二本杖から杖なし歩行に! 母娘で伝えたい「いくつになっても体は変わる」【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.130/パーソナルトレーナー・中田かんなさん】#2
「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。
今回お話を伺ったのは、パーソナルトレーナー・中田かんなさん
45歳で会社員を辞め、パーソナルトレーナーに転身された中田さん。現在は業務委託契約先のジムでフリーのトレーナーとして活躍されています。
前編では、パーソナルトレーナーになったきっかけや働き方の変化、これからのトレーナーに求められることなどを伺いました。
後編では、実際に中田さんのトレーニングを受けていらっしゃる母・杏子さんにもご登場いただき、お話を伺います。
80歳でトレーニングを始めたら
どんどん若々しく元気に!
――お母さまは、中田さんがトレーナーになったのをきっかけにトレーニングをスタートされたということですが。
杏子さん(母):せっかくだから、私もトレーニングしてみたくなったんです。実はそのころ、脊柱管狭窄症で膝の痛みがあり、両杖をついて歩いていました。正直、トレーニングでそれを治そうとまでは思っておらず、「体を動かしたらリフレッシュできるかな」「気分転換できるかな」くらいのつもりで始めたのですが、私にとって効果は絶大で! 今では杖なしで歩いています。
かんなさん(娘):3〜4カ月で杖がいらなくなりましたね。
杏子さん(母):そうなると気持ちも前向きになって、それまでは家からほとんど出なかったのですが、積極的にお散歩にも行くようになりました。するとご近所のかたから「杖どうされたんですか?」ってお声をかけていただいて。それまでお話すらしたことがないかたでしたが、どこからか見てくださっていたんでしょうね。
――その方も驚かれたことでしょう。
かんなさん(娘):あと、昨年から社交ダンスも始めたんですよ。
杏子さん(母):そうなんです。ずいぶん前、子育てがひと段落した頃に習っていたのですが、ずーっとお休みしていまして。まさか今になって再開するとは思っていませんでしたが、いざ始めると楽しいですね。
かんなさん(娘):体重も4kg痩せたんです。
杏子さん(母):本当はもう少し体重を減らしたいんですが、なかなか難しいですね(笑)。
――かんなさんのレッスンでは、ダイエットのサポートもされているんですか?
かんなさん(娘):ダイエットを目的に通っていらっしゃるお客さまには、お食事などの相談にものっています。ただ母の場合は食欲が旺盛で(笑)。でも、年齢を重ねると食が細くなるところ、たくさん食べられるのはいいことだと思うので、あまり制限は伝えていません。
――それもそうですね。
かんなさん(娘):手前味噌かもしれませんが、やはり母の変化はすごいと思っていて、他の高齢者のかたがたにも、トレーニングの大切さを伝えていきたいと思っています。
なのでSNSでは母のことも発信しているんです。それを見た友人がお母さんと一緒にトレーニングを始めたり、紹介したりしてくれて。地道な活動ですが、続けていきたいですね。
――ちなみに、ご年配のかたのレッスンをする際に気をつけていることはありますか?
かんなさん(娘):体の状態や目的にもよりますが、多くは日常生活の動作を痛みなくできるようにすることが第一目標だと思いますので、まずは「椅子から立つ、座る」「階段を登り降りする」といったところからスタートします。
ある程度日常生活で困らないような体作りができたら、次はご本人のやりたいことを導入。ゴルフやテニスなど、趣味として楽しんで続けられるようにサポートして、体を動かすことを習慣化してもらえるよう心がけています。
対面でセッションするパーソナルトレーニングは
コミュニケーションツールの一つにもなる
――昨今いろんなジムやスタジオがあり、トレーニング自体はもはや当たり前のこととなっていますが、今後ますます「パーソナル」の需要が上がりそうですね。
かんなさん(娘):そうですね。そのぶんトレーナーの数も増えているので、私たちトレーナーは「お客さまから選ばれる立場」として、なにかオリジナリティだったり、強みだったりがより必要になってくると思います。
高齢者向けのサポートができるというのもその一つですね。あと最近お客さまと話していて驚いたのが、子ども向けのレッスン(幼児教室)です。
その方は30代なのですが、2歳のお子さんがいらして、幼児教室に通っているそう。そこではリズム体操などを取り入れ、トレーナーが指導しているようなんです。なぜ通わせているのか理由を聞いたら、「家でYouTubeばかり見ているから」と……。最近の子は、人と対面して遊ぶ(体を動かす)ということが、わざわざそういう状況をつくらないと難しいようです。その様子を心配して通わせている、とのことでした。
――なんと……。
かんなさん(娘):時代ですね。でもそれって子どもだけでなく大人も同じ。何かわからないことがあってもインターネットで調べればすぐに出てくるので人に聞くことが少なくなりましたし、コロナ以降はリモートも進み、人との関わりがますます減っているのは明白です。
そう考えると今の若い人たちはコミュニケーション不足と言われるのも納得。でもなにか対策が必要です。パーソナルトレーニングは対面でセッションするので貴重なコミュニケーションの場の一つになるのかも、と思っています。
――確かに。それって「パーソナルトレーナー」のやりがいや魅力の一つにもなりますね。
かんなさん(娘):そうですね。私は40歳から始めたトレーニングで人生が変わりました。実はボディメイクの大会の他にも、41歳で初めてフルマラソンに参加して完走したり、ミセスコンテストに出場したり、いろいろなチャレンジを始めたんです。私も母と同じように、トレーニングを始めたことで気持ちが前向きに、充実した毎日を送れるようになっているんですよ。
この経験をお客さまにも体験してもらいたい。トレーニングをきっかけに、人生を変えて欲しい。今はその気持ちで活動しています。
もちろんお客さまの性格タイプによってサポート方法は異なりますが、「このかたの才能をもっと生かせるようにしたい」という思いは同じ。体も心もいい方向に導いてあげられるように、精一杯努めていきたいと思っています。
何かにチャレンジし続けるトレーナーは
言葉にも説得力が増す
――素敵ですね。ちなみに今後の目標や夢はありますか?
かんなさん(娘):自分のスタジオを持ちたいです。そこではトレーニング以外のサポートもできる場所にしたいですね。
例えばリラクゼーション。以前趣味の延長でセラピストの勉強をしていたので、オイルを使ったマッサージやかっさなどの施術もできるといいなと思いますし、健康的な体には食事も欠かせないので、発酵食品のアドバイスなども。これも以前講座に通っていたのですが、今でも趣味でお味噌作りや発酵食品作りを続けているので、それをお伝えできればと。
――楽しみですね! これからパーソナルトレーナーを目指す人に何かアドバイスをいただけますか?
かんなさん(娘):この仕事はやりがいがあって充実感もありますが、その分競争率も高くなっています。オリジナリティや強みで違いを出すのも大切ですが、それ以前に魅力的な人でいることがもっとも重要です。
キャリアが長く魅力的なトレーナーほど、5年、10年お付き合いしているお客さまがいるもの。そういう頼ってもらえるトレーナーになれるよう、自分の魅力はなにかを考え、磨いていってほしいと思います。
――ありがとうございました。最後にパーソナルトレーナーの心得3箇条を教えてください。
・常に学びをやめないこと
・魅力的な人でいること
・チャレンジしていること
かんなさん(娘):魅力にもつながりますが、何かにチャレンジし続けている人は素敵ですし、人に物事を伝える際に説得力が出ます。そういうトレーナーは、お客さまからも信頼されると思いますよ。
取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄