさんが利用する施設名や用語の略語もあって、日々勉強です。
同行援護を始めて9年になりますが、今ではすべてが財産になっています。
目の不自由な方が交差点を渡るのをサポートしたのをきっかけに、ガイドヘルパーになった久保田さん。後編では、同行援護を続けるなかで失敗したことや嬉しかったこと、ストレス発散法などを伺います。
撮影/森 浩司