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ヘルスケア 2024-04-19

言語聴覚士でありハンデのある子の親として、小児支援に寄り添う【介護リレーインタビュー Vol.45/言語聴覚士 佐々木美都樹さん】#1

介護業界に携わる皆様のインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。

今回は、訪問看護の言語聴覚士として働きながら、小児専門のオンライン相談サービス「ことばの相談室 Hopal(ホパール)」を運営している佐々木美都樹さんに、お話をお聞きします。

前編では、佐々木さんが言語聴覚士になった経緯やお仕事の道のり、そして「ことばの相談室 Hopal」での活動についてお聞きします。

お話を伺ったのは…
言語聴覚士 佐々木美都樹さん

北里大学言語聴覚療法学専攻を首席卒業。言語聴覚士免許(国家資格)及びパーキンソン病治療「 LSVT®︎LOUD」ライセンス所持。マカトン法ワークショップ基礎1修了。PECS®︎レベル1ワークショップ修了。成人を対象とした外来リハビリテーション施設・訪問リハビリテーション施設・介護老人保健施設、小児を対象とした児童発達支援事業所に勤務。息子の病気をきっかけに、相談・リハビリテーション事業を立ち上げる。現在は、児童発達支援事業所で勤務する傍ら、「ことばの相談室Hopal」を運営している。

Instagram:@sasaki_mizuki_st

高校時代から志望していた言語聴覚士への道。
転機は生まれた我が子が支援を受ける側になったこと

――まずは佐々木さんが言語聴覚士になろうと思った経緯を教えてください。

高校時代の知人に、滑舌が不明瞭な方がいました。それまで、そういった方に会ったことがなく、同じ日本語を話しているはずなのに聞き取れない、会話が難しいという状況に初めて陥ったんです。とても衝撃を受けたとともに、言葉や会話のコミュニケーションの重要さを感じ、興味を持ちました

そのことを医療従事者である母に伝えると、言語聴覚士という仕事があることを教えてくれたんです。そこで言語聴覚士になることを決め、資格取得が目指せる大学を志望しました。

――大学卒業後はどんな活動をしていましたか?

成人の方を対象とする外来リハビリや通所リハビリ、訪問リハビリなどで、言語聴覚士として、6年ほど勤務しました。

でも高校、大学と言語聴覚士になることを目指して、無我夢中で勉強していたころと比べると、ずっと同じモチベーションで働けていたわけではありませんでした。もちろんやりがいはありましたが、漠然と「この仕事しか知らなくていいのかな」という気持ちがあったんです。

ただ、そこから転職するとなると違ったスキルも必要になってきますから、実際に何か行動したわけではありませんでした。そうこうしているうちに妊娠・出産というライフイベントが発生して、仕事は一度お休みに入りました。

――現在は小児を対象とした活動をされていますが、きっかけは出産でしょうか。

そうですね。妊娠中から子どもの調子があまりよくなくて、生きるか死ぬか、どのくらい妊娠が継続できるのか、生まれた後どうなるのか、すべてがわからない状態で。お腹のなかで成長してくれることが理想だったのですが、29週ごろ、胎児の状態が徐々に悪化してしまったのです。お腹にいて欲しいギリギリまで待って、なんとか帝王切開で出産しましたが、そこから半年ほど入院しました。その入院中から、息子がリハビリを受ける立場になったんです。

リハビリのスタートは本当に早くて、NICUにいる時から理学療法士さんに体を動かしてもらったり、言語聴覚士さんがお口にミルクを含ませてくれたりしました。在宅看護になってからも、どこまで発達を促していけるか、リハビリに関わる皆さんが一生懸命考えてくださったんです。

そうして息子がリハビリを受ける側になったことで、小児分野の言語聴覚士の需要の高さを実感しました。成人の領域で働いている時も言語聴覚士が少ないとは聞いていたんですが、周りでたくさん働いていたので人手不足の実感はなかったんです。でも小児領域にきたら、「言語聴覚士の数が足りないためリハビリが受けられない」という話を本当にたくさん聞きました。

私自身も、病気や障がいを持つ子どもの親という立場を経験しているので、子どもにリハビリを受けさせてあげたいという親側の気持ちが、とてもよくわかります。だから子どもの訪問リハビリや、児童発達支援事業所での支援に関わるようになりました。

我が子の支援と仕事の両立のため
オンライン相談室をスタート

――「ことばの相談室 Hopal」を始めた経緯を教えてください。

息子は医療的ケアが必要なので保育園に通うことが難しく、看護師が常駐している児童発達支援事業所では預かりが5時間ほどと、働ける時間がかなり短くなりました。加えて、子どもの受診や訓練などの付き添いもあるので、それまでのように働けるわけではなく…。スポットのパートで働くこともできますが、職場までの移動時間も惜しいと思ったんです。

そこで、1人でも2人でもいいから何か力になれたらという気持ちで、オンライン相談室を始めることにしました。

――Hopalでは、どんな活動をしていますか?

メインとなる活動は、zoomを使ったオンライン相談です。ホームページからご予約いただき、20分間、または60分間お話します。60分間の相談の場合は、お話した後も2週間ほどLINEでのフォローアップも行っています。

加えて、自費の訪問リハビリも行っています。ホームページからお問合せいただいたら、訪問可能な場所かを確認した後、日時を相談。遠方でご希望の場合は、私の自宅近くのレンタルスペースなどで行う場合もあります。

訪問したら、まずは遊びを通して発達等の評価を行います。すぐに検査や訓練をして欲しいと思う方も多いと思いますが、お子さんからすると「いきなり知らない人が家に来て、何かよくわからないことをしてくる…」という状況。どうしても萎縮してしまうので、最初の関係性作りがとても大切なんです。

遊びの中で、ものの名前を聞いてみたり、どのくらいのやり取りができるのか、さまざまな面から評価をしていき、保護者の方に見立てをお伝えします。そして、お子さんとの関係性ができたら、踏み込んだ訓練に入っていきます。

その後は、見立てを聞いて安心されて単発で終わる方もいれば、2週に1度など定期的に訪問を希望される方もよくいらっしゃいます。

小児支援を通して保護者の不安と心配を実感
「支援者と当事者家族の架け橋になりたい」

――Hopalを始めてみて、いかがですか?

オンライン相談には、言語聴覚士の支援が受けられていない方からの相談ももちろんありますが、すでに支援を受けている方からの相談も意外と多いです。今の支援でいいのか不安を感じていたり、担当の言語聴覚士さんとの関わり方に悩んでいたり。そういった相談は、あまり想定していなかったのですが、需要としてはとても高いと感じました。

また訪問リハビリは、発達が遅れているか判断しきれない、健診で「少し気になるけど様子を見ましょう」と言われた…といった、いわゆるグレーゾーンのお子さんなど、どうしても制度と制度の狭間にいて支援が受けにくいお子さんからのご利用が多いです。

言語聴覚士の法令に基づき、障がいの有無の診断や嚥下障害分野に対する助言はできません。でも保護者のみなさんは、そのあたりも含めてすごく不安に思われていると感じます。その気持ちは痛いほどわかるので、断言はできないにしても、いろんな方向からの評価や、その子の得意・不得意などをお伝えして、少しでも不安も取り除けるように関わっています。

あとは、両親ともに共働きで平日の日中に開いている事業所に通いにくいご家庭は、土日に支援を受けられるということで、ご利用いただくことも多いですね。

本来、公的な制度内の支援であれば、実費負担はほとんどない分野なんです。でも「お金を払ってでも支援を受けたいという方が、こんなにいるんだ」と気づきました。Hopalを始めたことで、そういった事情を知ることができたので、とても大きな学びになりました。

――活動の中で力を入れていることは?

私は、言語聴覚士と障がいを持つ子の親の立場をどちらも経験しています。こういう経験は、なかなかないことだと思うんです。親の立場になり、改めてわかったこともたくさんあります。小児対象の言語聴覚士が貴重な存在である一方、せっかく繋がれた言語聴覚士の訓練の意図がわからず、不安を感じてしまう。どうして、そうした齟齬が生まれてしまうのかもわかりました。

だから、言語聴覚士目線で、どういった想いで保護者に接しているのか、訓練の意図をわかりやすく説明すること。逆も然りで、どういうところで信頼関係が作れるか、どんなことを言われると不信感に繋がるのかという、親目線の気持ちを言語聴覚士や医療従事者に伝えていく。そんな、架け橋のようなことができたらと思っています。


後編では、佐々木さんが言語聴覚士のお仕事をするうえで大切にしていること、これから言語聴覚士を目指す方へのアドバイスをお聞きします。

取材・文/山本二季

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