一度は倒産も覚悟。そこから3年で3店舗展開した「CHOUCHOU」武藤鎌矢さんの起死回生のヒント
福島市内でショート・ボブ専門美容室「CHOUCHOU」、「CHOUCHOU-LEA」を運営する武藤鎌矢さん。いまでこそ3店舗運営し、7人のスタッフを雇用していますが、26歳で独立・開業した当初はひとりでサロンを運営。思ったように売り上げが伸びず、わずか1年で資金が底をついてしまい、一時期は店を畳むことも考えました。
前編では次回予約率90%、離職率ゼロとお客さまにもスタッフにも満足されるサロンを経営するヒントを伺いましたが、後編では武藤さんが経営を立て直し、店舗展開に至るまでの道のりについて伺います。大きな困難を乗り越える上で何よりも大変だったのは、自身の怠けグセ。これまでの自分の言動を否定することからはじめたそうです。
今回お話を伺ったのは…
武藤鎌矢さん
株式会社CHOUCHOU代表
美容院を運営していた父の影響を受け、美容師の道を志す。専門学校卒業後、2店舗で経験を積んだあと2017年に独立。現在、福島市内でショート・ボブ専門美容室「CHOUCHOU(シュシュ)」と「CHOUCHOU-LEA(シュシュレア)」を3店舗運営する。リピーターの次回予約率は90%。1日3名までの完全予約制、自由出勤・自由シフト制、毎週日曜日定休など、働きやすい環境づくりを徹底。自身の経験を活かし、コンサルティングやサロンオーナーに向けたセミナーなども数多く開催している。
開業1年で資金がほぼゼロに。覚悟を決めて再起に臨んだ
――26歳で独立後、1年で資金が底をついてしまったとのことですが、具体的に何が起こったのでしょうか。
当時の私はまったく知識がなくて、ノリで独立してしまったんですね。800万円借り入れたのですが、すべて設備費に回してしまって。当然、たいして貯金もなかったので、ほとんど運転資金がない状態で開業することになりました。それでもなんとか1年間は営業できたのですが、あるとき突然、2か月連続で売上が80万円から40万円に半減してしまったんです。このとき、手元にあるお金をかき集めても30万円もありませんでした。ここでようやく「このままでは本当にヤバイ。なんとかしなくては」と経営のテコ入れを始めました。
――そこまでギリギリの状態だったんですね。経営を立て直すためにどんなことを行ったのでしょうか。
今までの自分をすべて否定することです。自分にとって最大の課題は、自分に負けてしまう弱さでした。それまで口癖のように言っていた「疲れた」「忙しい」といった否定的な言動や、「どうせ自分にはできない」というような言い訳グセ、人のせいにすることをやめました。
何も継続できない自分自身を変えるため、毎朝4時に起きて出勤し、経営に関する本を読んで勉強したり、どうすれば客数や客単価を上げることができるか、自分はどんな風に生きていきたいかなどを考えていました。いまも早起きの習慣は継続しています。
――自分自身の考え方や生活を180度変えたのですね。
はい。すべての行動を未来につなげると意識を変えました。その上で1年間の収益を振り返ってみると、売上が伸びていた月も次回予約は入っていなかった。来店するかわからない不確定なのお客さまの売上で経営を成り立たせていたので、常に不安がありました。この不安を何かで買いたい、そんな思いではじめたのが既存のお客さまへの次回予約のアプローチです。結果が出はじめ、次回予約にもつなげられるようになったことで、新たにスタッフさんを雇う余裕が出てきました。
その頃から「スタッフさんにお客さんを付け、お給料を払わなくてはいけない」という思いが強くなり、さらに力が入るようになりました。
また、集客を学ぶために初めて広告費を使い、お店のホームページを作成しました。ほとんどお金はありませんでしたが、「これでダメだったら、アルバイトをしてでも返そう」と腹をくくって投資をしたのです。このタイミングで「ショート・ボブ専門美容室」を前面に打ち出し、客単価の見直しを行いました。
独自のシステムを確立したことで、コロナ禍の影響はほとんど受けず
――スタッフを雇用する責任が経営者としてのモチベーションにもつながったのですね。2021年に2店舗目をオープンされていますが、コロナ禍における影響や不安はなかったのでしょうか?
日本で新型コロナウイルスが流行し始めた2020年4月は売上が30~40%落ちてしまったのですが、次の月には元に戻りました。ありがたいことに、そこからは右肩上がりですね。次回予約をメインにしていることに加えて、1日3名限定、マンツーマンとプライベート感が高いこと、これはたまたまですが、席をカーテンで仕切って半個室風にしていたことも功を奏したのだと思います。
また、集客できるようになったことで、お客さまをお断りすることも増えてきていたので、徒歩10分以内の場所にもう1店舗構え、さらに新しいスタッフさんを迎えることにしました。
――さらに、2022年にも新店舗をオープンされました。
ちょっといやらしく聞こえてしまうかもしれませんが、これは自分のためなんです。自分を幸せにできなければ、スタッフさんたちを幸せにできないというのが私の持論なのですが、自分自身の幸せや、この先どう生きていきたいかを追求した結果、たどり着いたのが3店舗目の開業でした。
そもそも私は、独立した当初から、将来的にはスタッフさんに店を任せて自分は現場を離れたいという思いがあります。それを実現するために、毎月売上がどれだけあれば自分が望む収入が得られ、スタッフさんにもきちんとお給料を払えるかを考え、3店舗目のオープンに向けてプランを立てました。
フランチャイズ展開し、スタッフに還元したい
――では、現在は、美容師として現場に立っていないのでしょうか?
まだ多少は立つ機会ありますが、ほとんどなくなりましたね。最近はお店の管理のほかに、コンサルティングや経営、カウンセリングなどのセミナーを行う機会もいただいています。
4年前、本当に辛くてしんどかったんですね。家族にも誰にも相談できず、ハローワークにも行きましたし、明らかにうさんくさいアルバイトに登録をするほど追い詰められていました。試行錯誤を続けてきた結果、いまの自分があります。同じように経営に悩んでいる方の力になれたらという思いで色々なお話をしています。
――苦しい境地に立った経験がある武藤さんだからこそ、伝えられるメッセージがあるのですね。最後に、今後の目標について教えてください。
いま積極的に取り組んでいるのはフランチャイズ展開です。現状、直営3店舗の売上だけで僕自身も収入を得ていますが、もう少しスタッフさんたちに還元するためにも、直営店以外での収入を増やせたらと思っています。
また、直営店ではあと4人ほど雇用できるので、3年以内に雇用し、5年後にはすべてのスタッフさんを自由出勤・自由シフト制にすること、さらに毎月30万円以上の給与を支払うことを目標にしています。その頃には私が現場に立たず、管理側に回っていることが理想ですね。
倒産寸前から経営を立て直し、店舗展開できた3つの理由
武藤さんがギリギリの状態から経営を立て直し、店舗展開することができた理由を伺うと、以下の3つでした。
1.確実に売上につなげるため、既存のお客さまの次回予約に力を入れた
2.集客を上げるため、「ショート・ボブ専門美容室」として広告を打ち出した
3.将来自分がありたい姿を明確にし、目標に向かって一つずつ目の前の課題を消化している
武藤さんとお話していて感じたのは、諦めずに前に進み続けることの大切さ。「何かに挑戦しようとしてしんどいのは、人生における筋肉痛。しんどい、逃げたいと感じるときこそ、チャンスです」という言葉と、何よりもお店を支えるスタッフとお客さまを第一に考える姿勢が印象的でした。美容室を経営されている方は、参考にしてみてはいかがでしょうか。