美容関係者のたしなみ塾。いまどきの着物美学とは? 着物文化#2
美容関係の仕事をしている人なら、いまどきの着物事情を知っておくことは必須とも言えます。自分のスキルアップにも役立ち、和好みのお客様との会話も弾むはず。そのためにもまずは、着物スタイルのこと、着物文化のことをもっとよく知りましょう。
着物は着てみたいけど、「何を揃えていいのかわからない」「一回着たらクリーニングに出さないといけないのでは」「お金もかかりそう」「呉服屋さんって敷居が高い」などなど。頭から、無理!と考えている人も多いのでは。
一方で、最近、鎌倉や京都では、レンタル着物で街中を散策する女子やカップルが多く見られます。着物スタイルは京都風、江戸風、アンティーク風などとさまざまですが、着物を着ることで、女子はもちろん男子も新しい自分を発見しているようです。
“街を闊歩していた女子”から“女性らしい魅力を秘めた女子”へと簡単に変身できる着物。鎌倉レンタル着物「都」の着物スタイリスト・伊藤好江さんに、いろいろとお話を伺いました。この第二回目では、「いまどきの、着物美学」のお話です。
まず自分の好みを知ることから!
着物のイメージを大きく分類すると、京都風、江戸風、アンティーク風に分かれるのだとか。伊藤さんの着物の好みは、やはり京都風。色も柄も優しく、全体的にしっとりと馴染む穏やかな組み合わせです。対して、縞の着物を小粋に着たり、地味目の着物を帯で“魅せたり”するのは江戸風。そして最近の若い人たちに人気なのが、大正ロマン風のアンティーク着物だそうです。
「お客様に、『このお店(鎌倉)には、関東ではあまり置いていない着物や帯があるのね』とよく言われますね。自分の好きな着物や帯ばかり集めて置いているので、優しい色目のはんなりとしたものが多くなってしまいます。祖母や母の影響でしょうか、やはり京好み。でも、時にはきりっとした縞の着物、江戸風を粋に着こなしたい日もあるので、その日の気分で使い分けて楽しんでいます。
母や祖母の着物を着る場合は、帯か着物のどちらかを自分のものと合わせます。昔のままのコーディネートではどこかやはり古びた感じになってしまいますが、帯〆、帯揚げを変えるだけで見違えるほど新鮮になるんですよ。50年前の母の帯は、今も私のお気に入りとして大活躍しています。
洋服ではちょっと難しいですね。50年前の母の服はデザインも体型も違いますし。時代を超えて着られる着物って、やっぱり素晴らしいと思います」
楽しみ方の最新傾向
「若い方から中年の方まで、『着物を着るということ=日本文化や美意識を再認識したい』という方が増えています。日常生活の中にさりげなく取り入れて、四季の暮らしや着物の美しさを楽しんでいらっしゃるようです」とのこと。
そのようなカタチで着物デビューする方が多い中で、主流のスタイルは、一枚の着物を幾通りにもコーディネートして楽しむのが、最近の主流になっているのだとか。以前は大柄で特徴のある着物や色の強いものが好まれ、個性的で独特な印象を与えるようなものが人気でしたが、いまは日本文化を楽しみたいという意図で、オーソドックスな着物の生地が選ばれているようです。
「小紋、付け下げ、訪問着と用途は違っても、それぞれ飽きのこない柄や色を選んで仕立てる方が多いですね。基本となる着物に合わせて、帯や帯揚げ、帯〆で遊ぶという感じです。合わせる帯でいくらでもイメージは変わりますからね。それがみなさんとても楽しいとおっしゃいます。『着物一枚、帯三本』と昔から言いますが、帯や小物を変えるだけで、違う着物を着ているように変化するのが楽しいのです」と伊藤さん。
遊び心たっぷりの着物や帯も
季節のイベントや趣味などに合わせたモダンな着物や帯を楽しむのが、現代着物です。
「演奏会に着て行きたくなるような音符が描かれたもの、猫好きや犬好きのための動物をモチーフにしたもの、夏なら金魚と団扇と猫、冬ならクリスマスツリーや雪だるま、サンタクロースと、シーンや季節に合わせたものや、童話・不思議の国のアリス、ケーキやコーヒー、エッフェル塔、果ては国旗など、遊び心たっぷりの着物柄や帯柄も登場しています。
私も雪だるまやクリスマスツリーなど、冬の風物詩が刺繍された帯を持っています。この帯を結んでいると、『もうすぐクリスマスね』とよく声をかけられます。その時期にしか使えないからもったいないと思われますが、それがまた着物のよいところ。帯だけを変えればいいのですから、合わせやすい無地感の着物に季節の染め帯や、小物を赤や緑にするだけでもクリスマス気分たっぷりの着物スタイルの完成です。
季節ごとにいろんなコーディネートを考えるのが楽しいですよね。四季の移ろいを周りの方にも感じてもらえたら、より嬉しいもの。帯は、柄や生地が現代風にアレンジされていますが、その形が伝える着物文化は変わっていません。みなさんもぜひ、着物を着て、日本の美意識を継承していってください」と伊藤さん。
伝統的なルールは守ること
着物のコーディネートが自由になったからといって、どんな組み合わせでもいいというわけではありません。着物は伝統衣装ですので、フォーマルとカジュアルの違いはしっかり把握しておきたいもの。
フォーマル着物の素材は主に絹を使い、織り上げた白い生地に柄付けし「後染めの着物」「染めの着物」と呼びます。柄のつけ方によって黒留袖、色留袖、振袖、訪問着、付け下げ、色無地などと呼ばれ、結婚式、お葬式、お宮参り、お茶会、成人式などの正式な場所で着用します。
カジュアル着物は「小紋」という柄付けをしたものが一般的ですが、糸を染めてから反物に織りあげる「紬」、「木綿」、「デニム」、最近では「ジャージ素材」や「ストレッチ素材」といった斬新なものまであります。そのほか、浴衣もカジュアルな場面で着るもの。
「帯にも着物と同じように格があるので、そのあたりを間違わないように組み合わせることが肝心です。着物は『染めの着物』が格が高く、帯は『織の帯』が格が高いとされているので、着物と帯の格を揃えてコーディネートするのがコツ。カジュアルな着物に豪華な金糸銀糸の袋帯を合わせるのは、見た目からしても合いません。その“格”を揃える感覚を、私はとても大切にしています。
こうした伝統的なルールは、周りの方への気遣いでもあります。不快に思われるような着くずし方やコーディネートはおすすめしませんが、温暖化により、少し早めの5月の単など、気候に合わせて着るものを柔軟に変えるのは賛成です。そして何より、自分自身が快適で楽しく着物を楽しむことが一番ではないでしょうか」と語ってくださいました。
写真提供/鎌倉レンタル着物 都
取材・文・写真(一部)/ORCA
Profile
伊藤好江さん
着物スタイリスト。
縁あって呉服屋さんに嫁ぎ、子育てをしながら着物のことを少しずつ学んだそうです。日本人の心ともいうべき着物を一人でも多くの方に着ていただきたいと、京都から鎌倉へ。「四季の移ろいをまとって、普段着の和を楽しんで欲しいです」と伊藤さん。
京都 伊と彦 鎌倉店
http://www.kamakura-itohiko.jp
電話番号:0467-33-5577
鎌倉レンタル着物 都
http://www.kimono-miyako.jp/
電話番号:0467-60-5181
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