「テーマ」ではなく「人」で選ばれる動画で、「見られる」チャンネルに【介護リレーインタビュー Vol.41/介護YouTuber・Y’s CARE -ワイズケア-】#2
介護業界に携わる皆様のインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。
今回お話を伺ったのは、介護YouTuberとして活動している「Y’s CARE -ワイズケア-」のみなさん。
前編では、今年の9月に「訪問介護事業所すずらん」を立ち上げ、「Y’s CARE -ワイズケア-」の発起人でもある西星祐汰(ゆーた)さんに、介護士になったきっかけや、訪問介護事業所を立ち上げたいきさつなどを伺いました。
後編では、ゆうきさん、ももさんにもご登場いただき、お二人の経歴やワイズケア結成のきっかけ、介護YouTuberとして発信したい思いを伺います。
介護施設で出会い、
介護YouTuber「Y’s CARE -ワイズケア-」を結成
――ゆうきさんは、以前ゆーたさんが働かれていた特別養護老人ホームで今も働かれているとか。介護士になったきっかけは何だったんですか?
ゆうきさん(以下、敬称略):介護士になろうと思ったのは、祖母が認知症になったのがきっかけです。もともと児童福祉の仕事がしたくて福祉系の大学に進んだのですが、少しでも家族の手助けができたらなと、高齢者福祉に転向しました。
新卒で入社して、ゆーたさんの後輩になり、その1年後ももちゃんも入社してきて、ワイズケアの3人が揃いました。
――施設ではどんな業務をされていますか? 利用者さんと向き合う際、心がけていることなどありますか?
ゆうき:業務は排泄、入浴、食事など、介助全般ですね。
心がけていることは、利用者さんが話しかけてくれたことに対して、僕で会話を止めないようにすること。会話のキャッチボールを続けられるように気をつけています。
あと、利用者さんの能力に応じて介助しすぎないこと。何でもかんでも手を貸しすぎると、せっかく自分でできることまで奪ってしまうことになります。介助は最低限の手助けに留めて、できるだけご自身でやってもらうことを残す。そのためにも、「伝え方」が大切なので、うまくコミュニケーションを取れるように心がけています。
――ゆうきさんが思う、介護士のやりがいや魅力って何ですか?
ゆうき:個人的な感覚なのですが、僕自身デスクワークが苦手というか、ずっと座りっぱなしで仕事をしていると退屈に感じるんです。その点、介護士の業務は座りっぱなしの時間なんてほとんどなく、フロアを行き来して常に動き回っています。人によっては大変と感じるかもしれませんが、僕にとってはやりがいがあって、魅力的な仕事ですね。
――ももさんは、みなさんが出会った特養の他に、地域包括支援センターでも働かれていたんですよね。
ももさん(以下、敬称略):私も新卒でゆーたさん、ゆうきさんが働いていた特養に入ったのですが、1年半ぐらいで地域包括センターに異動になり、そこで約1年勤めた後、ゆーたさんが立ち上げた訪問介護事業所に転職しました。
もともと発達心理学を学びたくて、大学では福祉社会学科に入学したのですが、心理学部だと院まで進まないと資格が取れないと知って社会福祉士のコースに進路変更。当時、どうしても大学在学中に資格を取っておきたかったんです。
社会福祉士は相談援助系の国家資格なのですが、受験資格の条件で実務実習が必須。当初は地域統括支援センターで実習する予定でしたが、先方の都合が悪くなり、急遽介護老人保健施設に変更になりました。
それまでも介護施設での実習は行っていましたが、せいぜい3日とか、短期間でしか利用者さんと関わってこなかったんです。でもその実習では仮のケアプランを立てながら、2週間ぐらいみっちり向き合うことになって。最初は戸惑うこともありましたが、利用者さんが変わっていく様子を目の当たりにして、現場業務もいいなって思うようになり、卒業後特養の職員になりました。
――そうだったんですね。現場経験も相談員としてのサポート経験もあるのは貴重ですね。
もも:とくに訪問介護の仕事は、介護保険の知識が必要な場面も多いので、包括で働いていたことが役立っていますね。今となってはいい経験ができたなと思っています。
ただ、今年で社会人3年目なのに、特養では1年半しかいられなかったため、介護福祉士の実務経験が足りず……。実務者研修は終えているので、当面は介護福祉士の資格を取ることを目標に、実務経験を積みたいと思います!
――頑張ってください! ちなみに、訪問介護の現場はそれまでの施設と違って大変なことはありますか?
もも:訪問介護は、利用者さんごとに45分や1時間半という枠があって、その時間の中でケアやサポートをさせていただきます。でも、最初はみなさんどうしても気を使ったり、緊張したりして、なかなか頼み事ができないようなんです。現場がご自宅でプライベートな空間というのもありますし、いくら相手がヘルパーだとしても、いきなり「トイレ掃除して!」とか、確かに頼みにくいですよね。
だからこそ、訪問介護では施設以上に信頼関係を築くことが大切だと思います。淡々と業務をこなすのではなく、お話をしながら交流を深めて、利用者さんがお願いごとを頼みやすいヘルパーでいたいですね。
まだスタートして数ヶ月の事業所なので、利用者さんたちとそんなに長い付き合いではありませんが、少しずつ話かけてくれるようになったり、表情が明るくなったりしてきた人もいるので、やりがいを感じて嬉しいです。
――3人でワイズケアを結成したきっかけは? YouTubeを始められたのがいつですか?
もも:私が特養に入社した年の8月だったので、2年と少し前ですね。
ゆーた:もともとは僕一人で開設したアカウントでした。今後はSNSアカウントを持っていないと何をするにも勝ち残れない時代になると思ったので、いずれ自分が起業する時にゼロからスタートするより、ある程度フォロワーを抱えた状態で起業した方がスタートダッシュに差が出ると考えたんです。
といっても、どうやって動画をつくったらいいかわからない。気持ちだけが先走って足踏みしていた時に、ゆうきが入社してきました。ワイズケア結成前からプライベートでも仲良くしていたので、「YouTubeやりたいんだよね」と話したら「手伝いますよ」って言ってくれて。
ゆうき:とはいえ僕もYouTubeは素人。「手伝います」と言ったものの、どうすればいいのか悩みました。
ゆーた:そうこうしていたら、翌年ももちゃんが入社してきました。彼女にも同じ話をしたら「やりましょう!」と言ってくれて。これはバランスのいいグループになるぞ、と思ったんです。ゆうきはマイペースで寡黙なタイプ、僕はリーダー気質でよく喋るまとめ役、そこに元気でフレッシュなももちゃんが加わって、動画の構成もきれいにまとまりそうだな、と。
そこからは早かったですね。すぐ撮影して、編集して、今の形が出来上がりました。
介護の仕事の面白さを伝え、
介護未経験の人を、介護業界へ導きたい
――動画を通して伝えたい思いはなんですか?
ゆーた:介護の楽しさややりがいを広めて、一人でも多くの人に介護の魅力に気づいてもらいたいと思って活動しています。
というのも、今の介護業界は常に人手不足。高齢化社会の影響で、利用者さんは増えていますが、それをサポートするスタッフの獲得が非常に難しくなっています。
それは「介護職は大変でしんどい」という業務的なイメージのせいだけでなく、介護の悪いニュースばかりが取り上げられていることも影響していると思うんです。例えば、「〇〇施設で楽しいハロウィンパーティが催されました」ということはニュースにならないけど、「ハロウィンパーティで職員が利用者に怪我をさせてしまいました」ということは、すぐ拡散されますよね。
なかには、たった一つのそのニュースを見ただけで業界全体を誤解する人もいる。でも実際はいいニュースもいっぱいあるんです。僕らのチャンネルでは、そういった時事ネタも僕らなりの解釈で発信したり、同じ介護施設でもいろんな形態の働き方があるので、実際に取材したり対談したりして紹介しています。
そもそも人手不足は、今いる介護士を引き抜いたり、引き抜かれたり、施設同士で取り合ったところで解決しません。新しく介護士になる人を増やさないと、結局枯渇するんです。僕たちはゼロベースの人たちを介護の業界に引き込むためにも、「介護の仕事って面白そうだな」と思ってもらえる入り口になりたいと思っています。
――ちなみに、どんな企画の動画が人気なんですか?
ゆーた:一番人気は介護士の業務ルーティンを紹介する動画ですね。夜勤編、日勤編などいくつかアップしています。
これらは、当時の勤務先の施設に許可をとって、利用者さんにはモザイクを入れつつ、実際の様子を撮影していました。このチャンネルは僕の個人アカウントですが、施設の紹介も兼ねていたんです。
というのも、僕たちはリアルな介護の現場を撮影して発信したい。でも法人アカウントとして登録すると、僕が退職したら使用することができない。施設とも話し合って、僕らは個人チャンネルとして(毎回施設長に許可をとった上で)施設内で撮影をさせてもらい、施設はその動画を利用者さんの募集や職員の求人に使う、ということになりました。
――なるほど! WINWNの関係ですね。ちなみに動画制作の分担はどんな感じですか?
もも:サムネイルは私が担当しています。サムネには私たちの誰かの顔が必ず入るようにしていますね。
ゆーた:心理学的にいうと「ザイオンス効果」というのですが、同じ人の顔を何度も見ることで、共感しやすくなったり、好感度が上がったりするんですよ。
昨今、さまざまな動画があふれているので、その中でもたくさんの人に見てもらうためには、「テーマ」で選んでもらうのではなく、「人」で選んでもらえるようにならなくてはいけません。例えば3人でご飯を食べている様子を配信しているだけで見てもらえるような、僕らの人間性が伝わる動画を目指しています。
――ちなみに、撮影と編集は?
ゆうき:撮影は僕が担当しています。
ゆーた:編集は僕がメインでやっていますが、最近はももちゃんにも手伝ってもらっていて、外部の編集スタッフにもお願いしています。
ちなみに外部スタッフは、5人中1人を除き、みんな現役で介護職に携わっている人たちです。介護現場の仕事だけでなく動画編集もできるようになれば、仕事の幅が広がりますよね。そういう、介護士のスキルアップを後押しできるような場をつくるのも、僕らならではの活動というか、ストロングポイントになるのかなと思っています。
メンバーそれぞれの成長記録を残し、
視聴者に勇気を与えられるチャンネルに
――介護YouTuberとしての、今後の目標や夢はありますか?
ゆーた:もともと同じフロアで働いていた3人が集まって、今ではそれぞれの人生を歩むためにいろんな選択をして、新たな一歩を踏み出しているので、一人一人の成長を追っていける成長記録のような動画をつくりたいです。視聴者さんもそんな僕たちを見て、「私も頑張ろう」って思ってもらえるような、勇気を与えられるチャンネルになったら嬉しいですね。
ただ、最近みんな忙しくなってきて、更新頻度が下がっているので、徐々に巻き返していかないと、と思っています。とはいえ、無理をするとクオリティもモチベーションも下がると思うので、あくまで楽しみながらやるのが一番!
せっかく起業もしたので、事業のPRになるような、求人の媒体としても活用できる動画もつくっていきたいです。
――ありがとうございました! では最後に、一人一つずつ介護士の心得を教えてください。
ゆうき:ぼくは「人間関係」です。
どの業界でも同じかもしれませんが、同じ職場でも気配りができる人、自分勝手な人、両極端なほどいろんな人がいます。とくに嫌な人は、その人がいるだけで精神的に影響を受けてしまうのですが、受け入れつつも根に持たないというか、自分の中で上手に消化するというか……。うまく言えませんが、拒否はせず一旦受け入れつつも、上手に受け流す感じでしょうか。
介護士は利用者さん、職員同士、全てが「人」で成り立っているので、そういう人間関係のバランスをとることも、大事なんじゃないかと思います。
もも:私も少し似ているのですが、「人を知ろうとすること」かな。
ゆーたさんは、人の長所を見つけるのが上手なんです。以前「なんか苦手だな」って思っていた人に対して、「こういういいところもあるよ」って教えてもらって向き合ってみたら、意外と好きになれたことがあって。
「苦手」っていうフィルターがかかったままだと気づけなかったことも、ちゃんと知るとこで物事が円滑に進んだり、「どうしてこの人はこんなことをするの?」ということも、その背景や理由を知ったら納得できたり。人を知ろうとすることで解決することって、たくさんあると思います。
ゆーた:僕は「自分らしく」。
僕の会社は事業所名が「すずらん」で、社名は「株式会社Mynd(マインド)」っていうんです。「マインド」って本来の綴りは「Mind」ですよね。これだと「心」とか「考え」っていう意味ですが、「My=自分」と掛け合わせて「自分らしく」という意味の造語にしました。
というのも、10年間この業界で働いてきて、介護の現場って不自由だと思うことが多いんです。「人に縛られる」「時間に縛られる」という物理的拘束もそうですが、「髪を染めてはいけない」「ネイルをしてはいけない」「アクセサリーをつけてはいけない」というような、理由を説明できないような謎ルールがたくさんあるんですよね。
もちろん、利用者さんを怪我させる恐れのあるものはダメだと思うのですが、ものを選べば問題なさそうなものも、イメージだけで縛られている。それによって個性やアイデンティティが失われることもあります。
個性でいうと、無口な人がいたり、目立ちたがりな人がいたり、コミュニケーションが苦手な人も得意な人もいる。そんな自分が嫌で「変わりたいんです!」というなら、僕も応援しますしサポートしますが、本人が現状で満足しているなら、それは「個性」として大事にしてもいいんじゃないかな、と。
なにより僕自身、誰かに無理やり変えられた人生なんて絶対嫌です。それと同じように、介護業界で働く全ての人が自分自身を大切に、自分の人生は自分自身で選択して、自分らしく歩んでいってほしいと思います。
取材・文/児玉知子