勤務先の薬局が買収されたら?薬剤師が知っておくべきM&A後の待遇変化と対策

勤務先の薬局で「M&A(合併・買収)」の噂が出たり、実際に発表されたりすると、これからの雇用や働き方がどうなるのか不安に感じる方も多いのではないでしょうか。

「給料は下がるのか」「異動させられるのか」「今の店舗はどうなるのか」。そのような悩みは、変化の激しい調剤薬局業界では決して珍しいことではありません。

この記事では、薬局M&Aの基礎知識から、買収されやすい店舗の特徴、そして従業員として備えておくべきポイントを整理して解説します。漠然とした不安を解消し、前向きなキャリアを考えるための参考にしてください。

1. まず押さえるM&Aの基礎

1.1 用語(M&A/買収/事業譲渡)のざっくり位置づけ

一般的に「M&A」や「買収」と呼ばれていますが、薬局業界で主に用いられる手法は「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つに大別されます。

これらは法的な性質が異なり、従業員への影響も変わってきます。

・株式譲渡(会社ごと引き継ぐ)
会社のオーナー(株主)が変わり、会社そのものは存続します。雇用契約もそのまま引き継がれるのが一般的です。

・事業譲渡(店舗や事業だけ引き継ぐ)
会社の一部(特定の店舗など)だけを切り取って、別の会社に売却します。元の会社との雇用契約はいったん終了または変更となり、買い手企業と新たに契約を結ぶ(あるいは転籍する)手続きが必要です。

1.2 従業員の雇用・労働条件の基本的な扱い

「買収されたらすぐに解雇されるのではないか」と心配されるかもしれませんが、日本の労働法制において、M&Aを理由とした不当な解雇は厳しく制限されています。

特に「株式譲渡」の場合は、会社自体が変わらないため、原則として従来の労働条件(給与、勤務時間、有給休暇など)がそのまま維持されます。「事業譲渡」の場合でも、買い手企業はスムーズな運営のために、従来の条件を参考にオファーを出すことが一般的です。

【雇用のポイント】

・株式譲渡の場合 雇用契約はそのまま継続される。

・事業譲渡の場合 原則として本人の同意(承諾)がなければ転籍させることはできない(民法第625条)。

2. 買収後に起こりがちな変化

2.1 変化が小さいケース

従業員や患者さまへの混乱を避けるため、当面は現状維持とするケースです。

【変化が小さい例】

・薬局の名称(看板)はそのまま使用する。
・レセコンや薬歴システムは既存のものを使い続ける。
・白衣やユニフォームも変更しない。

この場合、現場のオペレーション負荷は最小限で済みますが、経営母体が変わったことによる事務手続き(保険証の切り替えや給与振込口座の変更など)は発生します。

2.2 段階的に変わるケース(看板・システム・SOP)

半年から1年ほどの時間をかけて、徐々に買い手企業のカラーに合わせていくパターンです。

【段階的変化の例】

・在庫管理システムを買い手側のシステムに統合する。
・業務マニュアル(SOP)や調剤過誤防止のルールを統一する。
・近隣店舗との在庫融通を開始する。

適応するための期間が設けられるため、現場スタッフにとっては比較的受け入れやすい進め方といえます。

2.3 大きく変わるケース(短期統合)

買い手企業が大手チェーンなどで、効率化やコンプライアンス強化を急ぐ場合に起こり得ます。

【大きな変化の例】

・M&A直後に看板や内装工事を行い、ブランドを変更する。

・人事評価制度や就業規則を、最初から買い手企業の規定に合わせる。

・近隣にドミナント展開している場合、店舗統合やスタッフのシャッフルが行われる。

このケースでは現場の負担が一時的に増すため、事前の説明会などで不安点をしっかり解消しておくことが重要です。

3. どんな薬局で買収が起きやすい?

3.1 後継者不在・採用難の店舗

現在、薬局M&Aの最大の理由は「後継者不足」です。

経営者が高齢化しているものの、親族や社内に引き継ぐ人がいない場合、廃業を避けるために第三者へ譲渡する選択がなされます。また、地方などで薬剤師の採用が困難な店舗も、大手の人材力を頼って譲渡されるケースがあります。

3.2 立地・処方元が安定し規模拡大に適した店舗

買い手企業から見て「魅力的」な店舗です。

【魅力的な店舗の例】

・駅前や医療モール内など、好立地にある。

・処方元の医療機関が若く、将来にわたって処方箋枚数が安定している。

・地域で一定の認知度があり、かかりつけ機能が充実している。

こうした店舗は、買い手にとっても収益基盤の強化につながるため、積極的に声がかかります。

3.3 本部機能を持たない/分散コストが高い小規模チェーン

調剤報酬改定のたびに厳しくなる経営環境において、規模のメリットが出しにくい小規模チェーンも対象となりやすい傾向にあります。

3〜5店舗程度の規模では、薬剤師の欠員補充や在庫管理、システムの更新コストなどが経営を圧迫することがあるため、大手グループに入ることで安定を図ろうとする動きが見られます。

3.4 在宅・専門性などシナジーが見込める店舗

特定の領域に強みを持つ薬局も注目されています。

【シナジーの例】

・無菌調剤室を持ち、在宅医療に深く入り込んでいる。

・特定の専門医療機関(がん、不妊治療など)の門前で高度薬学管理を行っている。

買い手企業が「そのノウハウを取り込みたい」と考える場合、M&Aの対象となることがあります。

4. どんな薬局は買収が起きにくい/対象外になりやすい?

4.1 依存度が高い単一処方元・契約不安定

特定の医師との個人的な関係だけで成り立っている薬局は、リスクが高いと判断されます。

【敬遠される例】

・処方元の医師が高齢で、閉院の可能性がある。

・賃貸借契約がオーナー個人の人間関係に基づいており、経営者が変わると更新できない可能性がある。

ビジネスとしての継続性が不透明な場合、買い手は慎重になります。

4.2 法令順守・監査で課題が多い

M&Aの前には必ず「デューデリジェンス(買収監査)」が行われます。ここで法令違反が見つかると、話が白紙になることがよくあります。

【課題の例】

・薬剤師の名義貸しや、配置基準を満たしていない状態が常態化している。

・調剤報酬の請求において、算定要件を満たしていない不適切な請求がある。

これらは買収後の返還請求リスクや行政処分リスクとなるため、非常に厳しくチェックされます。

4.3 粗利・人件費構造が合わない/設備更新負担大

利益構造がいびつな場合も難航します。

例えば、処方箋単価に対して薬剤師の給与相場が極端に高い場合や、建物・設備が老朽化しており、買収後に多額の修繕費がかかる場合などは、投資対効果が合わないと判断されることがあります。

4.4 地域戦略と合致しない

買い手企業にも「出店戦略」があります。管理薬剤師を派遣できないような飛び地(遠隔地)にある店舗や、すでに自社店舗が密集しすぎていてカニバリゼーション(共食い)が起きそうなエリアの店舗は、対象外となることがあります。

5. 従業員視点の備え

5.1 Day1に確認する4項目

M&Aの初日(Day1)や説明会の時点で、最低限以下の4つは確認しておきましょう。

【確認リスト】

1.雇用契約の形態   そのまま継続か、巻き直しか(転籍か)。

2.給与・手当   基本給や手当の構成に変更はあるか。

3.退職金の扱い   以前の会社の積み立て分はどう清算(または引き継ぎ)されるか。

4.有給休暇   残日数はそのまま引き継がれるか。

5.2 30日以内に整えること

新しい環境に慣れるために、最初の1ヶ月で以下の準備を進めておくとスムーズです。

・新ルールの把握   勤怠管理の方法や、経費精算のフローなど、事務的なルールの違いを覚える。

・人間関係の構築   買い手側から派遣されてくるエリアマネージャーや新店長とのコミュニケーションをとる。

5.3 変わらないプロ基準(患者安全・法令)

経営者が変わっても、薬剤師や医療事務としての「プロフェッショナリズム」は変わりません。

特に「患者さまの安全」と「法令順守」については、どのような経営方針であっても譲れないラインです。システムや手順が変わっても、調剤過誤を起こさないためのダブルチェックや、患者さまへの丁寧な服薬指導は継続することが、あなた自身の身を守ることにもつながります。

6. 現場で最低限チェックしておくこと

6.1 シフト・異動の方針

店舗運営において最も重要なのが人員体制です。

今のメンバーでそのまま運営するのか、他店舗からの応援が入るのか、あるいは他店舗へのヘルプが求められるようになるのか、方針を確認しておく必要があります。

6.2 システム切替の有無とタイミング

レセコンや電子薬歴の切り替えは、現場にとって最大のストレス要因の一つです。

「いつ切り替わるのか」「操作研修はいつ行われるのか」「旧データの閲覧方法は確保されるか」を事前に把握し、準備しておくことが大切です。

6.3 薬歴・レセプトの締めスケジュール

会社が変わると、月次の締め日やレセプト請求のスケジュール、チェック体制が変わることがあります。特に買収直後のレセプト請求時期は混乱しやすいため、早めにスケジュールを確認しておきましょう。

6.4 連絡・相談窓口(指示系統)

「誰に相談すればいいかわからない」というのが、M&A直後の現場でよくある悩みです。

業務上の不明点や、人事的な悩みが出た際に、誰(旧経営者なのか、新会社のマネージャーなのか)に連絡すればよいか、指揮命令系統を明確にしておきましょう。

7. よくあるQ&A

7.1 給与・雇用は?

基本的には維持されます。

特にM&A直後に給与が下がることは、従業員の離職を招くため買い手企業も避ける傾向にあります。ただし、賞与(ボーナス)の算定基準や、手当の項目は、数年かけて新会社の規定に統合されていくケースが一般的です。

7.2 休み・残業は?

新会社の就業規則に準じる形へ徐々に移行します。

年間休日数などは、大手に統合されることで逆に増えるケースもあります。一方で、みなし残業などの取り扱いは会社によって異なるため、労働条件通知書をよく確認する必要があります。

7.3 異動は?

会社の規模と方針によります。

「自宅から通勤可能な範囲(90分以内など)」という条件が付くことが一般的ですが、全国展開しているチェーンの場合、エリアをまたぐ異動の打診がある可能性もゼロではありません。家庭の事情などで異動が難しい場合は、早めに面談で伝えておくことが大切です。

ご自身の勤務先で動きがあった場合でも、まずは冷静に「何が変わるのか」「何が変わらないのか」を見極めることから始めてみてください。

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この記事の監修者

原瑞希
薬剤師専任キャリアアドバイザー
薬剤師免許保有

【経歴・実績】
・ドラッグストアチェーンにて薬剤師として3年間従事
・2024年度 新人賞(銀賞)受賞

【プロフィール】
元薬剤師として現場の空気感やストレスを肌感覚で理解しているため、悩みへの深い共感が可能です。
求人紹介だけでなく、入社後の教育体制まで徹底確認して提案。生活の変化を具体的にシミュレーションし、不安のない転職を支えます。

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