美容師としてだけでない働き方で、島の暮らしを循環していく【象と太陽社 山口憲太郎さん】#2

香川県・男木島に移住し、「象と太陽社」を開業した山口憲太郎さん。ヘアサロン「海とひなたの美容室」をはじめ、さまざまな活動を通して男木島の発展に尽力しています。

後編では、そんな山口さんの美容師としてだけではない働き方にフォーカス。地方での美容師にとらわれない生き方について教えていただきます。

教えてくれたのは…
象と太陽社 代表 山口憲太郎さん

奈良県奈良市出身。京都にて、環境負荷を抑えて美しくなる事をコンセプトとしたヘアサロン「Atelier201」を運営。ヘアカラーリストとして従事する。2016年、香川県・男木島に家族で移住、「象と太陽社」を設立。ヘアサロン「海とひなたの美容室」のほか、ハーブ栽培、カフェ運営、島の魅力を伝えるツアーやイベントの立ち上げなど幅広く活動している。サーキュラーエコノミーをベースに、島の古民家を再生し地域課題を解決する「レモンツリーホテルプロジェクト」を進行中。

Instagram:@zoutotaiyosha

美容室、ハーブ園、カフェ、ツアー主催まで多角的に活動

島の廃材を使ってセルフビルドした「つきうみバール」。
ハーブ園で栽培した植物を使ったドリンクやランチを提供しています

――現在は美容室以外にも様々な活動をされています。

島にいると、なんでも頼まれるんです。若いやつが来たぞ、これ運んでくれ、これしてくれ、みたいな感じで(笑)。だからヘアカットは妻の役割で、僕はほとんど力仕事をしていることが多いくらいなんです。

そんな流れのなかで、「ここの畑、好きに使っていいよ」という話もたくさん出てきました。でも何回草刈りしてもリセットされて、その繰り返しがイヤになってきて…。上手いこと何かできないかなと考えて、売れるものとか景色がキレイになるものを植えたらいいんじゃないかと、ハーブを植えてみたんです。

そのハーブを美容室とどうにかリンクできないかと思い、足湯や香り出し、お茶に使ってみようと試みたのが、ハーブ園のスタートでした。

――ハーブは、カフェ「つきうみバール」でも使われていますね。

はい。美容室だけでは使いきれないくらいハーブが増えたので、収穫したハーブを飲食にも使えるように小さいカフェを作りました。ちょうどできたころにコロナ禍がスタートしてしまったので、テスト的にカフェ営業やポップアップショップを開き、その後、瀬戸内国際芸術祭が開催された2022年は、通常営業というかたちで再開していました。

でも僻地で毎日人が来るわけではないので、毎日オープンすると時間も食材もロスの方が大きくなってしまうんですよね。だから今は美容室に来てくれた方にランチを提供したり、島外からのツアーにくっつけるなど、予約いただいた方への提供がメインになっています。

――ツアーなどのアクティビティも主催されているんですか?

そうなんです。これは経験がいっぱいあるわけではないので、僕らも勉強しながらやり始めたところです。住んでいる経験プラス、プロのガイドさんにも入ってもらって開催しています。

あとは今「レモンツリーホテル」という宿泊施設を、秋のプレオープンを目指して作っているところです。男木島の家並みって、昔ながらの造りなので隣同士がくっついているんです。でも今は空き家も増えていて、放置して崩れると隣の家にも影響が出てしまうんですね。だから「空き家をうまいこと使ってくれないか」という話をもらったのが、ホテルを作ることになったきっかけでした。

暮らしの選択肢を模索しながら、島を循環させる仕組み作りを

山口さんが今力を入れているという「レモンツリーホテルプロジェクト」。
男木島の地域集落や自然環境を維持・再生して循環させる仕組みを目指しています

――本当にいろいろな活動をされているんですね。その原動力は何だと思いますか?

頼まれるままにいろいろな仕事をしているなかで、自分でも「何をしているんだろう」と整理してみたんですよね。そのときに「これをどうにかしたい」というよりも、生き方の選択肢を作っているのかなと思ったんです。自分たちでも実験しながら、僕らのところに来てくださる方と一緒になって、暮らしの選択肢を模索している。

そしてその先には、この島が持続していける仕組みを作りたいという気持ちがあるんだと思います。高齢化や少子化で人がいなくなっている中でも、それがカバーされるような仕組みを作って、地域の維持をしていきたいんです。

――美容師としてだけではない活動のメリット、よかったと感じることは?

美容の仕事の量はすごく減ったので、「美容の仕事が好きで仕方ない」という方にしたら厳しい環境だとは思います。でも自分ではしたことのない多くの仕事を経験して、全然違う業界の人と関わることが増えて、自分の幅はやっぱりすごく広がったと感じるんですよね。

その結果、良い尺度で自分の強みや弱みが見られるようになったと思います。美容業界のなかで「あれができた」「これができなかった」と考えていたときよりも、自分を客観的に見られる。そうすると美容師としても、客観的な視点をサロン経営の方に落とし込めるようにもなるじゃないですか。

さまざまな経験が、豊かに生きる1つのヒントになる。いいように解釈するとですけど(笑)、それはメリットかなと思います。

――逆に、美容師の仕事をしていてよかったと感じたことはありますか?

うん、美容師になってよかったですね。一番よかったのは、人の懐に入る技術が美容師にはあると思うんです。僻地でも都会でも、海外でもどこに行っても、スッと人と話せたり、一緒に笑える話ができたりするのは、大きな強みだなと感じます。それがあったから移住してきてからも、すぐに馴染めましたから。

美容師として、1人の人間として、地域にいい影響を与えていく

美容師としてだけでなく、幅広い活動を通して
男木島を支えている山口さん

――山口さんが経営者として大切にしていることは何ですか?

全然うまくはできていないんですけど、まずは自分自身が楽しいと思えることを、ちゃんと仕事にしていきたいと思っています。そして、それをお客様にもシェアして喜んでもらえたらいいなと。

自分もお客様も楽しくて嬉しいことを通して、この島や地域周辺が良くなっていく。喜びがぐるっと回るような循環を作ることを大切にしたいし、これからも意識していきたいです。

――今後、何かやっていきたいことはありますか?

まずは「レモンツリーホテル」を何とか軌道に乗せたいです。その先にはもっともっと人口も減ってくると思います。でも逆にいいところもあって、人や文化が入りやすくなっているんですよね。

島にある使えるものをみんなでどんどん使っていけば、いろんな人の夢が実現できる場所になれると思うんです。例えば、週末にカフェをしたいとか、みんなで集まれる家が欲しいという夢は、島のみんなで作れば叶えられる。僕はそれを一緒に支援して、じっくり長く、ゆっくりでも地域が回っていって、みんなも喜んでくれたらいい。それが、これから先の展望というか、未来に期待していることです。

――最後に、地方で独立開業を目指す方にアドバイスをお願いします。

地方にもよると思いますが、僕がいるような人口の少ない地域であれば、1人の影響力ってすごいんです。新しい人が1人入るだけで、地域が変わるんですよね。お店ができれば風景も変わるし、新しい情報が入れは文化も変わる。

地方に行けば行くほど経営面では難しいこともあるけど、1人の影響力は大きくなると思います。それは重みでもあるけど、面白さや醍醐味でもある。地方で何か新しいことをするというのは、自分の力が地域に影響を及ぼせる楽しさがあるんです。それをうまく使って、楽しんで経営していけたらいいんじゃないかなと思います。


取材・文:山本二季

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Salon Data

象と太陽社/海とひなたの美容室
住所:香川県高松市男木町1896-1
MAIL:zoutotaiyo@gmail.com
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