子どもが成長すると問題も変わる!? 求められるのはフレキシブルな対応力 apish AOYAMA トップスタイリスト ひぐちいづみさん#2
予約が取れない人気ヘアサロンapishで、青山店でトップスタイリストとして勤務しているひぐち いづみさん。
前編では、apishのワーキングママ第一号だったご本人はもちろん、会社もスタッフも試行錯誤の連続だったお話を伺いました。後編では、保育園よりも難しい小学生の子育てのお話やすき間時間を使った有効的な働き方などをご紹介します。
お話を伺ったのは…
apish AOYAMA トップスタイリスト
ひぐちいづみさん
国際文化理容美容専門学校を卒業後、スタジオVに入社。4年後、坂巻哲也氏が立ち上げたapishに参加。現在はapish AOYAMAでトップスタイリストとしてサロンワークをこなすかたわら、プレス業務を担っている。
小学生になると公的サポートが激減! 夫の実家近くへ引っ越すことに
ひぐちさんのある日のタイムスケジュール
――お子さんが大きくなると、子育てはラクになったのでは?
子どもの世話には手がかからなくなりますが、別の意味で大変になりました。
保育園は18時まで預かってくれますが、小学生になると放課後は子どもの面倒を見てくれる人がいないんです。子どものことを考えて、夫の実家がある千葉に引っ越すことに決めました。
――サポートしてくれる人が近所にいると、心強いですよね。
夫の実家とは言え、すっかり甘えると親の負担が大きくなりますから、基本は頼らないけれど、困ったときは「お願い」というスタンスを心がけました。
――お子さんは新しい環境にすぐ慣れましたか?
最初のうちは「友だちと離れたくない!」と言っていましたが、小学1年生になるタイミングだったので、すんなり溶け込めたようです。
学校が終わったら学童保育に預けていたんですが、そこで気づいちゃったんですね。「〇〇ちゃんは家に帰るのに、なんで私はここにいるの?」「△△ちゃんのお母さんがいつも家にいるのに、どうしてママは働いているの?」って聞いてくるんです。
保育園に通っていたときは、まわりのお母さんはみんな仕事をしていたけれど、小学生になると家庭環境がばらばら。自分とは違う家があることに、納得できなかったみたいです(笑)
保育園までは何とかしのげても、小学生にあがるタイミングで働き方を見直す人が多いですね。
――お子さんはずっと学童保育に通っているんですか?
小学4年生になるころには、「もう行きたくない」と言われてしまって。まわりが自分よりも幼い子ばかりなのもイヤだったんでしょうね。じゃあ「1人でお留守番は?」って聞いたら、それも嫌がる。仕方なく、放課後は祖父母の家に直行させて、私が帰宅するまで預かってもらうようにしました。
移動時間や習い事の待ち時間を仕事とプライベートに有効活用
――ひぐちさんが子育てでこだわっていることはありますか?
「仕事をしているから」という理由で、子どもに何かを諦めさせたくないんです。子どもが何かを「習いたい」と言ったら、ちゃんと習い事をさせたことでしょうか。
子どもにとって今しかできないことは習い事です。後々になって「ママが働いていたから私はガマンした」なんて言わないように、一通りやってきたつもりです。
学校の行事もできる限り参加しましたよ。PTAの役員もやりました。
――ちなみにお子さんの習い事は何ですか?
火曜は公文と新体操。水曜と木曜は学習塾。金曜は公文とピアノです。いまはびっしり入っていますが、小学校を卒業したら「いったん習い事をリセットしようね」と言っています。
――通勤時間が長くなって大変なのに、時間をどうやって工面したんですか?
夕食を外で食べたり、惣菜を買ってきたり、手を抜けるところは抜きました。
通勤時間が長くなると、その間にメールチェックなど仕事ができます。通勤時間だけで足りなければ、子どもが習いごとをしている間の待ち時間を使うこともありました。
――今、ひぐちさんはサロンワークのほかに広報のお仕事もなさっていますよね。
最初のうちは坂巻のマネージメントをしていましたが、そのうちにスタッフ全員のマネージメントも担当するようになり、子どもが生まれてからは広報を兼ねるようになりました。取材の依頼とか撮影の手配などは、ほとんどメールでのやり取りなんです。ずっとサロンにいる必要がなく、時短勤務でもできます。すごくいい働き方をさせてもらっています。
――ワーママだからこそ、仕事に対するこだわりはありますか?
子どもの都合で仕事に穴を空けないことですね。せっかくお客さまにご予約をいただいたのに、「子どもが熱を出したので、予約を変更してください」とは言えません。子どもの体調管理には、ものすごく気を遣いました。
――これだけ忙しいと、どのタイミングで息抜きをしているんですか?
子どもの習い事を待っている間ですね。車の中で待っているときは好きな音楽を聴いたり、甘いものをこっそり食べたりして、ひとり時間をつくるとリセットできます。
2か月に1回のペースで仲のいい友人と、ちょっと贅沢なランチを食べに行くのもいい息抜きになっています。「私たち幸せだよね~!」なんておしゃべりしています(笑)。
コロナ禍でしばらくランチ会ができなかったときは、ストレスが溜まりました。
ママ目線で気づくことが増え、仕事の幅を広げるきっかけに
――母になったことは仕事にどう活かされていますか?
私の中にある「可愛いものが好き」という気持ちは変わりませんが、自分が母親になって、今ものすごく力を入れているのは七五三の着付けとヘアです。みなさん成人式にはとてもこだわるのに、七五三に関してはそうでもないんですよね。もっと可愛くできるのに、すごくもったいない!
子どもの顔立ちはどんどん変わります。いちばん可愛いときの姿を残してあげたいですね。
お子さんの脱毛やカラーリングの相談を受けることもあります。脱毛は大人のお悩みだと思っていたら、10代の女の子の悩みになり、今や小学生の悩みになっています。自分に子どもがいなかったら、お悩みの低年齢化に気づかなかったでしょうね。
子どもを産んでから脱毛の資格を取ったので、このサロンでも施術ができるようになりました。気軽に相談していただきたいですね。
――これからワーママになる人に向けてアドバイスをお願いします。
ほかの美容室に勤めるママ美容師から、相談を受ける機会が増えました。私たちが取り組んでいるサポートを説明すると、「それはapishだからできること」って、言われることもあります。だからといって諦めないでほしい。少しずつサポートの輪が広がっていけばいいな…と思っています。
私がワーママ第一号になって、何が正解なのか分からないままここまで来ました。自分にちょっと厳しかったかもしれません。後輩の中には「みんなが“ひぐちさん”にはなれません」と言われたこともあります。
環境に甘えすぎず、ガンバリ続けてほしいな…と思います。
ひぐちさんが仕事と育児を両立させる3つのポイント
1.家事で手を抜けるところは抜く
2.すき間時間を使って仕事をこなす
3.ひとり時間をつくってリフレッシュする
仕事をするときは子どもを言い訳にせず、子どもと向き合うときは仕事を言い訳にしない。簡単なようで実は難しいルールをご自身に課しているひぐちさん。ストレスが溜まりすぎないように、すき間時間を使って少しずつガス抜きするのが効果的なようです。
撮影/古谷利幸(F-REX-on)