まつエク業界は美容師参入でどう変わった? 美容室&まつエクサロン兼業のすすめ
美容業界の中では歴史がまだ20年足らずであるまつエク業界ですが、この数年で大きく変化しつつあります。特に顕著なのは、美容室とまつエクサロンの兼業店舗の増加です。そのきっかけとなったのは、「美容師免許保有の義務化」にあります。いい意味で、美容師の参入はこれまでのまつエク業界に新しい流れを作りつつあるようです。
今回は美容師のまつエク業界での働き方についてや、まつエクサロンと美容室の兼業のあり方について、一般社団法人 日本アイリスト協会で代表理事をつとめる、志太 しおん(しだしおん)さん、同協会で名誉認定講師をつとめる福井 チワコ(ふくいちわこ)さんに話を伺いました。
美容師免許が必要になったことで、アイリストの質が変化
アイリストという職種は、2008年に美容師免許の取得が義務化されました。それまではネイリストと同様に国家資格なしで仕事に就くことができ、誰でもアイリストになるチャンスがありましたが、技術面でのばらつきが目立ち、未熟な施術でのトラブル報告が後を絶たなかったため、厚生労働省がやむをえず義務化した形になります。
美容師免許は国家資格であり簡単に取得できるものではないので、当時活躍していたアイリストの中には廃業されてしまう方もおられました。アイリストとしての人数自体は2008年以降減少していますが、美容師免許が義務化されたことで、「美容師免許を取得してでも頑張ろう」というアイリストだけが残り、アイリストの質としては向上したといえるでしょう。
また、ここで今まで蚊帳の外であった美容師からの注目を浴びる形となります。
「美容師でまつエク業界に参入してくる人材は増えてきています。日本アイリスト協会では協会個人正会員加入の条件のひとつが美容師免許を保有していることなのですが、業界からも多くの信頼を頂いております。
美容師免許が必須になった際には協会の人数もがグッと減ったのですが、その後増加して安定しているので、美容師の加入が増えたといえます。今までアイリストのキャリアがある方を除いてはまつエクのためにわざわざ美容師免許をとるという方は決して多くはなく、元々美容師として働いていた方がアイリストに転向、もしくは美容師と兼業するケースが増えています。」
アイリストというセカンドキャリアで美容師の働き方が変わった
美容師の参入が増えた理由としては、資格をいかせるということは大前提ですが、それ以上にアイリストの働きやすさが一番の理由だといえます。
現在、24万件以上の美容院があり、約50万人が美容師として働いています。新たに美容師免許を取得する人数としては毎年約2万人です。しかし、この数年は年に5,000人程度の増加しか見られません。美容師は独立したり個人事業主として働く方が多いためあまり定年という概念がないのですが、年間1万5,000人ほどが離職していることになります。
美容師は離職率が高い職業としても知られており、在職期間の短さは下記のグラフでわかります。
出典元:インテリジェンス anレポート
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女性の離職率が約75%を占め、本来であれば中堅として活躍するはずの30代以上の離職が目立ちます。
出典元:インテリジェンス anレポート
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ちなみに、退職理由としては、給与の低さや労働時間の長さ、休日や勤務時間の調整が難しいといった労働環境への不満が大部分を占めますが、薬剤のアレルギーのため退職した方も15%程度いらっしゃいます。
このように、やむをえず退職した美容師にとって、美容師資格をいかせるアイリストは非常に魅力的な職業といえます。美容師がアイリストに転向する理由についてみてみましょう。
時間の融通がきく
まず、アイリストの一番の魅力としては、時間の融通がきくという部分が大きいです。
まつエクは60~90分の施術で、だいたいリペア含め月に1~2回の来店になります。固定のお客様についてはある程度自分で予約調整できるので勤務時間の管理はしやすいでしょう。カット・カラーで1人のお客様に2~3時間かかる美容院を考えると、業務効率としても良いといえます。
薬剤アレルギーでも大丈夫
アイリストの場合、薬剤を使用することは一切なく、基本はピンセットでの作業になりますので直接グルー(接着剤)に触れることもありません。
美容師に比べると皮膚への負担が圧倒的に少なく、エステティシャンのようにオイルや化粧品に触れることもないので、美容師資格を生かしながらのセカンドキャリアとしては最適だといえます。
ブランクが空いても大丈夫
美容師の場合、シーズンごとにトレンドががらっと変わり、薬剤も変わることが多いため、日々トレンドや新しい商材の勉強をしなくてはいけません。
まつエクの場合、カラーなどのトレンドはあるものの大きな手技の変化はあまりなく、毎回同じように仕上げてほしいというお客様がほとんどなので、多少ブランクが空いてもついていけないということがありません。そのため、出産や育児が落ち着いたタイミングで、安心して仕事に復帰することができます。
「私たちは、まつげ美容師という職業が日本の女性の働き方の選択肢の1つになればいいと思っています。結婚・出産・介護など、女性には自分の意志で決められないライフスタイルの変化がいくつも訪れます。
例えば今回の新型コロナ感染症の影響ひとつとっても、小さなお子さんが休校になったら仕事にいけません。まつエクについては完全予約制で回すことができるので時間の調整はしやすいです。出産後すぐでも、特定の常連さんの対応だけしているアイリストもいます。復職はしやすいと皆さんおっしゃっているので、まさに働き方改革の世の中に合致する仕事だと思います。」
もちろんアイリストへの転向によるセカンドキャリアだけでなく、副業としてのまつエクもおすすめです。現役の美容師でアイリストを兼業するケースも増えてきています。副業としてアイリストの技術を身につけておくことで仕事の幅も広がるので、働く際のリスクヘッジにもなるといえるでしょう。
兼業サロンにありがちなトラブルから学ぶ、美容院内まつエクの注意点
上記のような理由から、個人でのアイリスト転向だけでなく、美容院の中でアイリストを雇用したり、スタッフにまつエク技術を習得させてまつエクメニューを作る美容院も増えてきました。お客様としては、同じサロンで全て済むのでとてもありがたい話ではありますし、店舗としても、来店頻度と客単価のアップというメリットがあります。
また、まつエクについては必要な資材がベッドと商材のみである点というのも魅力です。技術の習得以外での初期投資が少ないため、現在すでに店舗をお持ちであればスペースさえあればすぐに始めることができるでしょう。
兼業サロンだからこそ、技術力は必須
美容院にまつエクを取り入れる場合、オプション的にはじめることも多いですが、まずは技術が安定していることが前提になります。技術が追いついていないとお客様からの評判もイマイチになり、結果的にサロンの評判を落としかねません。
兼業サロンにするうえで注意すべきこと/
アイリストさえいれば手軽にスタートできそうなまつエクですが、思わぬ落とし穴があります。それは施術場所と商材の管理場所です。
「講師としてサロンを訪問する際、どんな環境でまつエクの施術スペースをとっているか、どのような商材を使っているのか、まず確認をします。技術があっても、商材選びを間違えると仕上がりが大きく変わってしまいます。美容院の場合、固定の卸業者を使うことが多いので仕入れ商材が限られることもトラブルの原因になります。
たとえばカラー剤やパーマ液との相性もかなり大きな要素です。まつエクのグルーはアルカリ性の影響を受けやすいので、排水溝やシャンプー台の近くでの施術は致命的です。薬剤は揮発しやすく、空気中にも漂います。また、施術場所自体はシャンプー台から離れていても商材がアルカリ性の薬剤と一緒に保管してある場合もあるので、そのあたりも注意が必要です。
そういった見えない要因で、10日ほどでお客様のまつエクがとれてしまって技術に自信をなくしてしまうスタッフもいます。美容室や卸業者でもそこまでは知らないケースが多いです。」
このような点からも、一度外部講師に依頼し、技術・設備含め確認してもらうというのは、安心材料になりそうです。
オプションとしてのまつエク 美容院だからこそできるトータルバランスでの提案
見落としがちな兼業サロンを営業するうえでの注意点をお伝えしましたが、兼業サロンは圧倒的にメリットが多いです。まずは先述したように、お客様の来店頻度および単価アップが期待できます。設備投資やランニングコストに対しての利益率は非常に高いといえます。そして、本来であれば結婚や出産で退職してしまう優秀な美容師をうまく囲い込むことができ、長く働いてもらうことができます。将来的な人材不足の対策にもなるのです。
自分のサロンで雇わなくても、デッドスペースになっている空間を面貸しでアイリストに貸すという選択もできるでしょう。
そして、美容師の最大の強みであるのが、「トータルバランスでの提案ができること」です。美容師は元々頭蓋骨や顔の形を見ながらカットをおこなう習慣を身につけているので、目だけではなくトータルバランスでの施術に長けています。例えば、カラーのお客様に眉毛のカラーリングとまつエクを合わせて提案することもできますし、髪のイメージに合わせたまつエク施術もできます。
その点では、目に特化しているアイリストよりも兼業サロンのアイリストの方が提案の幅が広がり、顧客満足度もあがりやすくなるといえます。美容師目線でのカウンセリングと施術をおこなうことでまつエク専門のサロンとの差別化をはかることができるのです。
キャリアに悩む美容師の目線でいっても、出産・育児のブランクがあってもスポットで働くことができ、勤務時間も調整がしやすいまつエクは、まさに働き方改革といえます。今後も、美容院とまつエクサロンの兼業サロンの伸びしろは大いに期待できそうです。
※「アイリスト」は有限会社ローヤル化研の商標です。
出典元:
第68回日本統計年鑑 第24章 保健衛生
24- 4 生活衛生関係施設数及び理容師・美容師・クリーニング師
公益財団法人理容師美容師研修試験センター
新規免許登録人数
インテリジェンス anレポート
資格があっても働かないのはなぜ? 理美容界の人材不足、その解決法を探る
Profile
志太しおん
2007年、まつ毛エクステに魅了されサロン開業。黎明期の業界にて、様々なトラブルも多く、正しい技術と知識の普及活動の為に同じ志を持つ有志と共に全国にて講師活動を開始。同時に地元長野でのスクール開講。2013年(一社)日本アイリスト協会の代表理事就任。業界の発展の為に邁進。その他の活動として、各コンテストの審査員や美容学校の講師も務め、女性でも自立し十分な収入や夢が叶うアイリストという仕事を現場で活かし、成功させる指導者として、より高みを目指す。
福井チワコ
まつ毛美容師・講師
WELLS Beauty Eyeash Training School主宰。
子育て中にまつ毛エクステプライベートサロンを西宮市でスタート。技術だけではなく商材知識やカウンセリング・デザイニングの大切さを伝えることの重要性に気づき、同業者たちとの勉強会やイベントを開催。その後、まつ毛エクステンション専門スクールを開校。後に(社)日本アイリスト協会の認定講師となる。
一方、2014 年より世界的ブランドである BLINK LASH のテクニカルプロデューサーとなり教育システムを監修。海外でのエデュケーター活動もスタートする。
コンテスト審査員実績多数。まつ毛エクステンションを通して、女性の新しいライフスタイルや美容師の新しい可能性を提案していきたいと考えている。