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特集・コラム 2022-06-03

日常生活動作(ADL)について|評価の仕方や予防方法を紹介

介護の現場では、日常生活動作(ADL)という言葉がよく使われます。この言葉は、被介護者に対する適切な介護および評価を実施するうえで非常に重要な要素です。

今回は、日常生活動作とはなにかという基本的なことから種類・評価方法、また被介護者の日常生活動作の低下を予防するための方法について解説します。

人が基本的な生活を送る動作の指針:日常生活動作(ADL)とは

日常生活動作(ADL=Activities of Daily Living)とは、日常生活を送るうえで必要となる基本的な動作のことをいいます。

具体的には、立つ・座る・歩く・階段昇降・食事・着替え・入浴・排泄などです。日常生活動作は高齢者や身体障がい者の日常生活の回復という点で、介護業界において重要な指標となっています。

実際の介護やリハビリでは、被介護者の心身の状況を踏まえてADLの動作を「できる・できない」「どれくらいの介助が必要か」などを判断するものです。

日常生活動作(ADL)の種類について

日常生活動作(ADL)には、2つの種類があります。つづいては、それぞれの言葉の意味や特徴を確認しておきましょう。

基本的日常生活動作(BADL)の内容

基本的日常生活動作(BADL)は「Basic Activity of Daily Living」という意味で、「日常生活動作=ADL」に「基本的(Basic)」を付け加えた言葉です。

基本的日常生活動作は、ADLのなかでも日常生活に必要不可欠な動作全般のことを指します。具体的には、歩行・移動・起床・就寝・食事・着替え・排泄・入浴などです。

手段的日常生活動作(IADL)の内容

手段的日常生活動作(IADL)は「Instrumental Activities of Daily Living」という意味で、「日常生活動作=ADL」に「手段的(Instrumental)」を付け加えた言葉です。

手段的日常生活動作は、基本的日常生活動作よりもむずかしい動作段階のことを指します。具体的には、家事(掃除・洗濯・料理など)、買い物、交通機関の利用、電話の対応など。また、スケジュールや金銭、服薬の管理なども該当します。

日常生活動作(ADL)の評価方法について

日常生活動作(ADL)の評価には、2つの方法があります。ここでは、それぞれの評価方法の特徴について解説しましょう。

FIM(機能的自立度評価法)とは

FIM(機能的自立度評価法)は、1983年にアメリカのリハビリテーション合同学会によって開発されたADLの評価方法のひとつです。

FIMの特徴は、「運動項目」と「認知項目」の2つの項目で被介護者が自分で採点を記入するということ。各項目を1~7点で評価し、加算された点数によってどの程度の介助が必要なのかを判断します。点数が高ければ高いほど、それだけ「介助の必要性は低い」と判断されるのが特徴です。

FIMはADLの評価方法のなかでもスタンダードなものと認識されており、多くの医療・介護現場で採用されています。

運動項目

FIMの運動項目は「セルフケア」「移乗」「移動」「排泄コントロール」にわけられ、全13項目あります。

・セルフケア
食事・整容・清拭・更衣(上半身および下半身)・トイレ動作の6項目。道具を使った食事、清掃、着替えなどを自力でできるかどうかを判断します。

・移乗
トイレ・シャワー・浴槽・ベッド・椅子・車椅子の6項目。立つ、座る、体の方向を変えるなどを自力でできるかどうかを判断します。

・移動
歩行・階段・車椅子の3項目。既定の距離を問題なく移動できるかどうかを判断します。

・排泄コントロール
排尿管理・排便管理の2項目。排便・排尿の動作だけでなく、衣服を自力で着脱できるかどうかなどを判断します。

日常項目

FIMの認知項目は「コミュニケーション」「社会的認識」にわけられ、全5項目あります。

・コミュニケーション
理解、表出の2項目。言語・視覚・聴覚を用いたコミュニケーションを問題なくできるか、新聞や本などの情報を正常に認知できるかなどを判断します。

・社会的認識
社会的交流・問題解決・記憶の3項目。集団のなかで適切な行動が取れるか、日常生活における諸々の問題を自力で解決できるか、スケジュールや依頼などをしっかりと記憶して行動できるかなどを判断します。

Barthel Index(バーセルインデックス)

Barthel Index(バーセルインデックス)は、アメリカの理学療法士であるBarthelらによって開発されたADLの評価方法のひとつです。

Barthel Indexの特徴は、「できるADL」を評価することで被介護者の身体状況を把握すること。実際に体を動かしたときに、「どこまでできるか」という最大値を見ます。

評価項目は全10項目。採点は各項目に0点・5点・10点・15点と、ランク付けでおこないます。100点満点中どれくらいの点数を取れたかという形で評価できるので、非常にわかりやすい評価方法です。

Barthel Index(バーセルインデックス)の評価項目

Barthel Index(バーセルインデックス)は全10項目にわけられます。それぞれの項目ごとに「自立」「部分介助」「全介助」「介助不可」で判断し、採点するのが特徴です。

・食事
自助具を使った食事、時間内に食事を終えられるかなどを評価します。

・移乗
車椅子の操作、車椅子からベッドへの移動、ベッドから起きる・座るなどの動作を評価します。

・整容
洗顔、歯磨き、髭剃り、手洗いなどを評価します。

・トイレ
衣服の着脱、洗浄・後始末などを評価します。

・入浴
浴槽をまたぐ・入る、シャワーを使う、体・頭を洗うなどを評価します。

・歩行
規定の距離の歩行、歩行器の使用、車椅子の操作などを評価します。

・階段昇降
階段の昇降(手すり・松葉杖などを含む)を評価します。

・着替え
上着・下着・靴・ファスナー・装具の着脱、規定時間内の衣服の着脱を評価します。

・排便
正常な排便、失禁の有無などを評価します。

・排尿
正常な排尿、失禁の有無、尿器の取り扱いなどを評価します。

日常生活動作(ADL)の低下を予防するために

日常生活動作(ADL)の低下を予防するには、さまざまな方法があります。具体的にどのような方法が効果を発揮するのかを解説しましょう。

自分でできることは自分でおこなう

被介護者に対する介護のしすぎは、本人の体の筋力の衰えを助長してしまう可能性があるので注意が必要です。被介護者であっても可能な範囲にて自力で体を動かすことは、身体能力の維持および向上につながります。

また、なんでもかんでも介護をすると、本人のモチベーションが下がってしまい、自分で動こうとする意欲が減退するのでその点も注意しましょう。

サポートをしすぎる→本人の意欲が下がる→自分で動こうとしない→身体能力が落ちるという悪循環に陥らないために、どこまで介助するか、また自力に任せるか(自力を促すか)の見極めが大切です。

福祉用具などを活用してみる

被介護者は、生活の行動範囲や外での活動が制限されがちです。寝たきりでずっと家にいるなど、体を動かさないままだと楽しみがなくなり、モチベーションも低下します。そのため、介護者は福祉用具などを取り入れて本人が積極的に外出できるようにしてあげることも大切です。

福祉用具は車椅子だけでなく、杖・歩行器・シルバーカーなどが該当します。よりスムーズに移動するために、電動カートを採用するのもよいでしょう。このような福祉用具・機器を使うことで、散歩や買い物ができるようになれば楽しみが増し、本人の生活の質(Quality of Life)も向上します。

住環境をリフォームなどで整える

住居のリフォームで住環境を整えることも、ADLの低下予防の有効な方法です。たとえば、廊下・階段やトイレ、浴室などに日常で使う場所に手すりをつける、部屋や通路の段差を解消する、開き扉をスライド式の引き戸にするなど。リフォームで室内環境を整えることは、転倒による骨折などの事故を予防することにもつながります。

介護目的でリフォームをおこなう場合、介護保険制度を利用できるので、くわしくは担当の職員(ケアマネージャーなど)に相談してみてください。

日常生活動作(ADL)について理解し介護の現場で活かそう

高齢者や身体障害者に対する介護は、単に身体能力の面だけでなく本人の意欲・モチベーションなどのメンタルの面でも注意を払う必要があります。

体を動かさない→意欲が低下する→もっと体を動かさなくなる、という悪い流れになってしまわないためにも、被介護者が自分で採点する評価方法を採用することが大切です。そのうえで住居のリフォームの実施、福祉用具の利用などさまざまな方法を検討してみるとよいでしょう。

介護する人は、体と心の両方の面で被介護者をサポートする存在であるということを忘れずに、本人および本人の家族と相談しながらベストな介護の方法を検討してみてください。

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