苦しい経験も「楽しい」のエネルギーに。今日も明日もお客様と共に歩んでいく【BEAUTRIUM 前田 百合子さん】#2
サロンワークにメディアに各方面からラブコールが絶えない前田百合子さんは、銀座にオープンして14年目を迎える「BEAUTRIUM 265」の責任者でもあります。オープン準備から現在に至るまで、共に歴史を刻んできた前田さんとBEAUTRIUM 265の裏側に迫ります。
前編では、トップヘアスタイリストになるまでの経緯を伺いました。後編では、BEAUTRIUM 265がオープンするまでの経緯や前田さんの仕事への想いについてお聞きします。
お話を伺ったのは…
BEAUTRIUM 前田 百合子さん
BEAUTRIUMに入社後、青山店、表参道店、南青山店の勤務を経て、2010年に銀座にある265店の責任者に就任。サロンワークで活躍するほか、メディアからのオファーが絶えない。
責任者に大抜擢! BEAUTRIUM 265が銀座にオープン
――BEAUTRIUM 265の責任者に抜擢されたとか。
どんな心境だったのでしょう?
お話をいただいたときは「え?なんで私??銀座??」と、一瞬戸惑いましたが、同時に青山エリアから20名以上のスタッフが異動することになると聞き、「自分が行くんだから銀座の街を変えてやる!!」くらいの気持ちで引き受けることにしました(笑)。
――こだわったところは?
やはり、店内のデザインにはこだわりました。
BEAUTRIUM 265は「南仏のセカンドハウス」をテーマにデザインしたんです。アンティーク調な雑貨やカーテン、壁材など、細かいところまで忠実に再現できるように何度も相談。時の流れとともに、味わいのあるヴィンテージ感が出るようにデザイナーさんともう1人の女性ヘアスタイリストと考えました。
その甲斐あってか、ご来店いただくお客様からは好評でした。
何でも挑戦してみる気持ちが大事! 臆せず飛び込んでみて
――お客様と接するときに気をつけていることをお聞かせください。
どのお客様に対しても、時間やコミュニケーションに違いが生まれないように接しています。
例えばですが、私が担当させていただくお客様が隣同士になった場合。会話の内容だったり、時間の配分だったり…少しでも接客の違いを感じとってしまうお客様もいらっしゃいます。どちらも分け隔てなく同じ大事な時間、空間として提供できるように接したいんです。お客様にとっても私にとっても、気持ち良いコミュニケーションがとれるよう意識しています。
――お客様一人一人と真摯に向き合う姿勢が感じられます。
サロンにご来店いただく理由として、「綺麗になりたい」「かっこ良くなりたい」という想いを秘めているはず。そんな中で私を選んでもらえることがとても嬉しいですし、必ず特別に時間をかけて満足できる仕上がりにしたいじゃないですか。
どうしたらお客様がより輝けるのか、新しい一面を見つけ出せるのか、考えるだけでワクワクしています。仕上げたあとに鏡越しでニコニコしている表情を見ると、一緒にニコニコしちゃうほど嬉しい(笑)。
――前田さんのお人柄も相まって、リピートされ続けているのですね。
自分ではよく分からないですが、私なりにヘアスタイリストとしてのプライドを持ってお客様と向き合ってきました。デビュー前にはさまざまな葛藤があり、クレームがあったことも数え切れません。今思うと、そういった苦い経験も今こうして支持いただけることにつながっているのだと思います。
中には、デビューしたての頃から通っていただいているお客様もいらっしゃって。これまで店舗も変わってきていますし、お客様ごとに人生のステージも確実に変化がある中、変わらず指名をいただけるのはありがたいことですよね。
――成功するために、時には苦い経験も必要なのですね。
これからヘアスタイリストを目指す方にも言えることなのでしょうか?
はっきり言うと、ヘアスタイリストの仕事は楽しいです。
ただ、私の経験上ですが、この業界に限らず人と交流するうえで苦しいとか辛い思いをくぐってきたからこそ、その先にある楽しさや幸せだと思えることが多く存在していると思います。必ず「辛い経験をしないといけない」と言っているわけではなく、そういった葛藤する時期もその先の楽しさを感じるためには必要なのかなと思うんです。
――「楽しい」に行き着くために必要なことは?
今はネットがあれば何でも自分で経験したかのような気持ちになれるかもしれませんが、まずは飛び込んで経験してみてほしい。
自分が成長するためには、自分自身で経験することが必要だと思っていて。新しいことに挑戦するのが怖い気持ちもわかります。怖がらずに飛び込んでみて、失敗しても良いんです。壁に当たって乗り越えた先に見えてくる景色もあります。20代のうちにいっぱい砕けてください。30代になると、20代に比べて柔軟性がなくなります。40代になるとだんだん落ち着いてきちゃって、挑戦しないまま終えるなんてことも…そんなの勿体無い! 失敗したときのことばかり考えず、「失敗してもいっか」くらいの気持ちでトライしてみてください。
ヘアスタイリストは人の人生に関われる貴重な仕事
――前田さんにとって仕事とは?
好きなことを長く続けられていることは幸せです。人生において学びもあり、苦楽も共存していると感じます。
今までヘアスタイリストを30年以上やってきましたが、何十年と一人の人の髪型を作り続けていることで、勝手に一緒に人生を歩んできている気がしています。環境やライフステージの変化によって来られなくなったお客様でも、私がここ(サロン)にいる限り、再会できる可能性がありますよね。こんな仕事ってほかにあるかなって思うんです。
ヘアスタイリストをしていなかったら知り得なかった人とのつながり、誰かと共有できることの楽しさや嬉しさを感じられることは、人生の醍醐味だとさえも感じています。
――ご自身の今後の展望をお聞かせください。
今、一緒に働いている後輩がそれぞれ目指すヘアスタイリスト像に近づくための手助けがしたいです。私自身、人前で話すことは得意ではありませんが、後輩たちとファッションだったり、その時々のトレンドだったり、会話をすることで自分のアップデートができるし、とても楽しくてたくさん刺激をもらえるんです。
――後輩に寄り添うために、意識していることは?
最近よく聞く言葉で「若者はこうだから」という決めつけ。こういう決めつけはしたくないです。社会全体や大人たちが、若者はこうだと決めつけちゃだめだと思うんです。私は、自分が偉いと思っていません。一緒に働いている仲間として、同じ目線でフラットな関係を築けたら良いですよね。
長くお客様に愛され続けるための3つのポイント
1.再現性のあるヘアスタイルの提案を徹底する
2.お客様も自分自身も気持ちの良いコミュニケーションを心がける
3.一人一人に寄り添う気持ちを忘れずにお客様と関わる姿勢を忘れない
取材・文/東菜々(レ・キャトル)
撮影/生駒由美