スポーツ現場ですぐに役立つ! 柔道整復師の足首固定法【ヘルスケアのお仕事 Vol.32 日体接骨院 熊谷将史さん #3】
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。これまで、日本体育大学医療専門学校で教師をしながら、付属接骨院にて臨床の現場にも立つ柔道整復師・熊谷将史さんにお話しを聞いてきました。
前編では、熊谷さんが教師という仕事に感じる魅力や、教師と柔道整復師の両立の仕方についてインタビュー。中編では、お仕事に感じている魅力と、地域ボランティア活動の意義、地域と接骨院の関わりについて教えていただきました。
後編では、熊谷さんが行っている施術と技術にフォーカス。接骨院の施術では、患者さんの怪我の背景まで知ることを大切にしているという熊谷さん。しかしスポーツ現場では、その場限りの施術になることも。そんな時にすぐに役立つ固定技術の基本を、詳しく教えていただきました。
教えてくれたのは…
「日体接骨院」
院長 熊谷将史さん
日体柔整専門学校(現・日本体育大学医療専門学校)を卒業後、日体接骨院に勤務。その後、専科教員免許を取得し、日本体育大学医療専門学校 整復健康学科 柔道整復コースの教員に。教鞭を取りながら接骨院に勤務しつつ、ボランティア活動として地域のスポーツ大会の救護活動にも取り組んでいる。
怪我が治って終わりではなく、その後までケアするのが接骨院の仕事
―「日体接骨院」での主な施術の流れを教えてください。
初診で来院されたら、まずは予診票を書いていただきます。それを元に問診を行い、怪我の状態、痛みの原因を把握していきます。痛みの原因が筋肉によるものであれば、電気や超音波で筋肉をゆるめてから、自分の手で原因を探っていって施術を行います。
―施術のなかで大切にしていることは何ですか?
患者さんとのやり取りのなかで、背景を知るように努めることです。例えば、1年前の手術が原因で正常な可動域で動かせていないなか、引き金となる動きをしてしまった、とか。ただ痛いんですね、ではなくて、痛みにつながる背景まで知ることで、治療や施術も変わってきますから。
また、施術後の治療方針の説明も大切だと思います。患者さんも、スケジュールが見えないと通院する気が起きませんよね。自分がどのくらいでスポーツや日常生活に復帰できるのか。復帰といっても、すぐに怪我前の状態ではできないので、段階を踏んでいくこと。そういった段取りを、きちんと伝えるようにしています。
―例えば、1週間安静の人に「来週試合なんです!」と言われたら、どうしますか?
まずは試合に出るリスクを伝えます。今以上の怪我や別の部位の怪我につながる可能性、固定をして試合に出ることになるので100%ではできないこと…。そういったリスクを踏まえたうえで、それでも試合に出るのか、やめておくのかの最終的な判断は患者さんです。どの程度、その試合に思い入れがあるかもあるので。
ただ、中学生までは、その判断を自分でさせるのはよくないと思います。若いうちは基本的に、怪我をした状態では試合に出ちゃダメ。怪我を繰り返すリスクもありますが、「怪我をしてでも無理して出る」という考えを持った選手にしちゃダメですよね。だから、最終的な判断は親御さんや監督さんにお願いしますし、僕としては出させない方向でお話しします。
スポーツ現場では判断の早さと、その後を予測した固定が重要
―スポーツ現場と院での施術の違いはありますか?
接骨院は、基本的に患者さんに通っていただくので、日々の変化がわかる状況で診られます。でも、スポーツ現場の救護の場合、その場限りということも多いんです。例えば、全国大会で東京に来ているけど、夜には地方に帰ってしまう、とか。
だからスポーツ現場では、その時の状態だけで、すぐに判断しなければいけません。今すぐ救急で病院に行くのか、緊急性はないけど後日必ず病院に行くのか、様子を見ていいのか…。
そして、その後の変化まで予測して処置すること。例えば骨が折れている場合、後からものすごく腫れてきます。その時に通常の固定のままだと、腫れで固定がきつくなって、もっと痛くなってしまう。だから、患者さんが痛くて固定を外してしまうことのないように、腫れまで想像して処置しないといけないんです。
熊谷さんが伝授! 救護で役立つ捻挫時の固定法
スポーツでの怪我で多いのが、足首の捻挫。そこで熊谷さんに、足首の固定をする方法を教えていただきました。
1.柔整パッドで圧迫
足首の場合、外側の靭帯を傷めることが多く、時間が経つと外側くるぶしあたりが腫れてきます。最初の炎症(腫れ)は、ないと治らないので大切なんですが、腫れすぎてしまうと治りが遅くなってしまうことも。だから、適度な圧迫が必要です。
柔整パッドをくるぶしの形に合わせてカットし、腫れの出るくるぶし下に合わせます。
2.ガーゼ包帯で保護
柔整パッドの固定には、包帯状にカットしたガーゼを使います。薄くて柔らかく、固定ができるものではありませんが、肌あたりがやさしく汗も吸ってくれるので、綿包帯が当たる範囲に下地として使用しています。
綿包帯よりも幅が大きいので、シワにならないように均等に引っ張りながら巻きましょう。
3.綿包帯でしっかり固定
救護の現場では、綿包帯での固定がメインになります。接骨院によっては、水につけると柔らかくなるギプスのような素材で巻いて固定する場合も。救護の場合、自宅まで安全に帰ってもらうことが第一です。またひねったり、包帯で擦れて痛くなったりしないように、均等にしっかり巻いていきます。
巻き始めは、凹凸が少なくズレにくい足首から。くるぶしよりも上から巻き始めて、ある程度最初の留めを作ってあげます。そこからズレないように、ぴったり均等に圧をかけながら、土踏まずへ。
土踏まずから足首に戻り、そのまま8の字で足首全体を覆ってあげるように巻いていきます。凹凸やかかとの角張りなども、しっかり均等に圧をかけながら巻くことが重要です。
これで一度帰宅していただき、後日、整形外科や接骨院に受診していただくことになります。整形外科での診断によって、固定を継続する必要があれば、接骨院に通院していただくといいと思います。接骨院であれば、怪我の状態に合わせて、毎日固定を変えることもできます。
アフターケア/運動療法
足首を固定して2週間ほど経過し、破損した部分の組織が修復されたとしても、怪我をする前と同じ状態までは戻っていません。そのため、日常生活やスポーツに復帰する際、固定を外してすぐに怪我前と同じように動くと再び怪我をするリスクが高いので、元の足首の状態に段階を踏んで戻していく治療が必要です。また、捻挫はクセになる、とよく言いますが、そうならないための予防も大切。
そのために行っているのが、マットを使った運動療法です。体重をかけた方向にグラグラするマットに片足立ちで乗り、グラつかないように体勢をキープしてもらいます。そして僕が後ろから見て、身体の傾きや姿勢を正しい位置に指導していきます。
自分の体重をまっすぐ足首の軸に乗せる練習をすることで、身体にその感覚を覚え込ませます。身体の潜在意識を呼び起こす感じ。自転車と同じで、一度乗れると自然と意識できるようになります。
これを、取り組んでいるスポーツの動きに合わせて、いろんなパターンで行います。マットを横から踏んだり、助走をつけて乗ったり、身体の重心を後ろに引いたり。あえて体幹の軸をブレさせても、足首の支持している部分がズレないかチェックします。
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熊谷さんのスピーディで美しい固定技術は、さすが! の一言。「スポーツの現場に僕たちがいることで、一般の方ではわからない怪我の判断ができること、そして楽観的判断による怪我の悪化を防ぐことができます」という熊谷さん。スポーツ現場での救護活動では、その後の腫れ方まで予測して固定することが大切なんですね。ボランティア活動なら、接骨院の中だけでなく、より広い地域で柔道整復師の技術が活かせそう。もっと活躍したい! と思っている方は、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
▽#1はこちら▽
教育と臨床の現場に立つ、教員柔道整復師の働き方【ヘルスケアのお仕事 Vol.32 日体接骨院 熊谷将史さん #1】>>
取材・文:山本二季
撮影:米玉利朋子(G.P.FLAG)