時には「頼る」ことも大事。ピンチをチャンスに変える人脈の力 パール美容室 関 京子さん#1
「いずれ独立したい!」という想いを実現するには、さまざまな方法があります。数ある独立の形を前編・後編の2回にわたってご紹介します。
今回ご登場いただくのは、サロンの経営と併せて訪問美容に携わっている関 京子さんです。勤めていたサロンが突然クローズし、独立せざるを得なかった関さんがご自身のサロンを持ち、さらに訪問美容師になるまでをお話しいただきました。
お話を伺ったのは…
訪問美容 パール美容室
代表 関 京子さん
平成7年に山野美容専門学校を卒業後、チェーン展開しているサロンに10年ほど勤務。相模原市の老舗サロンに転職して5年勤めるも、オーナーから突然「閉店」を宣告される。その後、ご自身のサロン「パール美容室」を創設し、訪問美容師として活動している。
困ったことが起こると必ず助けてくれる人が出現!
—–チェーン展開しているサロンを辞めるとき、「独立」は考えなかったのですか?
その当時はまだ、「独立して自分の店を持ちたい」とか「フリーの美容師になる」という夢はありませんでした。最初に勤めていたサロンを辞めたのも、居心地の悪さを感じたからです。若い人たちが中心になって店を回していて、30歳を過ぎた美容師たちは次々に退職していました。私も「そろそろ自分も辞めて、次の店を探さないと…」と思っていました。
—–次に勤めるサロンは、どうやって探しましたか?
私の行きつけの喫茶店で、その店主に「今のサロンは居心地が悪くて、次の勤め先を探している」という話をしていました。その話を覚えていた店主が、次に勤めるサロンのオーナーを紹介してくれたんです。私が勤め始めたとき、そのサロンの大先生が86歳、オーナー兼若先生が52歳。もう一人の75歳になるベテラン先生が「もう年齢的にキツいから引退したい」ということでした。オーナーはその後任を探していて、ちょうどタイミングが合ったんですね。私が喫茶店の店主に相談していなかったら、この出会いはありませんでした。
—–大先生も若先生もかなりご年配ですね! お客様の年齢は?
70代、80代の方が中心でした。50年ほど前に大先生が始めたサロンで、その当時から通っていらっしゃる方がほとんど。月に1回、必ずカラーかパーマでいらっしゃっていました。みなさんすごくお洒落に気を遣っていて、「ずっとキレイなままでいられるって素敵だな」と思っていました。
—–そのサロンも、関さんが36歳のときに閉店してしまうんですね。
ある日突然、「来月、このサロンを閉めます」と宣言されました。何の予兆もなかったので、本当にビックリ! この先どうしよう…と不安になりました。オーナーでもある若先生が、「サロンは閉めるけれど、ここは自由に使っていい」とおっしゃってくださったので、しばらくの間、面貸ししてもらいました。
—–このときは、別のサロンに就職することは考えなかったのですか?
就職することは考えませんでした。自分の思うとおりに働けて、誰かが決めた枠の中に入らない自由な環境がいい…と思うようになりました。そうは言っても、固定給がなくなったので、美容師の仕事以外にアルバイトもしました(笑)
—–その頃にご自身のサロンをようやく見つけたんですね。
若先生の同級生の妹さんが、前の美容室にもよくいらしていて、私の事情をよくご存知だったんです。その方が不動産をいくつかお持ちで、「サロンに使えそうな物件がある」と教えてくれました。アパートの一室ですが、サロンとして使えるように保健所の許可もきちんと取りました。
—–ここでも人のご縁ですね。
本当に人に恵まれています。何か困ったことが起こると、必ず誰かが助けてくれます。
保健所に申請したときも、つくづく感じました。担当の人が実際にサロンを訪れてチェックするのに立ち会いながら、「いよいよ自分のサロンが持てるんだ」と思いました。
友人の勧めで始めた訪問美容。今では仕事のメインに
—–関さんのサロンは「パール美容室」という名前ですが、その由来は?
前に勤めていた老舗サロンから引き継ぎました。50年も続いた店なのに、名前がなくなってしまうのはもったいないですから。
—–新しいサロンにいらっしゃるお客様は、どうやって開拓しましたか?
前のサロンから引き続きいらっしゃる方、私の友人とその子どもたちです。上は65歳、下は中学生と幅広い年代の方がいらしています。
—–訪問美容を始めたきっかけは何ですか?
前に勤めていたサロンがまもなく閉店するというとき、友人から「介護施設で美容師を探している」と聞いて、応募しました。前にいた美容師さんは掃除が雑で、どうも介護施設のスタッフさんたちの評判が悪かったようです。すべてが初めてのことなので、どうすればいいのかスタッフさんに聞いても「お好きなようにやってください」と言われるだけ。最初は床に新聞紙を敷き詰めた上にイスを置いてカットしていました。
—–誰にも聞けない状況は怖かったのでは?
今までお洒落が好きなご年輩の方の施術をしていたので、勝手がまったく違いました。
「どんな風にカットしますか」と聞いても「分からない」。何を聞いても「お任せします」という答えなので、「本当に任されていいのか」と不安になりました。介護施設のスタッフに聞いても「普通にやればいい」と言われるのですが、私の「普通」はここの「普通」とは違うので、何が「普通」なのか、とても悩みました。
—–分からない部分はどうやって勉強したのですか?
ホームページで訪問美容の勉強会をする…という告知を見つけて、「これだ!」と思いました。分からないことだらけで不安を感じながら仕事をするよりは、教えてもらった方が安心できますから。
例えば、寝たきりの方の髪をカットするにはどうしたらいいのか、実際にこの目で見て体験しないと分かりません。この勉強会で「グリーン美容室」の代表、和田寛之さんと知り合って、いろいろと教わることができました。今では、私の時間が空いているときは和田さんのお仕事を手伝うようになりました。
—–定期的な訪問美容の仕事はありますか?
私が初めて訪問美容をした介護施設とのお付き合いがもう10年になります。この施設の系列が6か所あって、その施設の訪問美容も任されています。
訪問美容以外でも、介護の勉強をしたくてデイサービスで月3回のペースで働いています。
—–個人のお宅に伺う訪問美容もやっていますか?
和田さんからの依頼で個人のお宅に伺うこともありますし、お客様からのご紹介もあります。私が定期的に伺っているデイサービスの施設を利用している方から依頼されることもあります。
—–関さんの中で「今までの経験が生きている」と感じることはありますか?
前のサロンでは年配のお客様が多かったので、今の接客に生かされています(笑)
施術に関して言えば、専門学校で習った「昔ながらの技術」が生きています。勉強していたときは「こんな技術、誰が使うんだろう?」と思っていましたけれど(笑)。
今は訪問美容を利用する方の美意識もだいぶ変わってきました。最新の技術を提供することも必要なので、勉強は欠かせません。
お客様の喜ぶ顔が見られると本当に嬉しいです。
独立するまでに心がけておきたい3つのポイント
1.叶えたいことや悩んでいることは、1人で抱え込まずいろいろな人に伝える
2.チャンスがきたら迷わず受ける
3.足りない知識は活動を続けながら補う
関さんは困ったことが起こるたび、いろいろな人から手を差し伸べられてきた強運の持ち主。この強運を味方にしたのは、関さんの人脈を育てる力にあります。困っていることをまわりに伝える「アピール力」、チャンスを逃さない「瞬発力」、引き受けた仕事をやり遂げる「責任感」が、関さんの大きな魅力。
後編では、サロンワークと訪問美容の両立、訪問美容のやりがいについて語っていただきます。