美容師は営業職の無双キャラ?店販で勝ち取るお客様からの信頼感【tida smile代表/栄田光平さん】 #2
引き続きゲストは、店販をキーワードにしたセミナーで大注目のtida smile(ティダ・スマイル)オーナー・栄田光平さん。「店販をフックに美容師としての成長を目指す」という新しい価値観を発信し、多くの美容関係者から注目を集めています。
後編では、栄田さんが実際に味わった失客経験をはじめ、現在の店販理論にたどり着くまでのストーリーを深掘りしていきます。
お話を伺ったのは…
tida smile(ティダスマイル)代表 栄田光平さん
鹿児島県奄美大島出身。都内の大型店に勤務していた2020年、それまで月数千円だった店販売上を100万円へと急伸させる。同時に「あまやん」名義で独自の店販理論を提唱し、社外セミナー活動を開始。2021年11月独立を果たし、東京都東久留米市に「tida smile」をオープン。今年8月には早くも2店舗目を展開予定。
店販をしなかったことが思いもよらない失客に
――前編でお話いただいた、店販活動を怠ったことが原因で失客したご経験について詳しく伺えますか?
そのお客様はいわゆる富裕層の方で、僕にとってはロイヤルカスタマーでもありました。ある日、ご友人たちとヘアケアの話になった際、ほかの皆さんは美容院で勧められたサロン専売品を使っているのに対し、ご自分だけが市販のシャンプー・リンスを使用していることを知りました。
長年通っていただいている間、僕が店販を一切しなかったのだから当然ですね。結果、お客様は非常に恥ずかしい思いをされたのに加え、お友達から勧められた他店の製品を気に入り、そちらのサロンへ移ってしまいました。
この経験をきっかけに、店販をしないことは失客理由になると痛感したと同時に、ほかの失客事例についても店販が深く関わっているのではないかと考えるようになりました。
――なるほど。では、例えばほかにどんな失客ケースが考えられるでしょう?
あるサロンさんから聞いた話なんですが、引っ越してきたばかりで初来店されたお客様がいるとします。初回は気に入ってもらえて再来されました。でも、3回目はいらっしゃらなかった。これって、美容室ではあるあるですよね?
詳しくヒアリングしてみると、そのお客様は、引越し前はサロンで買ったシャンプーを愛用していたそうです。でも新しいサロンでは2回行っても商品を勧められず、やむなく市販製品を使うことに。すると「以前に比べて髪がまとまらない」と感じ、髪の状態が良くない原因をシャンプーのせいと捉えるのではなく「新しいサロンの美容師が手抜きしたからだ」と結論付け、離店してしまったというんです。
――確かに「あり得るな」と納得できる理由です。
今のは極端な例かもしれませんが、失客につながる懸念材料をつぶしていくためにも、良質な商品のお勧めは、美容師にとって絶対に必要なアクションだと言えますよね。
異業種のビジネス理論を学んで得た気づきを活かす
――長年、店販はしない主義だった栄田さんが、実際に方針転換するためには多くのインプットも必要だったかと思います。
2020年春の緊急事態宣言で休業中、不動産や保険などジャンルを問わず、マーケティング・営業についてのオンラインセミナーに片っ端から参加しました。そこで感じたのが、営業という世界において、美容師は本当に恵まれている職業だなということ。
うちの職場はカラーは8トーンまでなの、家族は何人で子どもが何歳なの、朝のヘアセットにかける時間はこれくらいなの…。美容師は、お客様から毎日こんな話を聞きますよね。これって、色んな商品やサービスを売りたい人たちが、何度も相手の元に足を運んでやっと手に入れられるような、極めてパーソナルな情報です。でも僕たちの場合、お客様自らが悩み・ニーズを口に出してくれるおかげで、その人にマッチした商品提案が容易にできるんです。
――営業のスタートラインが大きく違いますね。
その上、お勧めした商品を断られても、そもそも美容師の本分は技術力です。他の業界の営業さんは「商品が売れない=失客」というシビアな環境で戦っていますが、スタイルで勝負できる美容師にとって、店販の失敗は致命傷になりません。
――異業種のことを知ったからこそ、美容師の強みを再認識できたと。
理論を学び、気づきを積み重ねるほどに実践にも熱が入り、最終的には僕個人の店販売上が月100万円にまで急伸しました。同時に、店のスタッフともノウハウを共有することで、店舗全体としても大きな結果を残せたのは良い経験となりました。
――そこから「あまやん(@amayan0211)」名義のインスタ発信やセミナー講師につながるのですね。
突然僕が店販売上を伸ばしたことに驚いた仲間たちから「そのノウハウを発信した方がいいよ」と後押ししてもらったんです。じゃあ、オンラインサロンの声がかかるまでやってみるか程度にゆるくスタートしたところ、インスタに投稿しはじめて2ヶ月くらいで出演の機会をいただきました。予想以上の反響で、今も約半年先までセミナーのご依頼が詰まっています。
ただ、当初の目標設定を早々に達成してしまったため、自分の中では「あまやん」の活動は一旦休止中。気持ちはオーナー業務に全力投球ですね。新たに何かを発信する機会があれば、次は経営面でのアドバイスや経験談をシェアできるといいなと思っています。
愛する地元とお世話になった人たちへ恩返ししたい
――昨年オープンした「tida smile」のこれからの展開についても教えてください。
直近では今年の8月、同じ建物内にメンズ専門美容室をオープン予定です。ドミナント戦略ではありますが、広告はあえて2本別々に打つことで2つの入口からお客様誘導を目指すなど、オリジナルの仕掛けを色々と考えています。
また、奄美大島出身の僕は、いつか地元にお店を出すことが昔からの夢。とはいえ、奄美は人口4万人に対して理美容店が200店舗もある超激戦区なんですよ。その上、ご近所付き合いの意識が強く、新規参入は圧倒的に不利という厳しい土地です。
そこで、美容関係の友人やお客様に向けて、小さなサロンを併設した宿泊施設を構想しています。社員研修や作品撮りを兼ねて、気軽に奄美を訪れてくれるといいなと思って。その様子をSNSで発信してくれれば、奄美全体が盛り上がることにもつながるし、美容師という仕事を通じて地元に貢献できるんじゃないかという狙いもあります。
――これまで関わってきた人たちみんなを大切にする、栄田さんの熱い想いが感じられる夢ですね。
美容師は、相手との信頼関係があってこその仕事ですからね。店販も同じで、お客様は僕らの言葉を信じて購入を決めてくださるんです。そのことをしっかり肝に銘じて、真摯にチャレンジしてみてください。
サロンの売上に欠かせない3ヶ条
昨年の独立以降、オーナーとしても着実に成果を上げている栄田さん。サロン全体の売上アップのために意識している、3つの要素をお聞きしました。
1.仕組み
2.教育
3.人
栄田さん「まだオープンして半年ですから、今は仕組みを整えている最中です。接客の流れや教育カリキュラムなど、お店の仕組みをきちんと作ることが、集客への仕組みにつながると思います。どれだけ能力のあるスタッフがいても、個人へ丸投げしてしまうと全部が崩れてしまいますからね。」
取材・文/黒木絵美
撮影/喜多二三雄