訪問介護の特定事業所加算とは? 新設される特定事業所加算Ⅴを含めて解説!
訪問介護は一般的にホームヘルプサービスともいわれており、訪問介護員という正式名称のホームヘルパーが利用者宅を訪問し、身体介護や生活援助などのサービス提供をおこなうというものです。
ホームヘルプサービスは介護保険制度が始まる前から、在宅福祉サービス三本柱のひとつとして重要な役割を担ってきました。介護保険では訪問介護といわれるようになったサービスですが、そこで算定できる特定事業者加算とはどのようなものかを、概要や加算の要件などについて説明します。
- 訪問介護の特定事業所加算とは?
- 特定事業所加算Ⅰの要件について解説!
- 1. 計画的な研修の実施
- 2. 基準に従った指定訪問介護が実施されていること
- 3. 定期健康診断の実施|常勤・非常勤に実施
- 4. 緊急時の対応方法の明示|利用者に安心を
- 5. 訪問介護員等の割合|介護福祉士30%以上など
- 6. サービス提供責任者|3年以上の実務経験がある介護福祉士など
- 7. 利用者の割合|要介護4・5や認知症などの利用者が合わせて20%以上
- 特定事業所加算Ⅱの要件について解説!
- 特定事業所加算Ⅲの要件について解説!
- 特定事業所加算Ⅳの要件について解説!
- 令和3年度新設|特定事業所加算Ⅴの要件について解説!
- 取得できるように算定要件をしっかり確認しておこう!
訪問介護の特定事業所加算とは?
介護報酬には、サービスの質を高めるという目的でさまざまな加算が設定されていますが、訪問介護に設けられている加算のひとつに特定事業者加算があるのです。ここでは、その概要や加算を受けるための要件などをご紹介します。
特定事業所加算とは|質の高いサービス提供を促すインセンティブ
特定事業者加算は、重度者対応など質の高い訪問介護サービスを提供する事業所を評価する、という目的で定められている加算です。逆にいえば、特定事業者加算を算定できる事業所は質の高い介護サービスを提供しているということにもなりますが、通常の報酬にどの程度加算されるのか、また加算を算定するための要件などを紹介します。
加算率はどれくらい?
それでは、特定事業者加算の加算率を見ていきましょう。特定事業者加算にはⅠからⅣまで種類あり、それぞれの加算率は以下のとおりです。
・特定事業者加算Ⅰ:20%
・特定事業者加算Ⅱ:10%
・特定事業者加算Ⅲ:10%
・特定事業者加算Ⅳ:5%
・特定事業者加算Ⅴ:3%
このあとの項目で、各加算を算定するための要件を見ていきましょう。
特定事業所加算Ⅰの要件について解説!
5種類ある特定事業者加算のなかでもっとも加算率の高いのが、特定事業者加算Ⅰです。同加算の基本となるⅠですが、以下のすべての要件を満たす必要があります。その要件とは、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
1. 計画的な研修の実施
加算を受けるための要件として最初にあげられるのは、「すべての訪問介護員などに対し、訪問介護員などごとに研修計画を作成し、当該計画に従い研修を実施または実施を予定していること」という点があります。
単に研修をすればいいというものではなく、すべての訪問介護員に対して個別かつ具体的な研修計画をつくり、その計画に沿って研修をおこわなければなりません。
2. 基準に従った指定訪問介護が実施されていること
特定事業者加算Ⅰを算定するためには、以下のとおり定められた基準に沿った指定訪問介護をおこなわなければなりません。具体的な基準は2つありますが、それぞれの基準を見ていきましょう。
(1)会議の定期的開催|すべての訪問介護員が参加
ひとつめの基準としては、すべての訪問介護員が参加する会議の開催というものがあります。参加できない訪問介護員がいる場合、議事録を回覧するというだけでは不十分で、個別で会議内容を伝達する講習をおこなうなどの対応が必要です。
(2)文書などによる指示やサービス提供後の報告|電話はNG!
訪問介護をおこなう都度サービス提供責任者からの指示、またサービス提供後の報告を文書でおこなうというのも、指定訪問介護の基準になります。指示や報告は文書によることが求められ、口頭や電話では認められないという点には注意が必要です。
3. 定期健康診断の実施|常勤・非常勤に実施
特定事業者加算Ⅰを算定するためには、事業所内の訪問介護員に対し、定期健康診断を実施する必要もあります。この際、訪問介護員の雇用形態は問わないので、短時間勤務などの非常勤職員も含め、全員の健康診断をおこなわなければなりません。
4. 緊急時の対応方法の明示|利用者に安心を
緊急時等における対応方法が利用者に明示されているという要件も、指定居宅サービス等基準第29条第6号で規定されています。これは加算を算定するためだけでなく、利用者が安心してサービスを利用できるようにするためにも重要なことです。
5. 訪問介護員等の割合|介護福祉士30%以上など
特定事業者加算は、質の高いサービスを提供する事業所が算定できる加算です。そのため、訪問介護員が、以下のうちいずれかの割合を満たさなければなりません。
・介護福祉士が30%以上
・介護福祉士・実務者研修修了者・介護職員基礎研修課程修了者・ホームヘルパー1級修了者が50%以上
6. サービス提供責任者|3年以上の実務経験がある介護福祉士など
特定事業者加算の算定要件としては、サービス提供責任者の実務経験もあります。以下のうちいずれかの割合を満たさなければなりません。
・3年以上の実務経験を有する介護福祉士
・5年以上の実務経験を有する実務者研修修了者もしくは介護職員基礎研修課程修了者・ホームヘルパー1級修了者
7. 利用者の割合|要介護4・5や認知症などの利用者が合わせて20%以上
「前年度、または前3カ月で要介護4・5の利用者、認知症(日常生活自立度Ⅲ以上)の利用者、喀痰吸引などの行為が必要な利用者が合わせて20%以上」という事項も、特定事業者加算を算定するために必要です。
特定事業所加算Ⅱの要件について解説!
特定事業者加算Ⅱについては、Ⅰより加算率が低いぶん、算定基準はⅠよりは多少緩くなっています。特定事業者加算Ⅱを算定するには、特定事業者加算Ⅰの算定要件のうち、以下の1~4すべてを満たしたうえで、5または6のいずれかを満たす必要があるのです。
1.計画的な研修を実施していること
2.基準に従った指定訪問介護を実施していること
3.訪問介護員の定期健康診断を実施していること
4.緊急時の対応方法を明示していること
5.訪問介護員の有資格者割合を満たすこと
6.サービス提供責任者の実務経験年数を満たすこと
特定事業所加算Ⅲの要件について解説!
特定事業者加算Ⅲの算定要件としては、特定事業者加算Ⅰの要件のうち、以下のすべてを満たさなければなりません。
1.計画的な研修を実施していること
2.基準に従った指定訪問介護を実施していること
3.訪問介護員の定期健康診断を実施していること
4.緊急時の対応方法を明示していること
5.前年度もしくは前3カ月の利用者における要介護度などの割合を満たすこと
特定事業所加算Ⅳの要件について解説!
特定事業者加算Ⅳを算定する際も要件があり、以下に示すすべての基準に適合する必要があるのです。その詳細を説明します。
1. 特定事業所加算
特定事業者加算Ⅰの要件のうち、以下の基準すべてを満たさなければなりません。
1.基準に従った指定訪問介護を実施していること
2.訪問介護員の定期健康診断を実施していること
3.緊急時の対応方法を明示していること
2. サービス提供責任者
サービス提供責任者全員に対して、管理者ごとの研修計画を作成したうえで計画に沿った研修を実施する・もしくは実施予定であることも、特定事業者加算Ⅳを算定するのに求められる要件です。
3. 常勤のサービス提供責任者の配置
サービス提供責任者の配置基準も、特定事業者加算Ⅳ算定の要件のひとつです。常勤のサービス提供責任者が2人以下の事業所では、規定で配置が必要なサービス提供責任者を常勤で配置することにくわえ、規定以上の常勤のサービス提供責任者を1人以上配置している必要があります。
4. 利用者割合
特定事業者加算Ⅳ算定のためには利用者割合の要件もあり、「利用者総数のうち、要介護3~5の利用者と介護を必要とする認知症の利用者、そのほか介護を必要とする利用者の占める割合が60%以上である」ことが必要です。
令和3年度新設|特定事業所加算Ⅴの要件について解説!
2021年度の介護報酬を決定するにあたり、訪問介護事業所における特定事業者加算について見直しがなされました。この加算が質の高い介護サービスを提供する事業所を評価する、という観点で設けられたという経緯を踏まえ、区分支給限度基準額の対象外となる加算に特定事業者加算もくわわったのです。
加算区分として、新たに特定事業者加算Ⅴが新設されました。特定事業者加算Ⅴを算定するには、以下に記載する基準両方に適合する必要があります。この加算は、特定事業者加算Ⅲとの併算定が可能ですが、特定事業者加算のⅠ・Ⅱ・Ⅳとの併算定はできないので注意が必要です。
1. 特定事業所加算
特定事業者加算Ⅴを算定するには、特定事業者加算Ⅰの算定要件のうち、以下の1~4すべてを満たす必要があります。
1.計画的な研修を実施していること
2.基準に従った指定訪問介護を実施していること
3.訪問介護員の定期健康診断を実施していること
4.緊急時の対応方法を明示していること
2. 訪問介護員等の割合
特定事業者加算Ⅴを算定するには、訪問介護員などの勤務年数の要件も満たす必要があります。具体的には訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上のものの占める割合が30%以上でなければなりません。
取得できるように算定要件をしっかり確認しておこう!
ここまで訪問介護事業所の特定事業者加算について、その種類や算定するための要件を紹介してきました。この加算を算定できるということは「質の高い訪問介護サービスを提供している」という証拠になりますが、さまざまな要件を満たす必要があります。
事業所としては「加算の要件を満たすためにはどのようなことをすべきか」という観点をもってしまいますが、質の高いサービス提供により加算を受けられるという原点に立ち返り、要件を再確認しておくようにしましょう。
参照元:
厚生労働省 訪問介護・訪問入浴介護の報酬・基準について(検討の方向性)
【公式】Care-wing 介護の翼 【令和3年度報酬改定】特定事業所加算(訪問介護)の見直し検討
【令和3年度 最新版】訪問介護の特定事業所加算要件について