「誰かのためになる」ならやってみる 独立を目指すあなたへ vol.5【ONEone二子玉川 中山雄太さん】#1
独立・開業を目指す人に向けて、独立経験者の話を伺う本企画。今回ご登場いただくのは、ファミリーに人気の高い二子玉川に、ママのための美容室をオープンした「ONEone二子玉川」代表の中山雄太さん。美容師を志すも、入店3カ月で退職し、美容業界から離れた中山さん。なぜまた、ヘアサロンをオープンすることになったのか、前編・後編に分けてお伺いします。
「ただただ甘かった」入店3カ月で美容師への道を断念
――美容師を志したきっかけは?
中学生のころ、『Choki Choki』が大人気で、僕もよく読んでいたんです。掲載されているスナップとかで、カッコいい人はだいたい美容師で。それで美容師にあこがれました。「美容師=かっこいい」というイメージがありましたね。
――そのまま、美容学校へ入学し、新卒でヘアサロンに入社されて。3カ月で退職したのは、なぜですか?
単純に、僕の考えが甘かったんです。「美容師=かっこいい」というイメージだけで、美容師になればカッコよくなれると思ってましたけど、実際は全然違うじゃないですか。美容学校時代はただただ楽しいだけで、サロンワークの現場っていうのを就職して初めて体験して…、学生時代とのギャップがすごくて。ついていけなくなって、早々にやめてしまいました。とても憧れていたサロンに入れたので嬉しかったのですが、その考えの甘さでやめてしまったので当時の皆さんにはとても申し訳なく思っています。
――その後は?
すぐに雑誌の編集やデザインをしている会社に就職しました。美容師を目指したきっかけもそうですけど、やっぱり雑誌が好きだったんですよね。編集というよりは、誌面のデザインとかをしてみたいなと思っていました。でもデザイン系だと、なかなか就職できなくて。「編集者になったら、デザインにも関われるんじゃないかな?」と思って、デザインもしている編集プロダクションに入ったんです。それからメンズ誌の編集を中心に、5年ほど働きました。その後は独立して、フリーランスのライター兼デザイナーとして活動していました。
――美容業界とは、まったく別の道に進まれたんですね。
雑誌のヘアの企画や、ヘアカタログを1冊任されたり、というのはありましたけど…。正直、美容師をあきらめた時点で、美容業界に関わりたいという気持ちがまったくなくなったんですよね。
さまざまな経験がつながり、開業へ
――では、美容室をオープンすることになった経緯は?
いろんな経験と、気持ちがつながったっていうんですかね。
僕は、もともと実家が自営をしていたこともあり、会社に勤めるよりも自分で何かしたいっていう気持ちが強くて、漠然と「社長になりたい」と思っていたんです。
それで、28歳くらいのとき、ちょっと先のこととか考えるようになって。それまでしていたライターという仕事を続けたいか?と考えたんです。若いころに始めて、それしか知らなかったから続けていたんですけど…。スタッフさんを調整したり、取材のアポイントを取ったりするのは自信があったけど、インタビューがすごく苦手で(笑)。もうやりたくないっていう気持ちが大きくなっていたんですよね。それで、「30歳までには、ライターをやめて、何かしたい」と、より強く考えるようになりました。
――28歳くらいって、そういう時期ですね。
はい。そんなときに、同世代の美容師の友人と「これからこんな美容室いいよね」っていう話をしていたんです、世間話的な会話なんですけど。そのなかで、その友人の奥さんが出産を機に美容師を辞めたという話になって、子どもがある程度大きくなったら復帰したいんだけど、復帰できる場所がなくて困っていると聞いたんです。
それとは別に、これからの主流は訪問カットになるっていう話も、どこかで聞いていて。訪問カットって、お年寄りのイメージだけど、子連れの方はどうなんだろう? 子どもがいると、なかなか美容室に行けないよな、と思ったんですよね。そういうのが、バーッと頭のなかでつながって。
――出産後に美容室に復帰できない美容師と、育児で美容室に行けないママ、ですね。
例えば、子連れのママ美容師が保育園や幼稚園に行ってカットしますよっていうのはどうだろう? それなら職場復帰しなくても、現地に行けばいいな、とか。でもそうなると、親御さんがその場にいないとクレームになるかな。じゃあ訪問はどうだろう?と。
子連れで美容室に行けない人がいるのであれば、同じ目線のママ美容師が家に来て、髪をカットしてくれたら、子育てという共通点もあるし、いいんじゃないかなと思ったんです。
美容師の友人の奥さんも動ける状態だったので、じゃあ僕がやってみるよと。まずはインスタグラムで、美容室に行けない子連れの方に向けて、無料で出張カットに行きますよっていうのを発信しました。『ONEone』は、そこから始まったんです。
――訪問カットからスタートしたんですね。
はい、2016年5月ですね。僕とママ美容師の二人で、お掃除セットとハサミだけ持って。最初は1カ月に1件依頼がきたらいいほうだったんですけど、半年経つころには50件くらいカットしていて。無料でやっていたので、これ以上は負担が大きすぎるなと思って、ニーズがあることもわかったし、お店を開こうと決めました。
――訪問カットを無料にしていたのは、なぜですか?
理美容師法で、お年寄りとか体を自由に動かせないとか、事情がある方にはお金をいただいていいんですけど、子どもがいて美容室に行けないっていう理由では、お金をいただくのが禁止されていたんです。当時は、開業届けも出していなかったので。でも、お店をオープンするにあたって、保健所に許可を取りに行ったときに聞いたら、理美容師法が変わって、子育てで美容室に行けない方にも出張カットしていいことになっていたんです。だから、オープン当初は、サロンでの営業と出張カットを並行してやっていました。だんだんお店が忙しくなって、出張カットはできなくなってしまいましたけど、訪問先での体験は、今でも変わらずサロンのベースになっています。
お店を持つための第一歩とは
子育てで外出できないママのために無料の訪問カットを行うなかで、そのニーズの高さを感じ店舗を持つことを決めたという中山さん。美容師を目指していたとはいえ、まったく未経験の世界での開業をなぜ決断できたのか、その一歩を踏み出すための考え方とは?
1.何かを成し遂げたいという気持ちを持つ
2.「誰かのためになる」ならやってみる
3.手探りでも始めてみる!
▽後編はこちら▽
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取材・文:山本二季
撮影:廣江雅美