介護職の有効求人倍率から見る就職状況


高齢化が続く日本、介護業界では恒久的な人手不足と言われていますが、それほど介護職を希望する人が少ないのでしょうか。実を言うと、そういうわけではありません。以下のグラフ「介護職員数と要介護(要支援)者数の推移」からわかるように、介護は年々職員数が増加している人気の職業なのです。

介護職員数推移

しかし、同時に要介護・要支援の高齢者人口も年々増加しているため、なかなか人材不足が解消されないわけです。厚生労働省の発表では、2025年には要介護者・要支援者が755万人になると言われ、そのために必要な介護職員は249万人であると言われています。つまり、これからもますます介護職員が必要になるわけなのです。

「人手不足だったら、介護の仕事には就きやすいってこと?」

「その通りです!」とは一概には言えませんが、それを判断する項目のひとつが「有効求人倍率」です。
有効求人倍率とはハローワークで仕事を探している1人に対して、求人が何件あるかを示した数値で、雇用動向を示す指標のひとつです。有効求人倍率は厚生労働省が全国のハローワークの求職者数と求人数をもとに算出して「職業安定業務統計」の中で毎月発表しており、計算方法は以下の通りです。

有効求人倍率 = 求人数 ÷ 求職者数

つまり有効求人倍率が1を超えていると従業員を探している企業が多く、1未満の場合は仕事を探している求職者が多いことになります。

■変わらず引く手あまたの介護市場

次は、その有効求人倍率を見ながら失業率との関係を見ていきましょう。下のグラフを見ると、まず有効求人倍率と失業率は反比例していることがわかります。

image02
また、全業種の有効求人倍率は1に満たない辺りでウロウロしているのに対して、介護業界の有効求人倍率は常に1~2近辺であることがわかります。つまり、介護業界は常に働きたい人の数より求人の方が多い状態にあるのです。
2009年の時点ではリーマンショックの影響で有効求人倍率は下がってしまっていますが、それ以外は上昇傾向にあることがわかります。介護業界はこれから数十年、介護職員の需要が高く、引く手あまたの状態が続く成長分野の産業であると言えるでしょう。
就業者から見ると大チャンス状態なのですが、企業側から見るとこの状態は大問題です。人材確保ができずに倒産せざるをえない可能性があるからです。もし倒産してしまうと、そこで働いていた介護職員は職を失ってしまいます。もちろん有効求人倍率は高いままなので、探せばすぐに新しい職場が見つかるでしょうが、転職を繰り返す状態になってしまう可能性があります。有効求人倍率が高過ぎるのも問題なのです。

■介護の離職率は高い??

有効求人倍率が高いと求職者にとって有利で、低いと採用したい会社にとって有利であることはわかっていただけたと思います。しかし、有効求人倍率は仕事の数と仕事を探している人の数、この2つだけから算出した数値です。現実に採用された人の数や離職者の数は関係ありません。そこで知っておきたいのが採用率(入職率)と離職率です。

採用率・離職率

このグラフは平成25年度の採用率と離職率の割合を勤務形態別に示したものです。左側の常勤労働者(正社員など)のグラフを見ると、介護は公務員を含む全職種平均に比べて有効求人倍率が高いためその分採用率も高くなっていますが、同時に離職率も高くなっているのが現状です。つまり、入職する人も離職する人も多く、勤めては辞め、勤めては辞めというような状態になっているのです。
アルバイトやパートで働く人を短時間労働者と呼びますが、短時間労働者は常勤労働者の逆で、介護業界の採用率・離職率は共に全業種平均に比べて低くなっています。
勤めては辞め、勤めては辞めという状態の何がマズいかと言うと、現場の事業者側からすると「人事にお金がかかる」「常に新人教育をしなければならない」などの問題があり、人事担当者は特に頭を悩ませています。逆に労働者側にしてみると、同じところで長く続かないと経験を積む前に辞めてしまうため「給料が上がらない」「職場が変わる度に、施設特有の仕事方法を覚えないといけない」など、給与面や業務面での問題があります。
すぐに辞めてしまう理由としては、上位意見として「人間関係」をはじめ、「低賃金(低報酬)」「自分の理想と現実のギャップ」「達成感がない」「待遇面」など様々ですが、これらの課題を解消するためには、企業側は待遇の改善が必要ですし、就業者や求職者は実際の介護の世界の現状を知る必要があります。
問題を解決する必要があるのは企業や求職者だけではありません。当然、賃金を上げるためには政府の力が必要です。しかし、社会福祉の財源を追加確保するためには介護保険料や税金をある程度上げる必要がありますが、簡単に国民たちが納得の声を出すとも思えません。
これらの問題を解消するためには、労働者や事業主の他、政府や国民などいろんな話や考え方の中で、工夫や改善点を見出す必要があります。

■需要が多い地域、少ない地域

有効求人倍率は全国どこでも同じというわけではありません。全国的に人材不足の介護業界ですが、地域によって特徴があります。厚生労働省の「職業安定業務統計」(平成27年1月~3月平均)によると、介護職における都道府県別有効求人倍率ランキングは以下の通りです。

順位 都道府県 有効求人倍率 順位 都道府県 有効求人倍率
第1位 栃木県 13.82 第43位 沖縄県 1.66
第2位 愛知県 13.52 第44位 高知県 1.64
第3位 広島県 9.73 第45位 島根県 1.55
第4位 千葉県 8.44 第46位 佐賀県 1.04
第5位 秋田県 6.98 第47位 徳島県 0.56

一位の栃木県では1人の応募者を14社で取り合っていることになります。介護職の有効求人倍率全国平均は3.74(全業種は1.26)なので、かなり高いことがわかります。1を割っているのは徳島県のみで、0.56です。介護職では第45位以上はすべて全業種平均の1.26を上まっていることには驚きです。
平均年齢が低く高齢者の割合が少ない都会の方が、施設数が少なく、有効求人倍率も低いイメージがあるかもしれませんが、倍率に都会や田舎は関係ないようです。
また、広島県の有効求人倍率は9.73倍で第3位ですが、隣接する島根県では1.55倍で第45位です。採用ができずに困っている施設の方は、もしかすると隣の県で募集すると意外と簡単に採用が決まるかもしれません。

■養成学校の定員割れが問題に

男性女性問わず、介護業界は人材不足で採用難であることは明らかですが、介護のスキルを身に付ける介護福祉士の養成学校にも影響は顕著に現れています。養成学校の入学意向者少なく定員割れしており、中には生徒数が定員の50%に満たない学校もあります。
入学者が少ないことはかなり大きな問題であり、私たちが高齢者になり介護が必要になった時に介護サービスを担ってくれる人がいないという状況になってしまうという流れなのです。

■よくある質問・相談

ここでは、リジョブに寄せられるご意見の中から、有効求人倍率関連のよくあるご質問・ご相談について回答していきます。

Q1.介護の有効求人倍率は高いはずなのに、ハローワークの2~3人の募集に対して10人以上の応募が当たり前です。有効求人倍率ってウソなのですか?

A1.有効求人倍率は地域によっても異なりますし、第一に条件の良い案件は当然人気が高くなります。2~3人の募集に10人以上が応募する事業所もありますが、10人募集しているのに、まったく応募がない事業所もあります。


Q2.介護の有効求人倍率が高いのはなぜですか?

A2.離職率が高く辞める人が多い、女性職員が多く結婚・出産を機に辞めてしまうなどの理由で常に人手不足などの理由があるとは思いますが、他に類をみない超高齢社会であることが一番の理由でしょう。


Q3.30年後は介護業界の有効求人倍率は下がっていますか?

A3.難しい質問ですね。30年後と言うと2046年です。厚生労働省発表の予測によると2050年には高齢者1人を生産年齢者1人で支えないといけない計算です。そのため、30年後は今以上に介護職員が必要になっているかもしれませんが、もしかすると介護ロボットの発展などにより、介護職員の必要数は減っているかもしれません。つまり、わかりません。

■まとめ

介護業界の有効求人倍率は全業種平均に比べて高い数値を維持しており、働き手にとっては仕事を探しやすい状況です。介護職員数は年々増加していますが、有効求人倍率は下がっていません。つまりこれからもずっと介護職員は必要であり、採用する側にとっては「採用難」の時期はしばらく続きます。 政府や事業所、介護スタッフなど業界全体が協力してこの状況を打開し、介護職員であることがひとつのステータスになるくらいの業界にしていきたいものです。

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