【今さら聞けない!? 介護のお仕事の基本vol.53】利用者の心中が知りたい! 聴きたいことを引き出すテクニック
多くの人と関わる介護職にとって、利用者とのコミュニケーションはよりよいサービスを提供するためにはとても大切なこと。今回は、コミュニケーションのひとつ、会話に悩んでいる介護職Nさんのケースを取り上げます。
利用者の本音を聴き出したい! でも会話が上手く続けられない…。
Nさんは居住型施設で働く介護職。皆さんに気持ちよく過ごしてもらいたいと、日々奮闘しています。そんなNさんは、最近入居して来たEさんの様子が気にかかっていました。
ある日、施設での暮らし心地はどうかを聴きたくて、Eさんに声をかけたときの会話です。
介護職:Eさん、この施設はどうですか?
Eさん:……どうって?
介護職:どう思いますか?
Eさん:いいところだと思いますけど…。
介護職:食事はどうですか?
Eさん:どう? うーん、おいしいことはおいしいです。
介護職:何か不満がありますか?
Eさん:いえ、何も。
精一杯寄り添って聴いたつもりでしたが、Eさんの本音は見えてきませんでした。
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Nさんとしては、入居間もないEさんが馴染めているのかどうか、困っていることはないかを聴きたかったようですが、上手くいかなかったようですね。今回は相手の本音を引き出す、会話のテクニックについて見ていきましょう。
お話を伺ったのは…
中浜 崇之さん
介護ラボしゅう 代表/株式会社Salud代表取締役/NPO法人 Ubdobe(医療福祉エンターテイメント) 理事/株式会社介護コネクション 執行役
1983年東京生まれ。ヘルパー2級を取得後、アルバイト先の特別養護老人ホームにて正規職員へ。約10年、特別養護老人ホームとデイサービスで勤務。その後、デイサービスや入居施設などの立ち上げから携わる。現在は、介護現場で勤務しながらNPO法人Ubdobe理事、株式会社介護コネクション執行役なども務める。2010年に「介護を文化へ」をテーマに『介護ラボしゅう』を立ち上げ、毎月の定例勉強会などを通じて、介護事業者のネットワーク作りに尽力している。
同じようなパターンの会話が多いなと、自分を振り返って思った人もいるのではないでしょうか? 特に会話が苦手な人にはありがちなことかもしれません。ですが、相手の本音を上手く聴き出せると、介護の仕事にも役立つことがたくさんありますよ。
ポイント1:質問の仕方で応え方が変わる
今回のような「新しい環境に慣れたかどうか聴きたい」「困っていることはないかを知りたい」といった場合の他にも、介護の現場では「いつもと様子が違うので真意を確かめたい」というような場面にも多く遭遇します。そんな時に質問をするわけですが、質問の仕方によっては正直に応えてくれる場合とそうでない場合が出てきます。そのカギとなるのが「否定的な表現」です。例えば、「やつれて見えるけど、仕事が忙しいの?」のように質問の前に否定的な表現をつけてしまうと、防衛本能から心を閉ざしてしまうことも多いので気を付けるとよいでしょう。
ポイント2:イエス/ノーで応えられる「クローズド・クエスチョン」
「クローズド・クエスチョン」は質問のテクニックのひとつで、イエスかノーだけで応えられる質問の仕方です。このケースを例にとると、「ここでの暮らしにはなれましたか?」「夜はぐっすり眠れますか?」のような聴き方になります。これは、応えるために自分の考えをまとめたりする思考過程がない分、気軽に応えられるというメリットがあります。
相手の気持ちをほぐす段階、会話のスタートアップにはよい手法ですが、クローズド・クエスチョンばかりでは会話に展開が生まれないというデメリットもあります。
ポイント3:自由に応えられる「オープン・クエスチョン」
「クローズド・クエスチョン」と対になる質問手法が「オープン・クエスチョン」です。このケースだと「ここの食事はどうですか?」「何か希望はありますか?」といった質問になるでしょう。会話の関係性ができていれば、相手のことをより深く知れるというメリットがあります。
ですが、Nさんはこの「オープン・クエスチョン」を繰り返してうまくいきませんでしたね。それは「オープン・クエスチョン」が、自分の考えをまとめて応えなければいけない聴き方だからです。心を開いていない相手に対していきなり自分の考えを返すのはハードルが高いですよね。これがデメリットでもあります。
質問や会話の際には、相手との距離感や、相手の心の開き具合を見ながら、上記のようなテクニックを上手く使い分けられると質問力がグンとアップします。
相手の考えを引き出す質問手法2step
1.取っ掛りは「クローズド・クエスチョン」
2.深掘りは「オープン・クエスチョン」
イエス・ノーで応えられる「クローズド・クエスチョン」も、相手の考えていることを引き出す「オープン・クエスチョン」も、それぞれ一長一短あります。その特性をうまく使い分けるのが、聴きたいことを聴き出すコツです。
まずは、「ここには慣れましたか?」「食事はお口に合いましたか?」「体調にお変わりはありませんか?」などの「クローズド・クエスチョン」で、【聴く⇔応える】というキャッチボールが成り立つ関係性を作りましょう。相手が返答に慣れてきたら「何か困ったことはありますか?」「何か希望はありますか?」「どこか調子の悪いところはありますか?」などの「オープン・クエスチョン」で具体的なことを引き出しましょう。
相手が応えに詰まったら「クローズド・クエスチョン」にして聴き直してあげる、もっと話したそうにしていたら「オープン・クエスチョン」を投げかけてあげる、のように相手の反応によって使い分けるのもテクニックです。色々と試してみて、自分なりの会話手法を見つけていきましょう。
監修・中浜さんの「実際にこんなことありました!」
コミュニケーションは、介護の仕事を初めとした福祉の仕事にはとても重要な能力だと思います。しかし、実際の現場には、人見知りでお喋りが苦手という人が多いなとも感じています。思うようにキャッチボールが続かずに悩んでいる人は、意外と多いのではないでしょうか。特に入所したばかりの方や、利用し始めて間もない方相手だと、まだ関係性ができていなかったりするので特にそう感じている人は多いですよね。
実は私も、自分からなんでもお話しするのが得意ではないので、新しい方に何話したらいいかと悩んだ思い出があります。その時は、アセスメント表などで出身地やお仕事などを確認して、そのお話を伺うことで会話の導入にしていました。他にも、昔の話ではない、自分でも知っている内容の話をするように心がけていました。あまり自分が知らない話をしても掘り下げていった際に答えられなくなることも出てくるからです。最近のニュースや天気といった、自分が知っている話をすることでお喋りの続けやすさも変わってきますよ。
また、「質問する」・「聴く」だけではなく、会話の中に「自分の意見も入れる」ことを意識してやっていました。「私はこう感じたんだけどどう思いますか?」とか「僕はこっちが好きですけど〇〇さんはどうですか?」など、自分の話も入れることで相手も話しやすかったり、話が展開しやすかったりしますよ。
もしこういう視点でのアプローチをしたことがなかったら、ぜひ一度試してみてくださいね。
参考:「こんなときにはどう言葉をかけたらいい? 介護の言葉かけタブー集」「相手が求めていることを聴き取れますか? 介護の聴き方タブー集」誠文堂新光社