歯科技工士の仕事内容とは?手がける技工物の種類や仕事の流れとあわせて働く場所やなり方も紹介!
歯科医療の仕事は、歯科医師・歯科衛生士・歯科助手などが有名ですが、歯科技工物を製作する歯科技工士という職業もあります。ほかの歯科医療職と比べると、患者に接する機会は少ないですが、歯科医療には欠かせない職業です。
そんな歯科技工士の仕事内容について、この記事で詳しく紹介します。歯科技工士が手がける歯科技工物の種類や仕事の流れ、働く場所なども見ていきましょう。
歯科技工士の仕事内容
歯科技工士は、詰め物や被せ物・矯正器具などの歯科技工物を製作・加工・修理するのが仕事です。歯科医師の指示に基づいて作業を行います。マイクロメートル(1,000分の1ミリ)単位での細かな作業を中心とした職人技で、さまざまな技工物を手掛けるのが特徴です。
歯科技工士の仕事内容や製作・修理する歯科技工物について、以下で詳しく紹介します。
患者ひとりひとりに合わせたオーダーメイドの技工物を製作・加工
歯科技工物には、損なった歯の機能や審美を回復させる役割があります。歯はひとりひとり色や形が異なるうえに、歯や口腔内の健康が全身の健康にもかかわるため、その人に合ったものでなければなりません。
そこで歯科技工士は、患者ひとりひとりの歯にピッタリと合うオーダーメイドの技工物の、製作や加工を行います。
少しでも形が異なると、噛み合わせが悪くなるほか、違和感や不快感にもつながるため、精密かつ正確な技術が必要です。
破損した技工物の修理
歯科技工物のひとつに、義歯(入れ歯)があります。義歯は、扱い方によっては割れたり欠けてしまうことも。そういった歯科技工物を修理するのも歯科技工士の仕事です。
破損した義歯は、接着剤で固定したあと割れた部分のレジンを削り、新しいレジンで埋めてから研磨するという修理を行います。
また、大きく破損したり取れたりした場合や、義歯と残った歯を連結する維持装置が折れてしまった場合は修理が難しいため、新しく作り直すことが多いです。
ほかにも、壊れた矯正器具の修理や詰め物・被せ物の作り直しも行います。
CAD/CAM・3Dプリンターなどで製作した歯科技工物の調整
最近では、設計や製作の一部でCAD/CAMといったシステムや、3Dプリンターなどを使用することも増えています。その際は、CAD/CAMで模型の読み取りとデザインを行い、3Dプリンターで歯科技工物を製作する流れが一般的です。
その後、歯科技工士が細部の調整を行い、より精度の高い歯科技工物に仕上げます。
歯科技工士が手がける技工物の種類
歯科技工士が手がける歯科技工物は、補綴物(ほてつぶつ)・矯正装置・マウスガード・エピテーゼなどがあります。補綴物とは損なった歯を補う役割がある、インレー(詰め物)・クラウン(被せ物)・ブリッジ・総義歯・局部義歯・インプラントのことです。
保険診療と自由診療とで、使える材料や値段に違いがあり、保険診療は値段が安い分、材料が制限されます。
以下でそれぞれの歯科技工物について見ていきましょう。
インレー(詰め物)
インレーは、虫歯によって小さな穴が開いた歯やその治療で削った歯、なんらかの理由で欠けた歯の一部に装着する補綴物です。金属・陶材・強化プラスチックなどを使って製作し、歯の機能や見た目の美しさ、形などを回復させます。
クラウン(被せ物)
クラウンは、インレーと同様に歯に装着する補綴物です。インレーよりも広範囲に装着できる冠型で、虫歯や治療による大きな穴や、大きく欠けた歯に用いられます。
ブリッジ
ブリッジは、失った歯の両端の健康な歯を削って支えにし、橋を渡すようにして義歯を装着し、歯の機能や形を回復させるものです。
総義歯(総入れ歯)
総義歯とは、入れ歯のなかでもすべての歯がなくなったときに用いられるもので、取り外しができる人工歯のことです。支えにする歯がないため、「床」と呼ばれる義歯の土台を作り、そこに義歯を並べます。
義歯はレジン(樹脂)・陶材・シリコンなど、床はレジンやレジンの一部を金属にしたものなどが使用されるのが一般的です。
局部義歯(部分入れ歯)
局部義歯は、部分的に失った歯を補うための入れ歯です。失くした歯の部位や本数は患者によって異なるため、できあがる局部義歯の形も人それぞれ。
総義歯と同様に、床を作り義歯を並べます。また、床をつなぐ金属製のバーや、入れ歯を残った歯に引っかけて固定する金属製のクラスプなども用いられるのが一般的です。
インプラント
インプラントは、自由診療で用いられる補綴物です。顎の骨に、金属製の人工歯根を埋め込む手術を行い、人工歯根と義歯とを連結するアバットメントを取り付けてから義歯をかぶせます。その義歯を作るのが歯科技工士です。
また、義歯を取り付けるまでの仮歯も製作するほか、アバットメントの製作を行うこともあります。
矯正装置
矯正装置はその名のとおり、歯並びや顎の位置を矯正するための装置で、歯に直接取り付けるものと、取り外しが可能なものがあります。歯科技工士は、患者の歯型に合わせて製作し、細かな調整も行います。
マウスガード
マウスガードは、歯をダメージから守る保護装置です。激しいスポーツや歯ぎしりによって、歯が折れたり欠けたりするのを防ぎます。
エピテーゼ
エピテーゼとは、失われた身体の一部を補う人工物です。生まれたときから顔や身体の一部がない人や、事故や病気などで後天的に失った人のために作成します。もともとある歯と色や形を合わせて作成するため、歯科技工士の精巧な技術と審美感覚が活かされています。
歯科技工士の仕事(補綴物製作)の流れ
ここからは、歯科技工士による補綴物の製作の流れをおおまかに紹介します。製作する補綴物によって、手順が前後したり製作過程が異なったりすることもあるため、一例として参考にしてください。
患者の歯型と歯科医師の指示書を確認する
製作に取りかかる前に、患者の歯型(印象)や歯科医師の指示書を確認します。指示書には設計や作成方法、使用する材料などが細かく記載されており、指示書に従って作らなければなりません。
見落としがないようしっかりと読み、分からないことは歯科医師に聞いて、不明点がないようにします。
作業模型を製作する
指示書の確認が終わったら、印象に石膏を注入し、歯科技工物のもととなる作業模型を製作します。トリミングや研磨・気泡の除去・噛み合わせの確認・調整などをしっかりと行い、ていねいに仕上げることが大切です。
補綴物を製作する
ワックス分離剤を模型に塗り、補綴物の形になるようワックスの形を整え、ワックスをインレーやクラウンなどの補綴物に置き換える作業を行います。
表面を削ったり磨いたり、色を調整したりといった細かな作業であるため、歯科技工士の腕の見せどころです。
できあがった補綴物を模型に合わせて調整する
できあがった補綴物を再度模型に合わせ、噛み合わせや隣接する歯との距離などを確かめながら最終調整をしたら完成です。
歯科技工士が働く場所
歯科技工士のおもな活躍の場は、歯科技工所です。約73%の歯科技工士が歯科技工所で働いています。つぎに多いのが歯科医院や総合病院で、約25%の歯科技工士が勤務しているようです。
残りの2%は、歯科技工士の養成機関や、歯科器材や材料を製作する企業などで働いています。
歯科技工士が働く場所について、以下で詳しく見てみましょう。
引用元
厚生労働省|令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況
厚生労働省|2 就業歯科衛生士・歯科技工士及び歯科技工所
歯科技工所
歯科技工所は、歯科技工物の受注・製作や修理・発送を行うところです。宅配便で印象や指示書を受け取り、出来上がった歯科技工物を梱包して歯科医院に宅配便で発送します。
歯科技工士には開業権があるため、スキルを身につければ自分で歯科技工所を構えることも可能です。その際は歯科技工師としてのスキルだけでなく、経営ノウハウや集客のスキルなども求められます。
歯科医院
歯科医院によっては、院内に技工室を設置しているところもあります。そこで働く歯科技工士は、医師から直接指示を受けるのが一般的です。また、患者の口腔内を自らの目で確認してから製作にあたることもあります。
自分が製作したものが、実際に装着される場面に立ち会えることもあるため、その場で自分の技術レベルを確かめることができるでしょう。
歯科医師とコミュニケーションを取る機会が多いため、話し合いや提案をしながら、より患者に合うものを製作できるのも特徴です。
総合病院
歯科診療を行う総合病院や大学の附属病院には技工室があり、歯科技工士が作業しています。病院は、歯に限らず口腔や顎の疾患も扱うため、歯科医院に比べるとより高い技術や専門的な知識が必要です。
医療チームの一員として、さまざまなスタッフと連携しながら幅広い症例に触れ、最新の機材や素材などを用いて精巧な歯科技工物を作成します。
歯科技工士養成機関
歯科技工士養成機関で働く歯科技工士は、新たな歯科技工士育成のため、歯科技工士の基本的な知識や技術をはじめ、CAD/CAMといった現場に必要なシステムなどの教育を行っています。講師として、知識や技術を教えるスキルが必要です。
また、教育制度の充実化を図る歯科技工士や、教育資材の研究に勤しむ歯科技工士もいます。
歯科器材・材料に関連する企業
歯科技工士の知識や技術を活かして、歯科器材の開発や材料の研究などを行う企業で働いている人もいます。
患者に直接かかわることはなくとも、品質や性能は患者に直接影響を与えるため、よりよいものを作ることが求められる世界です。開発した商品は、展示会やセミナーなどで宣伝したり、活用方法を伝えたりすることもあります。
歯科技工士になるには?
歯科技工士になるには国家試験に合格し、免許申請が必要です。資格の取得方法について、以下で順を追って紹介します。
引用元
job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))|歯科技工士 – 職業詳細
1. 歯科技工士の養成機関で2年以上学ぶ
歯科技工士になる最初のステップとして、高校卒業後に、文部科学大臣が認定する専門学校や、都道府県知事の認可を得た大学・短大などで、歯科技工士に必要な知識や技術を2年以上学びます。
専門学校は、講義や実習を通して歯科技工士に特化した内容が学べるのが特徴です。2年制が一般的ですが、基礎・応用・実践をていねいに指導してもらえる昼間課程の3年制の学校や、3年制の夜間課程がある学校もあります。
また、歯科技工士免許を取得した人が、さらに高度な知識や技術を学べる2年制の「専修科」を設置しているところも。
短期大学は2年制、大学は4年制で、歯科技工士について学習するほか、一般教養として医療保健・教養学・語学・情報学・キャリア教育なども学べるのが特徴です。
2. 歯科技工士国家試験に合格する
歯科技工士国家試験は年に1回、毎年2月に行われ、養成機関卒業者・卒業見込みの人が受けられます。試験内容は、学説試験と実地試験です。
学説試験では、以下の7科目が出題されます。
・歯科理工学
・歯の解剖学
・顎口腔機能学
・有床義歯技工学
・歯冠修復技工学
・矯正歯科技工学
・小児歯科技工学及び関係法規
実地試験は、歯科技工実技が試験科目です。
引用元
厚生労働省|歯科技工士国家試験の施行|厚生労働省
歯科医療振興財団|歯科技工士国家試験
3. 免許申請を行う
国家試験合格後、歯科医療振興財団に申請書類を請求し、指定された書類を添えて同財団に免許申請を行います。
保健所や都道府県知事に届け出を行うわけではないため、注意が必要です。
必要書類や申請方法については、歯科医療振興財団に直接問い合わせをしてください。
なお、申請には手数料4,750円と登録免許税9,000円が必要です。
引用元
歯科医療振興財団|歯科技工士登録
歯科技工士の収入
厚生労働省が運営するjob tagによると、歯科技工士の平均年収は464.9万円です。また、同サイトに掲載されているハローワークの求人賃金(月額)は27.4万円。なお、地域やスキルによって差があります。
日本歯科技工士会による2021年歯科技工士実態調査報告書では、年収500万円以上の人は31.3%です。300~400万円未満20%・200~300万円未満18.8%・400~500万円未満14.5% となっています。なお、勤務者と自営者で割合には差があります。
ただしこの調査では、調査対象となった991人中、年収に関して無回答が7.3%いるため、正確な割合とは言いきれません。
引用元
job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))|歯科技工士 – 職業詳細
日本歯科技工士会|2021歯科技工士実態調査報告書
歯科技工士の現状
高度な知識や技術を用いて、患者の歯や健康に貢献する歯科技工士。そんな歯科技工士の現状について紹介します。
歯科技工士は売り手市場
平成24年から2年おきに集計されていた就業歯科技工士の数は、令和2年まで約3万5,000人と横ばいでしたが、令和4年には約3万3,000人まで減少しました。
一方で、歯科技工所自体は令和2年からそれほど減っておらず、平成24年と比べると1,135箇所も増えています。人手不足に悩むところも多いため、歯科技工士にとっては売り手市場と言えるでしょう。
引用元
厚生労働省|令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況
厚生労働省|2 就業歯科衛生士・歯科技工士及び歯科技工所
若い世代の歯科技工士が重宝される
歯科技工士として働いている3万2,942人のうち、5,566人が65歳以上です。60~64歳の歯科技工士は4,564人で、60歳以上の歯科技工士は割合にして30%以上を占めており、歯科技工士の高齢化が進んでいます。
数年後にはこのベテラン世代が引退してしまう可能性が高く、歯科技工士の人手不足が一気に進行する恐れがあります。そのため、将来性がある若い世代の歯科技工士は、今後ますます重宝されるでしょう。
引用元
厚生労働省|令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況
厚生労働省|2 就業歯科衛生士・歯科技工士及び歯科技工所
機械化が進んでも歯科技工士は必要な存在
近年、CAD/CAMや3Dプリンターなどのシステムや機械が発展したことによって、歯科技工物の製作が効率的になり、それなりの質のものであれば機械でも作れる時代になりました。
しかし、患者ひとりひとりに適した歯科技工物に仕上げるには、細部の調整が行える精巧な技術が必要であるため、歯科技工士の存在が必要不可欠です。
また、今後出てくるであろう新しい技術を扱える歯科技工士が欠かせません。
国家試験受験者が減少傾向にある
少子化などが影響して、歯科技工士国家試験の受験者数が減少傾向にあります。
過去の受験者数を見てみると、平成27年度は1,114人・平成28年度には1,012人の受験者がいましたが、平成29年度から1,000人をきりました。平成30年度には839人、令和5年度の受験者数は835人となっており、ここ数年は800~900人で推移しています。
しかし合格率は、この3年間90%以上です。養成機関でしっかりと学べば、比較的取得しやすい資格でもあります。
引用元
厚生労働省|平成27年度歯科技工士国家試験の合格発表について
厚生労働省|平成28年度歯科技工士国家試験の合格発表について
厚生労働省|平成29年度歯科技工士国家試験の合格発表について
厚生労働省|平成30年度歯科技工士国家試験の合格発表について
歯科医療振興財団|歯科技工士国家試験
歯科技工士の求人を探す際におすすめの方法
歯科技工士は売り手市場で、とくに若い世代は重宝されるため、働き口に困ることはそれほどないかもしれません。しかし選択肢が多い分、自分に合った職場を探すことが大切です。ここでは、歯科技工士におすすめの求人の探し方を紹介します。
エージェント会社を通して求人紹介を受ける
エージェント会社に登録すると、就職や転職に詳しいアドバイザーからマッチした求人の紹介を受けることができます。また、就職や転職に関するアドバイスをもらえるのも特徴です。
歯科技工士の求人を探す場合は、歯科業界やヘルスケアに強いエージェント会社を利用するとよいでしょう。
求人サイトを利用して自分で探す
求人サイトは、スマホやパソコンから自分自身で求人を探せるサービスです。自分の好きなタイミングで、希望に合う条件を指定して検索・閲覧・応募まで行えます。
求人サイトにはさまざまなものがありますが、エージェント同様に歯科業界やヘルスケアに特化した求人サイトを利用するのがおすすめです。
歯科技工士の仕事は職人技!患者に最適の技工物が作れる人材を目指そう
歯科技工士は、ひとりひとり色や形が異なる歯を補う歯科技工物を製作・修理するのが仕事です。マイクロメートル単位で削ったり磨いたりしながら精度を高めるため、まさに職人技といえる高度な技術が用いられます。
機械やITが発展しているものの、精度の高いものを作るには歯科技工士の技術が必要です。また、今後新しいシステムや技術ができても、それを扱える歯科技工士が欠かせません。
さらに、歯科技工士の高齢化も深刻になってきており、今後ますます若い世代の歯科技工士が重宝されることが予想されます。
高度な技術を身につけるには努力が必要ですが、合格率を見てのとおり、養成機関でしっかりと学べば比較的取得しやすい資格です。
ぜひ、患者に最適の歯科技工物が作れる歯科技工士を目指してみてはいかがでしょうか。
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