正月を寿ぐ初詣をもうひとつ。天神様の初天神にいきませんか? 【縁起物・前編】
お正月の三が日が明けたあたりで、髪をカットする。あるいは、ネイルケアに行くのがけっこう好きです。
三が日直後が無理なら、せめて、東京で門松のとれる1月7日あたり。という風に、こだわってしまうのは、正月休みで弛緩しきったわが身をシャキッとしてくれるのは、そうゆう美意識の高い場所。
そこで、スキっときれいにしてもらうことが、新年のスタートにいちばん相応しいと思うからです。
スタッフの方との会話も、「初詣はどこに行かれたんですか?」とか、寿いだ話題も好ましいもの。そんなとき。私としては、ここぞと、とっておきの話題をお返ししてみたりする。
初詣につづき、1月は、これからもっと素敵な行事があるの知ってます?
「それってなんですか?」
「天神さんの使者である、こんなカワイイ縁起物をやり取りする行事です」
天神さんとともにいるのは、天神さんの使者とされる鷽(うそ)という鳥。それを模した縁起物の「木鷽(きうそ)」です。
江戸東京の縁起物の話題なら、多少の自信を持つ私ですが、必ず興味を持っていただけるとは限らない。
しかし、1月25日に天神さんで行われる年中行事「鷽替えの神事」の話をして受けなかったことはありません。
その最たる理由は、やはり、そこに登場する縁起物の可愛らしさ。そして、天満宮という、神社の中でも美意識が高い場所のチカラもあると思う。
「鷽替えの神事」は、初天神の行事
菅原道真公は、6月25日生まれ。政略にはまり、身に覚えのない罪によって大宰府左遷の命令が下されたのが1月25日。
その地で、失意のうちにこの世を去ることになりますが、なんと、その御命日が、2月25日。なにかとても、25日に縁のあるご生涯。
なので、道真公を天神さんとして祀る神社(天満宮とか天神社と呼ばれるところ)の縁日は、毎月25日とされています。
その1年の最初の天神様のご縁日は「初天神」と呼ばれ、多くの天神社・天満宮では「鷽替えの神事」というものが執り行われる。木鷽は、このとき授与される縁起物です。
上の写真のように愛くるしい姿カタチ。それが、「鷽という鳥」という基本をまもりつつも、いろいろなカタチがあるのも楽しくて、これは、数ある縁起物の中でも、洗練度高くデザインされたもののひとつと思います。
「鷽替えの神事」と「木鷽」の大元のルーツは、本家本元・九州大宰府天満宮にあります
九州大宰府天満宮は、菅原道真公の墓所に建てられた神社。全国津々浦々にある、天神社・天満宮の本家本元であるココが、「鷽替えの神事」の発祥でもあるそうです。
この神事の作法は、参拝者が、あらかじめ持つ「木鷽」を、「替えましょう」「替えましょう」と言い合いつつ、自分の木鷽を見知らぬどなたかへ、そして、それがまた見知らぬ方へ……。「木鷽」は、互いにどんどん取り替えられてゆくという参拝者参加型。
かつて「鷽替えの神事」を執り行う神社では、同じくこのような「木鷽の交換の行事」が行われていたそうですが、現在、リアルに取り替えるのは大宰府天満宮のみだとか。
大宰府天満宮の木鷽さんの姿はこんな風です
眼光鋭く。きれいな羽根を持ち。金色のアタマ!木鷽の交換は、ころあいを見て、神職の方がストップをかけ、その時、神職さんの示した合言葉(漢字や数字)が書かれた木鷽を持っている方が当たり。その方は「純金鷽」を授与いただけるそうですよ。そして、実は、上の写真は、それを小さく小さくした御守り。太宰府天満宮に旅した友人からもらったお土産なのですが、ほぼカタチは同じなうえに、めでたい金のアタマを持つ木鷽さんなのでここに登場させた次第です。木鷽の担うご縁起は、「災厄・凶事をうそにして、幸運に替える」ということ。境内で、人の手から人の手へとめぐらせるのも、そういう縁起を担くためのようです。ちなみに、太宰府天満宮の「鷽替えの神事」は、初天神の1月25日ではなくて、1月7日。今年これから行ってみようと思った方が、もしいらしたら、ごめんなさい。今年は残念ながら終了してしまっています。
大宰府天満宮から、江戸東京の亀戸天神へ
大宰府天満宮の「鷽替えの神事」は、その後、それぞれの天神社がこれ模し、少しずつ形を変えて全国へ広がっていきました。
東京都内でこの神事が行われるのは、五條天神、亀戸天神、湯島天神など。特に、亀戸天神は由緒が古く江戸時代の後半から続く神事です。
始まりは、文政3年(1820年)からだそうですから、もうこの江戸東京で、200年近く木鷽は、「凶事をうそにして、幸運に変え続け」てくださっているようです。
特に、亀戸天神といったら木鷽というぐらい、この界隈の方に愛されている証拠もあって、なんと、ガードレールのデザインにまで採用されています。
参道前の通りの左右に彩色していない木鷽が延々並び、参道前のものだけ彩色してあるという念の入れようです。
亀戸天神の木鷽さんは、大宰府天満宮と比べると、和みキャラ風
亀戸天神の木鷽のサイズは10種類ほど、酉の市の熊手さながらに、最初小さいものから買い求め、毎年ひとつずつ大きくしていくようです。
しかし、このやや暢気そうで、ひょうきんな表情。このままアニメの人気キャラクターになりそうな気さえします。
こちらの「鷽替えの神事」は、天神様で、木鷽を授与いただくという普通のお守りと同じ。ただしいつもと違うのは、初天神の1月25日は、木鷽を求める方の行列ができているってコトでしょうか?(前日の24日も授与があります。もちろん行列も!)
そして、昨年の木鷽は、境内にある鷽塚に納めるという作法。
普段は、境内にひっそりたたずむ石の木鷽像ですが、「鷽替えの神事」の当日は、ここに祭壇が設けられ、木鷽がたくさん納められます。
そして、「鷽替えの神事」が終わったあとも、それは続き、春先ぐらいまで鷽塚のあたりにこんな光景が見られます。
実は、これだけたくさん集まるとさらに可愛さが増すもので、春先、亀戸天神さんにうががった折りは、ここもちゃんとお参りすることにしています。
ちなみに、亀戸天神では、通年授与している鷽グッズも豊富で、「鷽ストラップ」、「鷽笛」、「鷽鈴」といろいろ。
ところで、亀戸天神の「鷽替えの神事」も江戸から明治時代にかけては、着物の袖に木鷽をしのばせ、境内にて袖から袖へと替えていたそうです。
それが、その神事にスリが紛れ込む事態となって被害が頻発。やむなく、今のスタイルにしたんだとか。ふーむ。ちょっと残念なお話ですね。
さて、江戸東京の「鷽替えの神事」は、あと2ヶ所。後編は、そちらをご紹介いたしますね。
文・写真
タオミチル
旧暦ライフスタイル研究ライター、ブックレビュアー。ブログ「ミチル日々」http://michiruhibi.com/にて、年中行事、縁起物などを含む、旧暦ライフスタイルを発信中。
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