己を顧みず極限まで向き合うことで、お客さまに心から寄り添える施術者に【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.87/桂整体院・宮下志津さん】#2
「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。
今回お話を伺ったのは、桂整体院・宮下志津さん
桂整体院は、2009年に山梨県富士吉田市でオープン。宮下さんのお兄さま・刑部卓也さんが院長として開業されているのですが、「この技術を、もっと多くの人に知ってもらいたい」という思いで、2022年9月、東京都立川市に2店舗目を作られました。現在は山梨と東京の二拠点で活動されているそうです。今回は宮下さんと一緒に、刑部さんにもお話しを伺うことができました。
前編では、お二人がこの業界に進まれたきっかけや、院のモットー「骨以外をすべてほぐしきっていく」を叶える「根こそぎ深層手技術法」について詳しく伺いました。
後編では、現在の働き方や今後の目標、未来の整体師に向けたアドバイスを伺います。
山梨と東京の二拠点生活。
まだまだスタートしたばかりだけど
少しずつ基盤を整えていきたい]
――現在の働き方を教えてください。山梨と東京の二拠点で活動されているんですよね?
宮下さん:そうですね。水・土・日曜は山梨の常連さまの対応をするので山梨の整体院で施術、立川院は月・火・木・金曜が営業日です。
――山梨から毎回通われているんですか?
宮下さん:はい。山梨の整体院が自宅兼仕事場になっているので、そこで兄と私と、私の2人の娘で住んでいます。
立川院で仕事をする日は、兄と一緒に車で来ているのですが、
子どもたちがいるので、21時前には帰るようにしています。
刑部さん:立川院は2022年の9月にオープンしたばっかりなので、まだまだベースを作っている最中ですね。お客さまの予約が入っていない日もあるので、そういう時は2人でこれからどういう風にやっていこうかと、話し合っています。
――ちなみに、施術はどのような流れで行うんですが?
宮下さん:基本は60分のコースです。最初にカウンセリングをしますが、この時間は施術時間に含まれていません。ベッドに横になっていただいたら、まずは症状の辛いところを中心に兄が施術していきます。途中で私にバトンタッチして、兄のやっていないところやお客さまの状態に合わせて兄から指示されたところをほぐしていきます。一通りほぐし終わったら、ラジオ波で施術。ラジオ波には筋肉の硬いところに温熱が集まるといった特性があるので、それを利用しているんです。骨の近くのまだ施術しきれていないところと施術したところの調和をとることで、仕上がりをよくします。
――お二人で施術しているんですね。
宮下さん:はい。一人ではなかなか難しいですね。ヘトヘトになります。
刑部さん:今までに妹以外にも「習いたい」って僕のところに来てくれた人はいたんですが、みんな続かないんですよ。今までで20人くらいいたと思うんですが、大変すぎてすぐ辞めちゃうんです。確かに大変だと思います。覚悟がないとできない。
宮下さん:私も最初「やるっていったものの、これは続けられるのか⁉︎」ってすごく悩みました。指がパンパンになってしまって、5分も持たなかったんですよ。でも、血がつながっているので「辞める!」と逃げるわけにも行かず(笑)。ただ、今となっては続けてきてよかったなと思っています。
SNSで院のモットーや施術法を配信することで
初回でも安心して来てもらえる整体院に
――この仕事のいいところややりがいを教えてください。
宮下さん:お客さまの筋肉の状態や症状、感覚は人それぞれです。その日の体調や、今まで何回施術してきたかにによっても感覚は変わっていくので、常に「今」の筋肉の状態を確認し、一歩でも二歩でもいい状態に進ませられるよう努めています。その分、施術後の変化を実感してもらえると嬉しい。自分のやったことに対して感謝してもらえると喜びがありますし、やりがいを感じます。
刑部さん:やっていることを理解されて感謝してもらえると、この仕事をしていてよかったって思えますよね。特に立川院のお客さんは、僕たちの考えや技術を理解しようとした上で、通ってくれている人が多い気がします。施術の前後の変化にもしっかり気づいてくれるし、すごく敬意を払って接してくれる。もしかしたら、こういうのは土地柄も影響するのかもしれません。改めて最近、この仕事のやりがいを感じました。
――今後の目標などはありますか?
宮下さん:まずは桂整体院を多くの方に知ってもらいたいので、SNSで配信する準備を進めています。「本当に困っているけど、どうしていいかわからない」という人が「こんな整体院あるんだ」って気づいてもらえると嬉しいです。
刑部さん:また、事前に「こういうモットーで、こういう施術をしている」っていうのを知ってから来てもらうと、お客さまも安心して通えるだろうし、僕たちも自信を持って施術できますしね。
自身を顧みず、極限まで施術……
本当に辛いので勧められないけど、
これができればお客さまに心から寄り添える整体師になれる!
――これから整体師を目指す人が学んでおくといいことや経験しておくといいことなど、アドバイスをお願いします。
宮下さん:兄とも話していたのですが、プロであるために必要なことは2つだと思っています。
・施術することで、自分の骨が折れる極限(限界)を知ること
・施術には施術者にも大きな負担がかかる、自分の生活がままならない状態になる、というのを理解すること
刑部さん:僕はこの仕事を本気でやるには、相当の覚悟が必要だと思っています。鉄のような硬い筋肉をしたお客さまを施術するには、例えではなく本当の意味で骨が折れます。そして、僕の指を見ていただけるとわかるかと思いますが、施術者自身がボロボロになります。言い換えれば、それぐらいの覚悟を持ってやらないと、やる意味がないということです。
だから、正直……おすすめはしません(笑)。ただ、それでもこの仕事をやりたいと思っているなら、極限(限界)を理解すること。自分のことは顧みないこと。そうすると、施術にも言葉にも説得力が出ます。お客さまの辛さにも心から寄り添えます。
――ありがとうございました。最後に整体師の心得3ヵ条をお願いします。
・「骨以外を全てほぐし切る」の精神で施術する
・痛みや痺れの原因が骨格筋以外にあるかもしれないと常に疑う
・お一人お一人の筋肉の状態、感覚に応じて施術方法を瞬時に作り上げる
刑部さん:「骨以外を全てほぐし切る」という精神で突き詰めて施術できれば、骨や内臓に病気が隠れている可能性を見つけやすくなります。常にいろんな病気を疑いながら、お客さまの体と本気で向き合って施術してください。
宮下さん:同じお客さまでも、その日、その時間によって、筋肉の状態も痛みの感じ方も変わります。常に頭をクリアな状態にして、施術するようにしてくださいね。
前編・後編を通じて、熱い思いを語ってくださったお二人。「この仕事は本当に大変ですし、あんまり人には勧められないです」とおっしゃった時は驚きましたが、それは本気でこの仕事と向き合い、自分のことを顧みず、お客さまに誠心誠意尽くしてきたからこそ。「限界を理解する」というのは、整体師に関わらず、どんな職業でも同じですし、並の努力では到底辿り着けない境地ですが、「少しでも近づけるように」と身の引き締まる思いでした。
貴重なお話をありがとうございました!
取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄