昭和愛が詰まった唯一無二の個性があふれ出る『ヘア・サロン 夢屋』
店内に一歩入るとタイムスリップしたかのような感覚に陥る夢屋は、オーナースタイリストである夢 夢子さんの世界観を凝縮した個性的なヘアサロン。当時のモダンさやサイケなムード、モンドな妖しさが漂う空間では、1960〜70年代の日本のカルチャーをベースに生み出すヘアデザインをクリエイト。“好き”をとことんまで突き詰めたヘアサロンだからこそできる、他にはない店づくりを夢さんに伺いました。
ニッチなサロンが17年も愛される秘密
――今年で17年目を迎える夢屋ですが、最初から現在のスタイルだったのでしょうか?
「そう、最初からです。私1人でやっているからできるというのもあるとは思うのですが、自分の店を持つにあたり、とにかく私自身の好きなものを凝縮した結果こうなりました。昔から昭和40年代くらいのファッションやヘアスタイル、メイクをはじめ、その時代の音楽やカルチャーが大好き。オシャレだった母の影響もあって美容師を目指すようになり、20代前半に独立してここをオープンしました。世間的には早く独立しすぎだと思われるかもしれませんが、最初から1人でやりたいという意志が強かったので思い切りましたね。一般的な美容室だと、ここまで自分の世界観を丸ごと投影するのは難しいので(笑)。もちろん、提案しているヘアスタイルもその時代のヘアデザインが中心。それもあえて今風に仕上げるのではなく、当時そのままを再現することにこだわっています。当店のお客様もやはりその時代が好きで当時のヘアスタイルにしたい、という人ばかりなので、例えば他の店だとなかなか伝わりづらいニュアンスでも、“70年代好き”という共通項があるために理解しやすく、おかげで17年目を迎えることができています。」
決してブレない姿勢と高い技術が根本に
――当時のヘアスタイルを見るとボリュームのあるマッシュルームヘアや直線的なカットなどが多いですね。こういったスタイルは髪を梳いたり巻いて仕上げるのとは異なり、カット技術が非常に問われるかと思いますが?
「パツリと切りそろえた前髪やおでこの丸みに沿ってカットするなど、確かにカット技術ありきのヘアスタイルが多いです。そのため基礎となる技術そのものを磨くのはもちろんですが、お客様の骨格や全体的な雰囲気を見て、同じ髪型でも微妙に長さを調節するなど、その人のベストバランスを探すことも大切。ただ、当店では希望される髪型がかなり突飛なものでも基本的にお応えしています。お客様の“なりたい”に対していかに応えるかが私のテーマなので、何とか応えようとしているうちに技術が向上しました(笑)。」
1960~70年代好きにとっての癒し空間
――実際にお客様にはどういった方が多いのでしょう?
「「古着屋さんで働いている女の子や音楽関係の人など様々ですが、共通しているのはみなさん60〜70年代頃のカルチャーやファッションに魅了されている人ばかりというところ。店がビルの4階にあり分かりにくいため、飛び込みというよりは噂を聞いてとか紹介が中心です。中には紹介した本人は当店に来たことがなくても、きっと好きな感じだから!とお友達を紹介してくれる場合もあるみたいです。また、私自身が飲みに行くのが好きで、そういったプライベートの時間に知り合った人がご来店くださる場合も多いですね。そんな縁もあり、15周年の時は味園ユニバースで記念イベントをさせていただきました。その時に集まってくださった方々をはじめ、色々な出会いに支えられて今があるんだと感じます。今もイベントの出張ヘアセットなどに行くことも多いですが、自分が好きだと思うことを一心不乱にやって来た結果、この店が共通の嗜好を持つ人同士が集まる空間となったことがうれしいですね。」
夢さんの“好き”を突き詰めるパワーは時代という共通項によって様々な人をつなぐ糸となり、ここにしかないヘアサロンを形づくる土台となりました。後編では、流行やマスに流されずに自分の道を突き進んだからこそ完成した「夢の場所」を持つ秘訣を教えてもらいます。