地元いわき市での開業からもうすぐ10年。妥協のない美容への姿勢で地方からブランドを発信【SLUNDRE 小松伸満さん】#1

都内大手サロンから独立開業し、2014年4月に福島県いわき市に「SLUNDRE」をオープンした小松伸満さん。もうすぐ10年を迎える今、地元では知らない人がいないほどの人気店に成長しています。

前編では、小松さんが地元いわき市で開業した経緯と、開業当時の苦労、これまでに感じた変化を教えていただきます。

お話を伺ったのは…
hairmake SLUNDRE 代表 小松伸満さん

代官山のヘアサロン「8 1/2 eight&half」に12年勤務。アトリエ店店長として若手教育や各種セミナー講師、雑誌のヘアメイクなどを務める。2014年4月、地元・福島県いわき市にて「hairmake SLUNDRE」をオープン。妻でありアートディレクターの作山友紀さん(DaB出身)とともに、福島県内や近郊サロンにてセミナー講師やヘアメイクとしても活動中。

Instagram:@nobkom

震災をきっかけに地元に向いた目。
「地元になかったサロンを作ったらおもしろい」

来年オープンから10年を迎える
福島県いわき市のヘアサロン「SLUNDRE」代表・小松さん

――福島県いわき市での開業の経緯を教えてください。

一番のきっかけは、東日本大震災でした。それまで地元でお店を出すことは考えたこともなかったんですが、震災があったことで地元に目が向いたんです。

ちょうど結婚を考えていたタイミングだったんですが、妻の作山も偶然地元がいわき市で。作山の実家が震災で全壊してしまったこともあり、表には出さないけれど彼女が地元を心配しているのも感じていました。震災後にはいろいろな手伝いで東京と地元を行き来することも増え、少しずつ地元でお店を開業するビジョンが見えてきたんです。

やる気とエネルギーがだんだん大きくなっていくなかで、そのうち「やるからには今まで地元になかったような、みんながびっくりするようなお店を作りたい」とまで思えるようになっていました。

――それからお店を開業した2014年までは、準備期間でしょうか。

地元でお店を出すと決意を固めるまでに1年、そこから2年は新しいお店の準備期間というよりは、自分が働いていたお店の引継ぎ期間ですね。担当していたお客さんをないがしろにして辞めたくはなかったので、経緯を説明して時間をかけて次の担当者を紹介したり、後任には全員分の顧客ノートを作って渡したり。店長や技術講師をしていたので、その後任も育て上げたり。誰にも文句を言われない状態で辞めたかったので、そのために2年かかりました。

都心と地方の違いを感じながら
かたちを変えて作り上げてきた10年

福島県いわき市の人気エリアに位置する「SLUNDRE」。
2021年には拡張移転し、より広々としたつくりに

――地方でお店を出すにあたって、難しかったことはありますか?

出店については、東京では当たり前だと思っていたことが、地方ではデメリットになり得るんだと感じることがありました。例えばお店の立地。僕は当然のように駅前・駅近が良いと思っていたんです。でもマーケティングとしていろんな人に話を聞いていくと、「駅前にはあまり行かない」と言うんです。東京と違って車社会なので、駅前=車が停めにくいというイメージなんですよね。

駅前は土地も限られるのでお店専用の駐車場を確保するのも難しいし、コインパーキングにお金を払って駐車するという概念もない。そもそも駅前は車で行くと混み合うから、みんな避けたがっていたりするんです。そういった話を聞いて、最初はいわき駅の周辺で店舗を探していたけど、探すエリアを一気に広げました

車で移動する人たちが一番集まりやすいところを探して、いわき市に住んでいる人が車で20~30分の範囲で来られるだろうと、いわき市の中心にある鹿島町という場所を選んだんです。

――オープンしてから、東京とのギャップを感じたことはありましたか?

想定していたより、ギャップは感じませんでしたね。当時ちょうどSNSがメインストリームになってき出したころだったので、地方にいても情報へのリーチは早くて、お客さんの感性みたいなものも東京との差はあまり感じませんでした。おそらく、地元にいるなかでも都会の感性にあこがれを持っている子や、ファッションや流行に興味がある子が、お客さんとして集まってきてくれたからだと思います。

一番ギャップを感じた点だと、お客さんの広まり方でしょうか。例えば都会だと、1人のお客さんが気に入ってくれると、その周りのお友だちや同僚など、そのお客さんと似たタイプの方が紹介で来るんです。でも地方の場合は、そのお客さんの家族が来るんですね。

スタートがメインターゲット層である20代30代の女性でも、そこから派生して来るのは、そのお母さんやお父さん、娘さんなど、年代もジャンルも全く違うんです。結局、今僕のお客さんは0歳から86歳ぐらいまでいますから(笑)。ありとあらゆる層にマッチしないと地方ではやっていけないんだなと感じました。

――来年でオープンから10年ですが、開業当初と変わったことはありますか?

認知してもらえてきたと感じることは増えました。SLUNDREというお店が、地元で1つのブランドになった感じがします。お店の名前を出すと、「あの有名な美容室だよね」という認識で、みなさん言ってくださるようになりました。

それと同時に、紹介のお客さんがどんどん来続けてくれているので、ここ数年は予約がとれないと言われるほどになってしまって…。どうしても限りが出てきてしまい、なかなかお顔が見られていないお客さんが増えてしまったのが寂しいと思います。「もう一人自分がいたら…」と各スタッフそれぞれ同じように思っているんじゃないでしょうか。

地方の難しさはあっても、変わらずに大切なのは
ヘアに対する真摯な姿勢とブレない想い

ヘアに対する想いはずっと変わらず、技術をアップデートし続ける小松さん。
「カミカリスマ2023」では、東北エリア カット部門で福島県唯一の受賞サロンに

――この10年、変わらず持ってらっしゃる想いはありますか?

一番は「妥協しない」ということ。また、いい意味で地方に染まらないというのは、常に意識しています。そして比べる相手を間違えないこと。よくお客さんに「この辺の美容室じゃ、もう一番でしょう」なんて言っていただくんですが、お山の大将には絶対になってはいけないと思うんです。

僕らがライバル視していたり、「負けたくない」と思っている相手はそこではなくて。業界のトップを走り続けている人たちと比べて、自分たちは今どのくらいやれているのか、頑張れているのか、考えられているのかというのを、常に意識していかないといけない。美容に対しての姿勢や想いみたいなことは、妥協してはいけないと思っています。

東京にいたときに一緒にやっていた仲間たち、同世代で頑張っていた美容師たちも、今すごい伸し上がっている人たちがたくさんいるんです。よくお酒を飲みながら美容の話をしていたメンバーが今でも東京で頑張っているから、地方にいるからって負けちゃいけないと思うんですよね。

ヘアに対して真摯であり続けるという姿勢だけは、絶対に曲げない。それが一番大切にしていることであり、地方でやっていくうえで難しい部分でもあります

――地方にいながら感性や技術力をアップデートしていくために心がけていることは?

都内にいたときは師の教えもあり、自分たちのお店の外とあまりコミュニケーションを取っていなかったんです。でも今は時代的にもそうじゃなくなってきているし、特に地方にいると、どれだけ情報を集められるかがカギになってくる部分が多い。だから今は、できるだけ横のつながりを大切にするようにしています。

以前よりも他店の美容師さんとコミュニケーションを取る機会も増えたし、東京時代の仲間たちから情報を得たり、SNSを情報収集のために活用したりと、新しい情報をできるだけ取り入れられるようにしているんです。

また、僕自身もセミナーや講習の講師側のお仕事をやらせてもらうんですが、最近は技術を見せてもらう側として参加するようになりました。以前はあまりなかったんですが、年下でも年上でも関係なく、自分自身が気になる技術は見に行くようになりましたね。自分と違うシザーの使い方を見ると、技術面でもまだまだアップデートできると感じます。

――今でも何か地方ならではの難しさを感じることはありますか?

今一番の悩みは、人材の育成です。地方にいるやる気のある子は、みんな東京に行ってしまうんですよね。地方の美容学校に行って地方で就職しようという子と、東京の美容学校に行って有名美容室で働きたいという子のモチベーションは全然違う。でも僕らは高いレベルでのモチベーションのままやり続けているので、その考えや想いがわかってもらえないことが多くて。でも、その子たちのために自分たちのレベルを下げていいのか…。

そういう葛藤を抱えながらやってきた部分が、この10年弱では大きかったんです。でもやっぱり、自分たちSLUNDREの感性や僕たちのこだわりは曲げてはいけないなと思ってやってきました

最近ようやく、その想いを理解してついてきてくれる子が増えてきた感じがします。ここ数年でSLUNDREの想いみたいなものが定着してきたことで、他県からもSLUNDREを希望して来てくれる子たちが出てきたんです。

ちょっと時間はかかってしまったけど、やっと僕らの好きな感性やヘアに対する想いを理解してくれて、それがいいと思ってサロンで働きたいという子たちが来てくれるようになった。そういう子たちが、これからお店を支えていってくれたら、という段階に、ようやくなれました。


次回後編では、地方でのサロン経営についてのアドバイスをお聞きします。

取材・文:山本二季

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Salon Data

hairmake SLUNDRE
住所:福島県いわき市鹿島町船戸字京塚1-10
TEL:0246-84-8568
Instagram:@slundre

 

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