若者から中高年まで。幅広い世代に漢方と薬膳の認知度を高めるために行動を【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事 Vol.85 薬膳コンシェルジュ 杏仁美友さん】#2
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
今回は、薬膳スクールの先駆者として一般社団法人 薬膳コンシェルジュ協会の代表兼講師として活躍している、杏仁(きょうにん)美友さんにインタビュー。漢方によって自身の症状が軽減したことから漢方・薬膳に傾倒し、精力的に普及活動を行っています。
前編では漢方との出会い、そしてIT系事務から転職した経緯や薬膳を広めるための活動についてお聞きしました。後編では、杏仁さんは薬膳の知識をもっと気軽に学んでもらえる場を提供したいという想いから、協会を設立します。その際に大変だったことや杏仁さんの一日のスケジュールをもとに協会の活動内容、さらには今後の展望について伺います。
教えてくれたのは…
薬膳コンシェルジュ 杏仁(きょうにん)美友さん
自身の症状が漢方によって回復したことを受け、漢方を学ぶことを決意。学校に通い、国際中医師の資格を取得して卒業。その後、薬種商(現在でいう登録販売者)の資格を取得しようとしたタイミングで薬膳を広める活動に注力し、協会を立ち上げる。現在は、漢方と薬膳を広めるために講義や執筆を行う。
前例のない「気軽に薬膳を学べる」を意識したスクールを開校
――協会を立ち上げ、始めに着手した事業についてお聞かせください。
薬膳の正しい知識や効能の素晴らしさをしっかり知ってから取り入れてほしいという気持ちを込めて、まずはスクールを開校することから着手しました。
――その際に不安や大変だと感じたことはなんでしたか?
スクールの需要があるのか、不安に感じていました。
というのも、薬膳や漢方について学ぶには高額な金額を支払い、きちんと学校などに通わないと学べないという環境しかなかったため、薬膳について学べる選択肢が限られていました。私の目的は「広く、漢方・薬膳を広めること」ですから、それらの敷居をいかに低くできるか、どのようにカリキュラムに反映させるか悩みましたね。
――どのように解決されたのでしょうか?
薬膳レシピを執筆している先生方をお招きし、「薬膳って意外と簡単で、身近なんだよ」ということを体感してもらうようにと、体験型企画を実施しました。
カリキュラム内容については、学びの敷居があまり高くなりすぎないことを意識して作成しました。もともと漢方や薬膳って、中国から伝わっているものなので難しい専門用語が多いんですよ。そうなると、やっぱり入り込みにくい印象だけが残ってしまい、普及させることにつながらない。伝える相手は日本人なのだから、日本人にどうしたら伝わるのかというところに意識をおいて取り組みました。
具体的に言いますと、専門用語をなるべく省き、わかりやすく。身近にある野菜などをベースに、日々の食事からどれだけ簡単に薬膳が取り入れられるのかということを伝え、いかに身近に感じてもらえるかを考えました。
形式や金額などは、同業界でスクールを行っている野菜ソムリエの方の話を参考にしながら、結果的に12人ほど受講者が集まってくださって好スタートを切ることができました。
――伝え方を工夫したことが成功につながったのですね。
そう感じますね。どんな相手なのか、その相手に伝えるためにはどのような手段が必要になるのかしっかり考えることが大切だと感じました。
薬膳を身近に感じてもらえる商品を開発し、認知度を高める
――では、講師を担う杏仁さんの一日のスケジュールと現在注力している活動をお聞かせください。
一日のスケジュールはこんな感じです。スクールでの講義のほか、薬膳レシピ記事の執筆などを中心に行っています。
現在、注力していることと言えば、漢方・薬膳を広めるターゲットを若い人に重点をおくようにしています。
――その想いに至るまでに、何かきっかけがあったのでしょうか?
仕事を通じて若い方とお話する機会がきっかけとなりました。その方が便秘に悩んでいるというので服用している薬を教えてもらったところ、体の悩みに合っていない薬を服用していることが分かりました。本人は「効いている」と思い込んでいましたが、あまりおすすめできない薬でした。その方が服用していた薬は、必要な体力を消耗するうえに継続することで冷え性がひどくなり、女性の場合は子どもが産みにくい体になってしまう恐れがあるものだったのです。おまけに若い人の間でその薬が流行っているらしいという話まで聞いてしまって…。
その悩みを受け、体質改善に適している薬膳をベースにした症状を改善できる商品があればいいなと思って考えついたのが、薬膳茶と八宝茶を組み合わせたハーブの「AOYAMA PAOBAOTEA™(アオヤマパオバオティー)」です。
――どのような効果が期待できるものですか?「AOYAMA PAOBAOTEA」について、詳しく教えてください。
薬膳コンシェルジュ協会のスペシャリストが研究開発する「PAOBAO(パオバオ)」というブランドで開発したものになります。概要としては、体質や体調に合わせて食を提案する弁証施膳(べんしょうぜん)という薬膳の基本理念にのっとり、バランスを整えて健康やきれいになりたい気持ちをサポートをしていくものとしています。
「AOYAMA PAOBAOTEA」はパオバオブランドの特徴をもとに開発された薬膳にまつわるメソッドを軸とし、悩みや体質のタイプ別に合わせた調合をしています。体の中からすっきりしたい方向けのもの、冷え性の方、女性の悩みとストレス対策のためのものなど3つのバリエーション展開となっています。
――若い人に届けるためにどんな工夫をしましたか?
直接、漢方や薬膳の効能の素晴らしさをいくら語ってもピンとはこないはずと思い…。自然に興味を持ってもらえるようにと、親しみやすいブランド名、パッケージを意識して検討を重ねました。いろいろな雑誌やカタログを参考に、何度も読み返したりして(笑)。
また、確実に若い方の手にわたるようにと販売方法も工夫しています。一般的なスーパーや薬局などではなく、美容室や美容クリニックなどに卸すようにしました。というのは、やはり若い人が漢方や薬膳に興味を持つためには「美容」がポイントになると考えてのこと。自分自身が信頼して通っている美容の専門家などから勧められれば、興味を持ってもらえるきっかけになると思ったんです。サロンやクリニックの施術効果をサポートする目的としても、自信を持って取り入れていただけるような商品になっています。
漢方や薬膳を広めるためには若い人の認知や興味が最も必要
――なるほど、確かに入口が美容からだと興味が引かれそうです。若い人をターゲットにした理由をお聞かせください。
中高年の層には漢方や薬膳は浸透していると思いますが、若い人にはあまり広まっていないのが現状です。それもそのはず、若い間は大体元気でいられるため、漢方や薬膳に結びつくイメージがありませんよね。
しかし、漢方や薬膳を広めるためには若い人から広めなければ浸透していかないと感じています。若いうちに漢方や薬膳を知っていれば個人の選択肢が広がりますし、私のように長い間辛い想いをしなくてすむとも思っていて。若い人には今のうちに興味を持ってもらえたらいいなという想いのもと活動に取り組んでいます。
――確かに、漢方や薬膳は中高年の世代に慣れ親しまれている印象があります。
そうなんです。実は最近、薬膳スクールを受講する理由として挙げられるのが、「自分の手に職をつけたい」ということ。第二の人生の選択肢として薬膳を選んでくださるのはありがたいと感じています。自己満足のために学ぶ人もいれば、自分の武器にして生活に役立てる人も…さまざまな目的を持つことで、薬膳を知る幅が広がっています。
そうして充実していくと、身も心も健康でいきいきして生活が豊かになりますし、そういった生活の豊かさを求めることが協会自体の願いでもあるので、私としても貢献できることがとても嬉しいです。
――体質改善だけでなく、選択肢にもなり得るのは素晴らしいことと感じます。杏仁さんが考える、最終的な目標をお聞かせください。
漢方や薬膳が広まった暁には集大成として、銀座に薬膳のすべてが詰まったビルを建設したいと考えています。各階にそれぞれのスペシャリストを配置し、漢方や薬膳にまつわる物販、薬膳料理を展開したレストラン、鍼灸やエステサロン、薬膳バー、最上階には自宅を兼ねて…という想定。実現のためにも、今後も漢方や薬膳を広めることに尽力していくつもりです。
漢方・薬膳を広めるために取り組んだ大事な3つのこと
1.自身が得意な分野を自認し、全力投球する
2.たくさんの人に広げるための工夫を施す
3.届けたい対象を想定し、的を絞る
取材・文/東菜々(レ・キャトル)
撮影/喜多二三雄
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