どんぶり勘定から脱して見えたもの。投資が上手くなれば会社は伸びる【GULGUL代表 大河内隆広さん】#1
美容業界で「財務のプロ」と呼ばれる人がいます。東京・千葉エリアで複数のサロンを展開する「GULGUL」代表の大河内隆広さんです。業界では珍しかった個室スタイルを導入し、安定した売上を築けていた反面、経営は綱渡り状態。「いつ潰れてもおかしくなかった」と言います。
前編では、個室型サロンが当時からウケた理由や、「財務」を本格的に学んだことによって身に付いた経営者視点についてお話しいただきます。
教えてくれたのは
「株式会社GULGUL」代表取締役 大河内隆広さん
18 歳で美容師となり、25 歳で美容メーカーに転職。30 歳で美容室経営者となり、第一号 店を新小岩にオープン。現在は東京・千葉に美容室、ドライヘッドスパ専門店を合わせて17店舗を展開。美容師仲間の⻄川礼一氏と鈴木淳也氏とともにオンラインサロン「NO LIMIT」「ONE MILLION」を運営。
テナント料の相場もわからず、見様見真似で66坪を借りた
――これまでの経歴を簡単に教えてください。
18歳で美容師になり、7年ほど働いていました。美容師になったからには「いつか自分のお店を持ちたい」というビジョンはありましたが、大型店が流行っていた当時、個人店を出したところで太刀打ちできない。美容室経営は自分には無理だなと。とはいえ、ブラックな労働環境下で働き続けることはキツかったので、美容メーカーに転職したんです。それが25歳のとき。
――メーカー勤務から美容室経営者になった経緯とは?
美容メーカーでは営業をしていたので、全国の美容室のオーナーさんと話すことが多くて。講習会のあとに「これってどう思う?」とオーナーさんの相談によく乗っていたんですよ。それで「この人たち、意外に何も考えていないな」と気づき、自分の方が上手く経営できるんじゃないかな?と思うようになり…。まだ20代の若造だったので、勘違いしちゃったわけですよ(笑)。
美容師、メーカーの立場、オーナーの視点、それぞれの観点から美容業界を見てきたので、自分ならどんな美容室経営ができるのか試してみようって。で、30歳でオープンしたのが、ここ新小岩店です。
――一店舗目にしては結構広いテナントを借りたのですね。
1・2階合わせて66坪あるので、相当広いと思います(笑)。
当時は知識が何もなかったし、テナント賃料もいくらが相場なのかも全然わかりませんでした。取りあえず、先に独立した美容師仲間を参考にしたんですけど、彼が40万で借りていて、それで上手くお店をやっていたので、僕も何も考えずに40万くらいで探したんです。
「プチ贅沢」をコンセプトに個室型サロンへ
――「個室型サロン」というのは珍しいですよね。どんな狙いが?
数年後に感染症が流行ることを見越して個室にしました、と言いたいところなんですが(笑)、実際は、せっかく広い物件を借りたので、広さを活かして何か面白いことができないかなと思ったんです。
ここを構えたのが14年前なんですけど、当時流行っていたのが「プチ贅沢」だったんです。VIPとまではいかなくても、庶民でもちょっと頑張れば手が届くような贅沢。そんな美容室にしようと思ったんです。
各部屋にテレビを置いて、照明の明るさも調整できるようにしました。圧迫感があると重厚感が出て「プチ贅沢」ではなくなっちゃうので、空間を完全には閉ざさず、でも、プライベートが守られ、ある程度のスペースがあり、開放感のある個室を目指しました。
――お客様の入り具合はいかがでしたか?
すごく良かったですよ。「個室」が珍しがられましたね。
あと、オープニングキャンペーンもちょっと変わったものを打ち出したんです。「10人に一人、ニンテンドーDSを差し上げます」というものなんですけど、きちんと任天堂に許可を取り、ゲーム機を買いに行って、直接お客様に手渡ししていました。お客様の食いつきはかなり良く、家族で来てくれる方もいました。
当時のDSは確か1万7000円くらい。10人に一人が当たるということは、一人1500円の割引をするのと同じですよね。オープニング割引として15〜30%の割引をする美容室が多かった中、僕はオープニングといえど、定価で売っていきたかったんです。
――お客様からすると大盤振る舞いという印象を受けますね。
そうですよね。サロン的には実は一人当たりの割引率はそうでもなく、話題性をつくれたかなと。
どんぶり勘定経営者は9割超え。数字がわかると投資が上手くなる
――本格的に経営を勉強したのはどのタイミングだったのですか?
売上は結構良くて、周囲からも「売上すごいね」と言われていたんですが、なぜかお金が貯まらなくて。というか、利益がないってことにも最初は気付けていませんでした。いわば通帳経営だったんです。正直、いつ潰れてもおかしくなかったです。
出店にどのくらいの金額をかけて良いのかさえわかっていなくて「なんとなく2000万円くらい?」って感じ。3店舗目までいくと、スタッフ数も20人ほどに増え、自分がハンドル操作をミスったらかすり傷では済まないのでは…?という危機感がそこで芽生えたんです。
――ミスする前に気づけたのは幸いでしたね。確か、勉強に400万円ほど費やしたと伺いました。
その頃の教材といったらメルマガくらい。飲食店経営者のメルマガをよく読んでいたんですが、同じ店舗業なのに、年間50店舗も出店できるのは何でだろう?と思ってたんですよ。うちは売上が取れているにも関わらず、一年に一店舗出すのも大変なのにって。その違いには「財務」というロジックがあることを知ったんです。
そこで、財務のコンサルタントに「会いたいです」とメールを送り、年間360万円で直接教えてもらうことに。さらに、6回講座70万円のビジネス塾にも通いました。その2つでかなり知識がつき、考え方も変わりました。利益も桁違いに増えていきましたね。
――具体的に何かを変えたんですか?
何も変えていません。数字を知ったことです。
経営者は決算書を一年に一回つくりますが、どのくらいの投資をして、どれだけ回収をして、という立て付けがそこにあるんですね。一店舗を出店するにあたり、どれだけの売上と利益を見越しているのか、その利益で投資分を回収するのにどのくらいの期間がいるのか、という会計処理をしたことで、今までどんぶり勘定でやっていた「なんとなく」の部分が全部すっきりしたんです。数字をしっかりと見つめ直せたことで投資が上手くなりました。いくら使えるかもわかるし、どのくらい使わなければいけないかもわかる。「使いすぎ」のジャッジもできる。みんな「どんぶり勘定」でやっているから上手くいかないんです。
――オンラインサロン「NO LIMIT」の受講者のうち、「どんぶり勘定」をしている経営者は実際どのくらいの割合なんでしょうか?
98%くらいはそうだと思います。プレイヤーの延長として経営をやっている感じ。自分もそうだったし、それでもやれちゃうのが美容室経営ですからね。
僕が受講者のみなさんによく言っているのは「財務を知らないで会社を運営するのは、目隠しをしながら車の運転をするようなものだ」ということ。そう考えると怖いでしょ。会社の経営とは利益を生んでこそのものだから、決算書や試算書に興味を持とうとせず、数字を把握しようとしないなら上手く投資ができなるわけないよね。きちんと数字を見つめ直せると投資が上手くなります。投資が上手くなると会社も伸びます。
大河内さんの店舗運営のコツ
1.テナントの広さや間取りを活かした空間活用をする
2. オープニングキャンペーンは金額の値引きにこだわらず、ユニークに打ち出す
3.決算書や試算書から目を背けない。数字に強くなれば投資すべきポイントがわかる
経営に関しては無知だったとのことですが、もともとプロデュース力には長けていたよう。財務を学び、投資のコツを習得した大河内さん。それはその後のサロン展開からも見て取れます。後編では、GULGULならではの早期デビューカリキュラムや、小規模出店のリスクについて教えていただきます。
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/喜多二三雄