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ヘルスケア 2023-08-02

美整容ケアで人生に伴走するリングスケア®セラピストとは【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.108/リングスケア®チーフセラピスト 大平智祉緒さん】#1

ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。

今回お話を伺ったのは、リングスケア®チーフセラピスト 大平智祉緒さん。

看護師として高齢者看護に従事した後、メイクセラピストとして活動を始めた大平さん。2019年、療養中や要介護の方に美容ケアを届ける訪問型看護美整容ケアサービス『Nursing&Beauty Care』を事業化し、介護施設での展開をスタート。2022年『RingsCare®』に名称を変更し、2023年6月より法人化しました。

そんな大平さんにお話をお聞きする全2回。前編では、看護師からメイクセラピストに転向したきっかけや、大平さんが立ち上げたRings Care®についてお聞きします。

終末期に寄り添える看護師を目指すなかで出会ったメイクセラピー

株式会社RingsCare 代表の大平智祉緒さん

――まずはこれまでの経歴と合わせて、メイクセラピストになった経緯を教えてください。

中学3年生で父親を癌で亡くし、最期に何もできなかったことをとても後悔して、ターミナルケアができる看護師を志しました。そのために終末期を過ごす方の多い大学病院の高齢者医療センターに就職しましたが、想像していたターミナルケアができる環境ではなく、新人看護師として一生懸命過ごすなかで初心を忘れ、『治療を支える看護師』になっていました。

そんな日々のなかで、ある女性患者さんが治療の末に亡くなり、仲の良かったご友人が会いに来たことがありました。そのとき、振り絞るような声で「口もとの産毛を剃ってあげてくれませんか」と言われたんです。「いつもとても綺麗にしていた方なんです」と。でもその患者さんは、外見に手をかけている印象のない方だったんです。

――お元気だったときと、入院してからの姿が違ったんですね。

ハッとしました。外見なんて病院のなかでは優先順位の低いこと。でも元気なときに綺麗にしていた方の人生の最期を、こういう姿で終わらせてしまった…。そのことがすごく情けなくて、とても反省しました。同時に、なぜ看護師になったのかを思い出したんです。

「最期まで寄り添ったケアをしたい。もっともっと現場でそういった意識があったらいいのに」と思っていた矢先、実習で来ていた看護学生が認知症患者さんにマニキュアをつけたことがきっかけで、「メイクセラピー」に出会いました。

キレイになった爪を眺めた患者さんが、すごく嬉しそうな表情になって、「いつも塞ぎがちだった方が、こんなにワクワクした顔になるんだ」と衝撃を受けました。同時に、これを看護に活かせないかなと思ったんです。すぐに仕事と併行してメイクセラピー検定の勉強をし始めました。その後、結婚を機に退職し、年子を出産して子育てが始まると、社会と自分が切り離されたように感じました。そんなとき私自身も、肌のお手入れをしたりお化粧をしたりすると、自分の気持ちが前向きになれたんですよね。

その経験から「やっぱりメイクセラピーをきちんと学びたい」と思い、第三子を妊娠中にメイクセラピスト養成講座に通い始めました。ただ私が学んだのは、女性支援を目的にしたメイクセラピーでした。医療の現場で活かせるものではなかったし、それを医療・介護現場でケアとして実践している人も見つけられなかったんです。

――まだまだ現場には導入されていなかったんですね。

美容のボランティアさんたちがやっているという情報がパラパラあるくらいでした。なんとか方法はないかと考え、私がどんなことをしたいのかというのを、地域のママさんや子育て支援団体で会う人とかに話すようになったんです。すると、たまたま居合わせた不動産会社の社長さんなどが賛同してくれて、すぐに地域の高齢者を集めて健康化粧教室を開催する機会を作ってくださるようになりました。そこで開業届けを出して、メイクセラピストとして活動し始めたんです。

看護の現場でも活用できるメイクセラピーを作りたい


――現在は「Rings Care®」として活動されていますね。その経緯は?

開業した2016年当時は、イベントに登壇して美整容の重要性を地域の高齢者に伝える――というのが主な活動でした。でもやっぱり私は、患者さんに寄り添った、マンツーマンのケアがしたかったんです。

だからまずは地域のイベントで、無料で体験会をやらせてもらいました。そこでご縁があり、東大病院の『外見ケアワーキンググループ』に、ボランティアで1年間参加させてもらったんです。看護師としてではなくメイクセラピストとして、初めて患者さんたちと関わる機会でした。そのときの患者さんたちの様子には、すごく感動しましたね。

それと同時に「ここにも来られず治療に耐えている患者さんがいるんじゃないか」ということも考えました。そこで、訪問リハビリのビジネスモデルを参考に『Nursing&Beauty Care』という事業を始めました。有料老人ホームにご入居されている方と個人契約を結び、毎週お部屋に伺って体調に合わせてケアのかたちを変えていく。そうして最終的にはお看取りまで関われるようになりました。

――ターミナルケアとメイクセラピーがつながったんですね。

でもまだ現場では「看護・介護とは別ジャンルのもの」「プラスαのもの」という認識でした。私たちが毎日している、顔を洗って化粧をして人に会うのと同じで、日常のもののはずなのに。でも当時の私は、看護・介護の『ケア』として化粧や美容をするとはどういうことなのかを上手く言語化できなかったんです。

そこで2020年に順天堂大学の大学院に行き、看護における化粧ケアをテーマに研究をしました。日本中から医療・福祉現場で化粧ケアを実践している看護師を探し、看護師はどのようなことを意図し、どのように化粧ケアを行っているのか、美容師や美容家が施術する化粧とは何が違うのかをインタビューしたんです。そうして明らかになったことを看護科学学会で発表したり、インタビューしたメンバーと「根拠に基づく外見ケアを考える会」という研究会を作り、美整容ケア(外見ケア)を看護技術として考える取り組みをスタートしました。

そんななか、特許庁のプロジェクトから声をかけていただいて。知財と経営の専門家たちとともに私がしたいことを言語化し明確化していくなかで、「Rings Care®」が2022年に誕生しました。そして、医療・介護職が当たり前にリングスケア®を知っていて、病気や障害が合っても当たり前にケアが受けられる世の中にしていきたいと考え、今年6月に法人化して、株式会社RingsCareを設立しました。まずは東京都内に広げていけるように施設開拓をしているところです。

同時に、今までは私ひとりでやってきましたが、リングスケア®セラピストの教育と現場の研修事業もスタートしました。ひとりで活動しているときは、リングスケア®セラピストを増やそうとは考えていませんでした。誰でもできるものではないし、教育に落とし込むのは難しいだろうと思って…。でもリングスケア®を社会的なものにするためには、もっとたくさんの仲間が必要です。だから今は人に教える方法を構築しながら、これまでの経験や実績から見えてきた知見を伝え始めているところです。

「ケアリング」を大切に、美整容を通した看護ケアを


――改めて、リングスケア®セラピストのお仕事内容を教えてください。

リングスケア®セラピストは、高齢者や障害がある方に、完全パーソナルな美整容ケアサービスを提供する仕事です。健康状態の変化や入院などの環境の変化により、お化粧をしたり身だしなみを整えること=『美整容』は後回しになりやすく、それは本来の自分らしさを見失うことにつながります。見た目の変化がもたらす心と行動へのポジティブな変化、また美整容を通した人と人とのつながりから、生きる力を引き出していくのが、リングスケア®セラピストの活動の根幹にあります。

実際の仕事内容としては、完全パーソナルなもののため、どんなサービスを提供するかは利用者の方によってさまざまです。大まかに言うと「対話する・触れる・整える・彩る・つなぐ」という5つのサイクルが、リングスケア®の一連の流れになっています。

1つめの「対話」では、視線を合わせてゆっくり話を聞き、信頼関係を作ってからケアの意図をお伝えします。2つめの「触れる」はタッチング。そして3つめの「整える」には、環境整備、見た目の整容が含まれます。4つめにメイクアップやマニキュア、お着替えなどで「彩る」、最後に介護現場のスタッフやご家族にご報告して「つなぐ」んです。

――大平さんの現在の働き方は?

火・木・金は午前中に介護施設へ訪問、午後はミーティングや資料作り、研修、在宅訪問など。水曜はいくつか施設に出向き、午前・午後ともに訪問に出ています。施設では基本おひとり30分、在宅訪問では1回50分+オプションごとに時間が加算されます。

――メイクセラピストのなかでも看護・介護現場に特化した特殊なお仕事かと思います。

日本で唯一のサービスですし、まだ現場にサービス自体が知られていないのが現状だと思っています。リングスケア®の価値は、ただ綺麗になるというところではなく、対象を全人的に捉え、人が人に癒やされる温もりにあるんです。そこが外から価値が見えにくい部分でもあります。リングスケア®の価値を伝えるための活動も、私の大切な仕事のひとつです。SNSやプレスリリースでの発信、セミナー開催にも力を入れていきたいです。


身だしなみを整えることやメイクがもたらすポジティブな変化と、人と人とが関わるケアリングの力を、看護・介護の現場に取り入れるために奮闘した大平さん。法人化して仲間も増え、12月には看護学会での研究発表も予定するなど、広まりを感じます。次回後編では、リングスケア®セラピストのお仕事のやりがいや大変さ、ヘルスケアのお仕事を目指す方へのアドバイスをお聞きします。

取材・文/山本二季

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