『美容室』から描かれる人間模様が話題に! 注目の映画2選
映画が好きな方もそうでない方もなんとなく気になってしまう、自分の職業が登場する映画。今回は2016年に公開され、美容師が登場する映画のなかから、2作厳選しました。映画を彩る美容師たちはどんな描かれ方をしているのか、ご紹介します。
Vol.1 美容師は女性の本質を自然と暴いてしまう?
ねじれゆく男女の思いを描く、大人のサスペンス
ベルリン国際映画祭銀熊賞をはじめ、世界で多くの映画賞を受賞している名匠、東陽一さんが監督・脚本・編集を手掛けた「だれかの木琴」。ごく普通の主婦・小夜子(常盤貴子さん)は、心の隙間に入ってきた美容師の海斗(池松壮亮さん)に、どうしようもなく心とらわれていきます。小夜子の常軌を逸した執着と、そんな彼女の飢餓感を見つめる海斗の思いが重なり合いねじれていく、男女の関係をスリリングに描いた大人のサスペンスです。主人公・小夜子が奥底に抱える孤独や葛藤を、リアルな狂気とにじみ出るようなエロスで、常盤貴子さんが繊細かつ大胆に演じました。その小夜子に対峙するのは、2014年の映画賞を総なめにした池松壮亮さん、小夜子の夫には勝村政信さんや海斗の恋人には佐津川愛美さんなど、実力派が集結した珠玉の一作です。
プロの目にはどう写る? 実力派俳優のはさみさばき
海斗が働くのはシックな色合いのレンガや木目で、明るくも落ち着ける雰囲気の郊外にある美容室。小夜子のような主婦でも入りやすく、くつろげる空間です。そして本編ではさみを握るのは海斗を演じる池松壮亮さん。美容師の方なら本職ですから、そのはさみ使いは気になるところですよね? 実はこのカットのシーン、吹き替えなど一切なしに池松さん本人が常盤貴子さんの髪を実際に切っているのです。入念なルハ―サルの後行われたこの撮影ですが、池松さん自身よりも見守るスタッフのほうが緊張していたのだとか。大女優の髪をカットするというのに、落ち着いていられるなんてさすが俳優さんですね。ぜひプロの美容師の目で池松さんのはさみさばきをチェックしてみてください。
モテる美容師の影響力は絶大?
テレビドラマなどの影響もありますが「美容師=モテる」というイメージは一般的になじみ深いものですよね。すべての美容師の方がうなずく考えではないかもしれませんが、筆者の友人で美容師をしている人は格好いいですし、実際にモテています。しかし、一方的に気に入られていつの間にかストーカーに…、もしもそんなことが自分にも起こったらなんて考えたらゾッとしますよね。小夜子の海斗に対する感情は「愛」や「恋」と表現することはできない感情なので「モテる」のとは少し違うのかもしれませんが、近い間合いで接客や会話をする美容師だからこそ、小夜子の気を引き、執着させるきっかけを与えてしまったのかもしれません。しかし海斗がやっていることは美容師として当たり前のことばかりで、何も特別な接客をしているわけではありませんでした。では何がきっかけで小夜子はストーカー行為に走ってしまったのか? 「傷つけるつもりはなくても、ただそこにいるだけで、人の心を傷つけてしまう人間…そんなやつか俺は」これは作中、海斗がつぶやいた台詞です。美容師という仕事はときに、自分が思う以上に他者への影響力を持っているのかもしれませんね。
和歌山発 優しさが詰まった美容室
和歌山が生み出した、切なくも優しい恋物語
「ちょき」は、美容室HATANOを営む直人(吉沢悠さん)が、亡くなった妻・京子(広澤草さん)の書道教室の元教え子で全盲の少女・サキ(増田璃子さん)と10年ぶりに再会し、深い葛藤を抱きながらも育む切なく優しい愛情の物語です。監督・脚本を手掛ける金井純一さんがロケ地である和歌山県に行き、そこで触れ合った町や人に触発されて書き下ろしたストーリーのため、物語の舞台には和歌山市内に実際にある横丁や学校などを使用。サキの親友のあかね(藤井武美さん)や直人の亡くなった妻・京子の母親(和泉ちぬさん)、近所のスナックのママ(芳本美代子さん)、美容室の常連の宮本(小松政夫さん)など、登場する人物の台詞はすべて和歌山弁で、本編に温かさや優しさを漂わせています。
美容室を提供したオーナーも自店で生まれた恋物語に心温まる
「わかやまじゃんじゃん横丁」というレトロな商店街に佇む「美容室HATANO」は、鏡や理容椅子、シャンプー台などすべてひとつずつで、ひとりでお店を営む直人には無駄のない、こじんまりした店舗です。実はこのお店も実際にある美容室を使用して撮影していました。どんなに早くても美容室の撮影は1週間近くかかってしまい、その間は当然営業もできないにもかかわらず、快く撮影を了承したのがこの美容室「青空とんび」です。普段はネイルアートやまつげエクステなど多様なメニューを備えている同店。店内だけでなく、外装や周囲の「じゃんじゃん横丁」など、味わい深い雰囲気が素敵です。自分の職場を舞台に紡ぎ出される物語は、同店オーナーにも熱い感動をもたらしました。
直人式 聞き上手な接客術
妻・京子に先立たれてひとり暮らしをしている主人公・直人。悲しみに打ちひしがれていると思いきや、美容室HATANOの様子からは生き生きとした印象を受けます。彼自身がよく話す訳ではありませんが、来店するお客さまは、大人から子どもまで誰もが笑顔で見るからに楽しそう。もちろんそれは、この土地特有の温かさも関係していることでしょう。しかしそれでも、努めてしゃべり通し場を盛り上げるのではなく、にじみ出る優しさやさりげなくもテンポのいい相づちだけでお客さまを楽しませるのは至難の業。“自分の接客にいまいち自信が持てない”“聞き上手になりたいのにどうしたらいいのかわからない”という方は、直人の接客から何かヒントが得られるかもしれませんね。
人の思いに寄り添う美容室
作中でスナックのママも「元カレが来るから10歳は若く見せたい」と言っていたように、美容室はいろんな思いを持って訪れる場所。10年ぶりに訪れたサキは、亡くなった恩師・京子やその夫・直人、そして自分自身の過去などさまざまな思いを胸に、美容室HATANOで施術を受けます。「京子先生みたいにして」というサキの要望に一度は言葉を詰まらせる直人ですが、その思いに真摯に向き合い、心を込めてカットしています。美容師という仕事には技術だけではなく、そうした思いに寄り添う思いやりも大切ですね。
まとめ
以上、2016年公開の美容師が登場する映画2作をお届けしました。まったくと言っていいほど正反対の作品ですが、人のいろんな思いを含んでいることは同じですね。髪を切るまでにも、切った後にもたくさんの物語があります。美容室とはそれだけいろんな人の思いが集まり、交差して本音が出せる場所なのでしょう。