介護保険制度では現在、「保険内のサービスと保険外のサービスを明確に区分して提供する」という前提のもとで「混合介護」が認められています。内閣府の会議では「これらのサービスを『同時・一体的』に提供可能にしてはどうか」という議論がされております。また、東京都では「特区を設けて、試験的に実施をしていこう」という提案がなされています。
ここでは、業界内で注目を浴びている、この「混合介護」について考えてみましょう。
介護保険には「支給限度基準額」が設定されており、これを超える場合は介護保険が適用されず、基本的には全額自己負担でサービスを受けることになります。また、要介護者にとっては、庭の草むしりや新年を迎えるにあたっての大掃除など、介護保険適用外のサービスも必要としています。そういっ保険適用外のサービスや支給限度額を超えたサービスと保険内サービスとを併せて利用することを「混合介護」と言います。
つまり、「限度額超過分や介護保険適用外のサービスに対して全額自費負担することにより、量も種類も自由に介護サービスを利用できる」というものが「混合介護」の仕組みです。
日本の健康保険制度では、“命の平等”や“根拠が確立されていない民間療法と国に認められた保険診療が混在してしまう”という視点から、「健康保険内の医療」と「自費による医療」の混合診療は認められていません。“入院時の個室代”や“新医療技術”の一部例外を除き、費用の混合は禁止されているため、保険適用外の医療行為や薬剤を使用した場合、現在治療中の病気に関する診療の保険適用は取り消されてしまいます。その場合、本来は医療保険適用内である費用も含めて、全額患者の自己負担になってしまいます。
それに対して、介護保険制度では「基本部分を超える部分は利用者の選択のもと自己負担でサービスを補う」とされています。そのため、「介護保険内の介護」と「自費での介護」それぞれのサービスを提供する時間等を明確に分けた上で、介護保険の適用を受けながら介護保険外のサービスも一部で受けることができる「混合介護」が可能となっています。
例えば、診療費8,000円の保険適用内の診療を受けた場合、自己負担額は3割の2,400円です。しかし、その診療にプラスして、診療費1,000円の保険適用外の診療を受けた場合、保険の適用は取り消されてしまうため、自己負担額は9,000円になってしまいます。
同じように、介護費8,000円の保険適用の介護を受けた場合、自己負担額は800円(自己負担割合が1割の場合)です。ところが、その介護サービスにプラスして、介護保険適用外のサービスを1,000円分受けた場合でも、保険の適用は取り消しにならないので、自己負担額は1,800円になるのです。
「混合介護」は、大きく「上乗せサービス」と「横出しサービス」の2種類に分けることができます。
「上乗せサービス」とは、訪問看護や通所介護などの保険給付対象の介護サービスを支給限度額以上利用した場合に発生する状況を言います。下図からもわかるように、上乗せサービスで追加した介護サービスの介護費は全額自己負担となります。
これに対して「横出しサービス」とは、そもそも介護保険の給付対象ではない独自のサービス(配食サービス・緊急通報サービス・移送サービスなど)を追加することです。
介護保険給付対象外のサービスは、費用の一部を自治体で補助してくれる場合があります。例えば、住宅改修で介護保険対象の改修と同時に、介護保険対象外の改修を行う場合、介護保険が適用される改修は介護保険サービスとして利用し、適用外のうち市町村から補助を得られる場合は基準に応じた補助を受け、どちらにも当てはまらない部分は全額自己負担となります。
内閣府の会議では、現在明確な区分が求められている”保険内のサービス”と”保険外のサービス”のサービスを組み合わせて「同時・一体的」に受けることができるような規制の緩和が検討されています。
これまで、例えば1時間あたりの介護報酬単価が4,000円の介護保険内サービスを受けている間、介護保険適用外のサービスを受けることはできませんでした(オムツや食事等、一部実費負担として認められている分は除く)。しかし、この規制が緩和されれば、様々なサービスを様々な料金で提供することが可能になります。
更に、内閣府の会議では東京都の介護サービスについて次のような提案をしています。
<メリット>
【利用者(高齢者)】
・サービスの多様化により、自分に合ったサービスを受けられる。
・競争が促されるので、介護業界全体のサービスの質が向上する
【業界・事業主】
・介護保険以外の売上を得られるので、人件費にお金をまわすことができるようになる。優秀な人材を評価できるようになる。
・3年ごとに改定される介護報酬以外にも収入の柱を得ることで、安定した介護事業経営が可能になる。
<デメリット>
【利用者(高齢者)】
・価格の自由化により、介護サービスの価格が上昇する恐れがある。
・サービスが複雑化することにより、適切なサービスかどうかの判断が難しくなる可能性がある。
【業界・事業主】
・介護保険外サービスの開発や周知の面で負担が大きくなる可能性がある。また、介護保険内との線引きやその管理が煩雑になる可能性がある。
「混合介護」や「保険外介護サービス市場」におけるサービス商品はまだ多くありません。この市場の開発が決して容易ではないことは、現在の企業の取組動向から伺われます。
今後の国や自治体の「混合介護」の推進で、多くの民間企業が関心を持つ状態になることを期待します。それにより、広範囲のサービスを気兼ねなく受けられる利用者、保険内外を気にせずサービスを提供できる事業所という図式が得られるのは遠い未来の話ではないかもしれません。
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氏名: | 垰 和宏(株式会社スターパートナーズ 経営コンサルタント) |
経歴: | 慶應義塾大学卒。保育事業のコンサルティング会社を経てスターパートナーズに入社。市場調査、マーケティングサポート、求人サポート、介護職員に対する業界研修等、介護事業所運営のサポート全般を手掛ける。 |
2017/07/14
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