双木 昭夫 interview#2:とにかく行動する! バカだと思われたっていいじゃないですか!!
――すごいですね。大チャンス!
「それがですね……。一度ジャケット写真を撮影したらしいんですが、ボツになったらしくて。つまり本人が気に入らないと。撮り直すにあたって、明日、明後日しか時間がなく、それで『ライブハウスでヘアメイクしているあの人、暇だろう』ってことで私に声がかかったんです」
――相当なプレッシャーがかかったのではないですか?。
「プロがやってボツになったのに、それよりも高いクオリティなんて出せるわけないじゃないですか。どうしよう、どうしようってなって、前の晩はあまり寝ることができず、次の日になっても不安だらけで、仕方なく家にあったボブのウィッグだけを持っていったんですね。そしていよいよヘアメイクするときになって、一か八か怒られるのを覚悟で『試しに、例えば』と言って、椎名さんにウィッグをかぶせたんです。ナナメに。そしたら『私、これかぶるわけ?』と言いながら、すごく喜んでくれたんですよ。『この人、天才』とまで言ってくれて。もう形なんてガタガタなんですよ。バランスも悪くて。だけど気に入ってもらえて、そこからしばらく椎名さんのヘアメイクを担当し、さらにはいろいろなミュージシャンも手がけるようになったんです」
――人生の分岐点で、最高の結果を出したわけですね(驚)。
「今、振り返ると、人と違うことをすることによって、道が開けたのかなと思います。ちなみに私、演出をすごくするんですよ。普通、ヘアメイクさんって、メイク道具をキレイに並べて仕事をするんです。でも、ロックやパンクのミュージシャンって、そんなキレイな化粧品なんかは恥ずかしいんですよ。その頃の私はメイクボックスをスタッズでトゲトゲにして、ブランドの化粧品にもすべてヤスリをかけてボロボロにし、ブランド名の前に“F○○K”とマジックで書いていました(笑)。そして『おはようございます』と楽屋に入って、メイクボックスをガラガラとひっくり返してメイク道具を出すんですね。すると『すげえな、この人』って。楽しいじゃないですか。垣根もなくなるし。今はメイクボックスを開けるとピンクのキルティングとフリルがついていて、お姫さまボックス状態(笑)。この人は明らかにこういうのが好きなんだという感じになっています」
――ミュージシャンのヘアメイクから原宿系に変わったのは、どういったタイミングだったんですか?
「ミュージシャンのヘアメイクの期間って、そんなに長くはなくて30代の中盤くらいまでなんです。『ロックだぜえ』という気持ちが薄れ、そうなったときに前々から好きだったガーリーな世界観の方向に行きたいと思ったんです」
――徐々にシフトしていったというイメージですか?
「けっこうガラッと変えましたね。失業するかもというリスクを背負いながら。いろいろな出版社へ営業に行くと、雑誌って撮影期間が決まっているんですね。そうなると、仕事をくれるかどうか分からないけど、仕事をくださいって言いに行っている以上、オファーが来たときに備えて予定を空けておかないとダメじゃないですか。そういうときに限って、音楽のお仕事がいっぱい来るんですよね。ほとんどお断りして、月の8割くらいは白紙状態にして声がかかるのを待っていました。そしてついにオファーが来て、やりたいことをやってここまで来ました(笑)」
――そして今、自費出版という形で本を出したんですよね。
「そうそう。今日はこれを宣伝したいんです(笑)。『なまいきリボンわがままレース』という、私の世界観を表現した本で、今、手にしているのが3号目になります」
――もう3冊目になるんですか?
「そうなんですよ。もともとは去年のゴールデンウィークに渋谷で個展をやらせていただいたときに合わせて、物販用としてブックを作ったんです。それがすごく好評で、作った部数があっとう間になくなり、自分で増刷までしました。こんなに売れるなら、いけるんじゃないかと思って2号目を出し、そして3号目を出版しました。今、雑誌がパワーダウンしているじゃないですか。今のうちから自分のメディアを持とうかなという考えもあります。ツイッターやインスタグラムもやっているんですが、私が古い世代か分からないけど、紙が好きなんですね。それに形にならないと作品として味気ないといいますか」
――(めくりながら)ひとりで作られたんですか?
「そうです。完全に独学です。写真も空間作りも全部自分。今まで使ったことのないイラストレーターも使ってみたりして。今まで3冊作ってきて、文章が課題だなって思います。言葉で伝えるって難しいですね。でも予算0円なので、自分で書かなくちゃと思い、文字と戦っています(笑)」
――もともとなかった分野を切り開いてきた双木さんが今、同じように美容を目指したり、転職で悩んでいる人たちに伝えたいこととはどんなことでしょう?
「夢は諦めさえしなければいつか叶うと思います。ヘアメイクという仕事は他の仕事をしながらでも夢を追いかけることができるので、どんな形であれ続けていくことが大切だと思います。そのほかにも美容の仕事っていっぱいありますが、どれも人を楽しませることができるものだと思うんですね。そういう仕事を選んだっていうのは、すごくステキだし、だから楽しみながらいっぱい勉強してほしいと思います。あとは行動すること! 私が唯一、ほかの人と違うと思うところは、とにかく行動するんですよ。この本を売るために、書店まわりもしました(笑)。そのときに断られたからといって、ヘコんだりはしません。恥ずかしいとか、バカじゃないと思われたらイヤだとか、確かに考えますけど、バカなフリしていたほうが得じゃないですか。『なまいきリボンわがままレース』はヴィレッジヴァンガードさんに置かせていただいていますが、それだってダメ元で営業して、行動した結果なんです」
――最後に、これからの目標を教えてください
「今、ヘアメイクだけでなく、衣装やプロップスという美術みたいなことをまるまるプロデュースする仕事をしています。ドール的な空間を総合的に作るようなアーティストとして認知されるようになりたいですね」
Profile
双木昭夫(なみきあきお)さん
ドールメイクアーティスト
出身地・埼玉県
ヘアメイク
座右の銘:七転び八起き
ヘアサロン勤務後、嶋田ちあき氏、吉川清美氏のアシスタントを経て、1990年にフリーのヘアメイクアップアーティストとして独立。1995年にはヘアメイク事務所クララシステムを設立。その後、椎名林檎のヘアメイクとして脚光を浴び、タレントからの指名も多数。現在は『KERA』『Popteen』『Zipper』などの原宿系ファッション誌にて「ドールメイク」を発表したり、メイクの書籍を出すなど幅広く活躍中。
双木昭夫オフィシャルブログ:
http://ameblo.jp/kurarasystem/
クララシステム公式HP:
http://home.j03.itscom.net/kurara/kurarashisutemu/kurarashisutemuhome.html
双木昭夫ツイッター:
https://twitter.com/kurarasystem
Information
なまいきリボンわがままレース Vo.3
ヘアメイク、衣装、セット、写真、紙選び、構成すべて自身で手がけた完全オリジナル本の3号目。本人いわく「この本は自分の大事な作品の発表の場」という位置づけ。他人に委ねるのではなく、自身で制作するというところにこだわりがたっぷり詰まっている。Amazon、ヴィレッジヴァンガードなどで発売中。¥1,500(税抜き)。
童話の国のドールメイク(宝島社)
『赤ずきんちゃん』『不思議の国のアリス』など、童話という新しい切り口で、ヒロイン風のメイクをドール的な世界観で双木昭夫が実践・解説。写真集としても見ることができる渾身の1冊。¥1,300(税抜き)。
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