さまざまな壁を乗り越え…「理容師のあいざわさん」に聞く、心を掴む「気づき力」とは?【理容師・會澤和磨さん】#1
「理容師のあいざわさん」という名で顔剃りやうなじ剃りについて発信し、SNSで多くのフォロワーを抱える理容師の會澤和磨さん。
前編では、理容師を目指すことになったきっかけや、リピーターを多く獲得する會澤さんが施術や接客の際に気をつけていること、独立を決意した理由についてお伺いしました。
教えてくれたのは…
理容師・會澤和磨さん(理容師のあいざわさん)
理容師としてサロンワークを経験し、2022年10月にフリーランスとして独立。サロン時代から「理容師のあいざわさん」という名でTikTokをはじめとするSNSで活動を始め、現在TikTokフォロワー16万人、YouTubeチャンネルの登録者数は約4万人を抱えている。現在は、シェアサロン「LIBERTY SHARE BARBER 銀座店」で活躍中。
同級生からのある一言で、理容師になることを決意
――まずはじめに理容師を目指し始めた理由を教えてください。
両親が理容師、姉が美容師をやっていて、生まれたときから自宅の1階が理容室で、2階が住まいという環境で育ってきました。ずっと父親が仕事をしてるのを間近で見てきたんですけど、小学生のときに同級生からからかわれて。その当時は街の中でも父親の店は高単価でお客さんをとっていたので、それに対して「ボッタクリ」とか「俺が行ってる美容室の方が安くておしゃれだ」って言われたんです。父親の理容室を馬鹿にされたのが悔しくて、理容業の価値を見出して周りに見返したいという思いがあったので理容師の道へと進むことにしました。
それに昔からこの仕事しかないと思っていたのもあって、高校を卒業してから地元の茨城にある理美容の専門学校に進学しました。正直、“理容師になる”のは簡単だと思うんです。お金をかけて技術や知識を学んで、国家試験に受かれば理容師になれる。でも実際にサロンに就職して仕事を始めるようになってから、僕は挫折を味わうんですけど…。
――就職してから挫折を味わったとのことですが、最初に會澤さんがぶつかった壁はどのようなことでしたか?
一番初めは、やっぱり技術面ですね。テストカリキュラムだったので同期と切磋琢磨しあっていたんですけど、同期の方が先に受かったこともあって焦りを感じていました。自信を持ってテストを受けるんですけど、そこで毎回心が折られて…。
たとえばシャンプーテストも、入社した4月中に受けるのが目標だったのでそれまでに50人をシャンプーしないと受けられなくて、そこで落ちるとまた何人も練習しなくちゃいけない。僕はテストに受かるまでに150人くらいやっていたかもしれないです。今は自分の強みが明確にわかっているんですけど、その当時はわかっていなかったのでただ落ち込むだけでしたね。
――他にも難しいなと感じたことはありましたか?
職場の人間関係も難しかったです。僕はかなりの陽キャで、専門学校に通っていたときも学級委員みたいなことをやったり、ありがたいことに全国のコンテストでも入賞できたり、しっかりしなきゃという面を持ってはいたんですけど、割とふざけているタイプで(笑)。
当時働いていたサロンに一緒に働きたいと思う理容師の方がいて、その先輩は自分の中ではすごくクールでかっこいいイメージだったんですけど、全然違っていたんです。結構ふざけているタイプだったので、僕も強気に出ていて。今もその先輩とは本当に仲が良くて尊敬しているんですけど、当時はそんな僕の姿を見た周りの人からは「調子に乗ってる」と言われてましたし、先輩からブチギレられたこともありました。やっぱり仲がいいとはいえ先輩なので、周りからの印象も良くないと。
僕は理容のことになると、相手に対してもちろん尊敬はしているんですけど、攻撃的になって強気に出るんですよね。でも僕は自分の“このキャラ”がいいと思っているので、そこは崩さず突き進みました。最初はそういった上司や先輩との付き合い方に衝突しましたし、職場の人間関係って難しいなと思いましたね。
お客さんの心を掴む、接客と施術
――理容師の道を歩みはじめて、当初心がけていたこと、今心がけていることを教えてください。
前のサロンでは、ものすごく人間性を鍛えられたと思っています。そこには今でも本当に感謝しています。常に感謝の気持ちを持つこと、気づく力、考える力、この3つを心がけていました。前のサロンにいた歴代の人のなかでも、僕が一番そこを極めていたと自信を持って言えますね。
たとえばちょっとした汚れとか温度とかもそうですし、多くの人が気づかないようなところにも気づけるので、その“気づく力”は接客のときにもかなり武器になっています。お客さんが初めて来店したときに、ここら辺気になるだろうなというところもすべて気づけていて。「ここ気になりますよね」と声をかけると「そうだったんです」と言われることもあれば、これまで気づいていなかったけど「こうすると良くなりますよ」と伝えると、自分のことを理解してくれてると思ってもらえる。その気づき力がリピートにすごくつながりましたね。
あとは肌に触れるものに関しては、特に気をつけています。タオルの肌触りや匂い、髪の毛が付いていないか、カミソリは消毒液から取り出した物を見せて使用したり、タオルで拭き取る際の温度や拭き取り方なども繊細に行ってます。女性のお客さんが多いので、より気をつけていますね。
――細かなところも気にかけてもらえると、お客さんとしてはとても嬉しいですよね。
実は僕は、2022年の7月に独立することを決めたんですけど、前のサロンのお客さんは全部置いてきたんです。その年の10月からフリーランスとして今のシェアサロンで働き始めたんですけど、8月にその条件を言われたので一気に不安になりましたね。お客さん全然いないじゃん…って。
そういう条件のなか独立していて、唯一OKだと言われていたのが僕がSNSで集客をした女性で、かつ指名できてくれているお客さんだけで。なのでサロンを辞めるときは、お客さんに次どこで働くかなども伝えていなくて。今も前のサロンのときから来てくれているお客さんの話を聞いていると、僕の気づき力を買ってきてくれてる人がほとんどなんだなと思っています。独立して1年くらいですけど、今はほとんど新規のお客さんばかりですね。
“個の力が持つ可能性”を伝えるため、サロン勤務からフリーランスへ
――フリーランスとして独立しようと思ったきっかけを教えてください。
さまざまなことが重なって、独立を決意しました。給与面もそうですし、後輩の育成でも衝突があったりしたタイミングで。ちょうどそのときにTikTokのフォロワーが10万人を超えて、かつ今働いているシェアサロンの代表からもたまたま声をかけてもらったんです。
本当にすべてが重なったんですよ。当時はすでに「理容師のあいざわさん」としてSNSで発信していたんですけど、サロンに属していたので“自分というブランド”を売っていくためには、ひとりでやるしかないなと思っていて。まだ20代だから挑戦してみようかなと思って、フリーランスになりました。
それと新しい働き方っていうのを、やっぱり後輩に見せたいなという思いもありましたね。サロン勤務をしていたときは、僕はものすごく“個の力”が強かったんです。その力がサロンにとっては脅威になる場合もある。でも独立した自分のブランドは必要ですし、“自分のブランド力”っていうのは1年目から意識していました。そういう個の力の可能性というものを自分が例として発信していけたらなっていう思いもありましたね。
自身の強みである気づく力を武器に、独立してからも大活躍している會澤さん。後編では、SNSで多くのフォロワーを抱える會澤さんに、気になるSNSの運用方法と今後の展望について伺っていきます。
写真/Shohei
取材・文/菊地菜々