私に驚きと感動を与えてくれた「イヤーセラピー」を多くの人に伝えたい【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.83 /イヤーセラピスト・平林初生さん】#1
「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。
今回お話を伺ったのは、イヤーセラピスト・平林初生(fal)さん
コロナ禍でイヤーセラピーの施術を受け、沈んでいた気持ちがパッと明るくなったという平林さん。その時の驚きと感動を多くの人に伝えたいと資格を取り、約2年前からイヤーセラピストとして活動をスタートされました。
前編では、平林さんのこれまでの経歴や施術のコンセプト、そこに込めた思いを伺います。
コロナ禍で受けたイヤーセラピー。
元気な時には気づけなかった感動があった!
――約2年前にイヤーセラピストになられたということですが、それまではどんなお仕事をなさっていたんですか?
子どもを産む前は、IT企業に勤めていました。それまではセレクトショップを運営していたり、出版社で編集業務を手伝ったり、コールセンターでアルバイトをしていたりしたのですが、たまたまご縁があってIT企業に就職。これが結構大変で……。休みもなく、朝から夜中まで働き、激務でしたね。好きでやっていたこととはいえ、やっぱり体に負担がかかって、頻繁にマッサージを受けに行っていました。
――それはどんなマッサージだったんですか?
タイ古式マッサージやリフレクソロジーです。マッサージを受けたのは、その時が人生初。すごくハマりました。以来、外国に行ってもその土地ならではの伝統的なマッサージを受けたりするようになりました。施術を受けながら、どういう動きをしているのかチェックして、友人にやってあげるのも好きでした。
――イヤーセラピーと出会ったのもその頃ですか?
いえ、それはもっと後です。子どもを産んで仕事は辞めていたのですが、友人と出かける予定があって、美容院に行ったんです。その美容院では月イチで鍼灸師の先生がイヤーセラピーを施術しにきていて、たまたまタイミングが合ったのでお願いすることに。でも当時は「耳をほぐして、最後にキラキラしたシールをつけてくれて、可愛くなった」ぐらいの感覚でした。
――仕事にしようと思ったのは?
ちょうどコロナ禍の時ですね。その頃の私は、ちょっと気分が落ち込んでいたんです。育児や家庭のストレスにコロナ禍のストレスが加わって、鬱っぽくなっていたんですよ。将来のことを考えて悩み始めると、目の前が真っ暗になるような感じでした。
鍼灸師の先生は、その後も定期的に美容院に来られていたので、タイミングが合えばお願いしていました。その時もちょうどいらしていたので、お願いしたんです。
今でも覚えているのですが、私、うとうと居眠りしていたんですよ。悩みがあると夜もしっかり寝られないので、疲れていたんですかね。それで「終わったよ」と言われて目を覚ました時、目の前がパッと明るくなるような感覚になったんです。今まで何度も施術を受けていたのに、そんなこと初めてでした。
これは後々勉強してわかったことなのですが、イヤーセラピーって自律神経を整えるのにも効果的なんです。気持ちが沈んで自律神経が乱れていた時だったから、いつもより変化を感じたのかもしれません。
「これは友人にもやってあげたい!」と思って、その場で「これってどうやったら仕事にできるんですか?」って聞いたんです。その方は講師の資格も持っている先生だったので、そのまま教えてもらうことになりました。
セラピストになり、「頼られる側」になったことで
人に頼る大切さに気づけた
――最初はどこかにお勤めされたんですか?
いえ、いきなり一人でスタートしました。出張サロンという形で、知り合いのお店を借りたり、お客さまのご自宅に出張したりして施術していましたね。
イヤーセラピーは、お客さまに座っていただく椅子分のスペースがあればOK。施術ベッドがあるとかえってやりづらいので、私は使いません。となると、間借りぐらいがちょうどいいんです。最近ではオフィスに呼ばれて施術することもあります。
――施術の特徴やコンセプトは?
美容だけでなく健康も一緒に整えることです。本来、私が持っている資格は「イヤービューティーセラピスト」というのが正式名称なのですが、それだと美容に寄った施術と思われそうで、あえて「イヤーセラピスト」と名乗っています。
あと、これは日本特有かもしれないですが、「耳ツボ」というと、ダイエットをイメージされる方も多いんですよ。実際むくみがとれたり、代謝がよくなったりして、個人差はあれどダイエットできたように感じる人も多いのですが、それって人によって様々だし、あくまで副産物のようなもの。本来は耳に刺激を送ることで体の自己防衛本能も刺激し、体を元の元気な状態に戻そうとする力を引き出しながら、自律神経の乱れとか、現代病といわれるような辛い症状を緩和すること。少しでも楽に毎日過ごしてもらうことなんです。
――ちなみに、経営面はどうですか? どのように集客されていますか?
始めたのがちょうどコロナ禍だったのでなかなかお客さまがつかず、正直どうしよう……って感じでしたね。当時のお客さまはほぼ友人。今のお客さまも、そのつながりの方たちです。
なので集客はほぼ口コミ。SNSにもチャレンジしてみたのですが、私には合っていなくて、今はお客さまの口コミ紹介と、耳ツボの紹介ページになっています。
友人には、本当に助けられました。なかでもすごくいいアドバイスをくれたのが美容マニアの友人。もともとIT系の仕事をしていたときに知り合ったのですが、いろんな知識や経験を持っていたので「こういう風にしたらお客さんが喜ぶよ」って教えてくれました。
以前の私は、人に頼ることができない人間だったんです。「困っている」とか「辛い」「しんどい」って声に出さず、我慢していました。でもこの仕事は、人から頼ってもらうことが仕事じゃないですか。「辛いからなんとかしてほしい」っていうお客さまを救うことが仕事。救うっていうと語弊があるかもしれませんが、そういう「頼られる側」になることで、私も人に頼れるようになったんです。最初は不安でしたが、素直に「助けて」って言ってみたら、意外とみんな助けてくれて。大きな気づきでしたね。
不調の本当の原因はなんなのか?
耳だけをみるのではなく、
日常生活からもヒントを探すことが大切
――お客さまに満足していただくために大切にしていることはなんですか?
耳を見て判断するだけでなく、お客さまとの会話から日常生活にも目を向けて不調の原因を探っていくことです。正直、耳の色を見たり手で触って硬さをみたりすると、ある程度「ここがよくない」というのはわかるのですが、それだけでは本当の原因を突き止めたことにならないと思うんです。もちろんお客さまが話してくれれば、にはなるのですが、普段どういう生活をされているかっていうのを聞くことで、なぜそこがよくないのかがわかる。普段何気なく行っているクセが原因、ということも多いですから。
――イヤーセラピーは、普段何気なくやっているよくないクセに気づく機会でもあるんですね。
はい。あと、イヤーセラピーは全身をほぐす時の指標にもなるんですよ。耳をみて、体の状態をある程度把握してから行うと、どこを重点的にほぐせばいいかがよくわかるんです。
私もまだまだ勉強中ですが、耳ツボの歴史は古く、紀元前の中国の医学書にも書かれていたんです。勉強しても勉強しても知らないことはまだまだたくさんあるんだなって気づかされます。正直お客さまの反応を見てみないと、「本当なの?」って思うこともありますが、実際学んだことと同じ感想を聞くと「本当だったんだ!」って。そうなると、もっと勉強しよう、もっとお客さんに教えてあげようってやる気も湧いてきます。
イヤーセラピストになる以前から、自分が受けたマッサージを再現してご友人の体をほぐしてあげていた、という平林さん。その頃から、「相手に喜んでもらいたい」という気持ちをお持ちだったと考えると、この仕事に就かれたのは必然のような気がしました。
後編では、現在の働き方や今後の目標、未来のセラピストに向けたアドバイスを伺います。
取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄