売上8万円から4カ月で約7倍に。口コミだけで顧客を広げた「BODY REMAKER鍼灸治療院」
浅草橋に「BODY REMAKER鍼灸治療院」を構える、種市敢太さん。前編では、業界でも取り入れているのは稀なエコーを導入したいきさつを伺いました。
後編では5年前の独立時のお話を伺います。物件を見つけてから1週間という超スピード展開で治療院を開いた種市さん。まったく集客をしないままオープンしてしまったために、初月の売上は8万円程度だったそうです。しかしそこから4カ月目には60万円の売上を達成。その裏には治療院を訪れた人の口コミがあったといいます。
種市敢太(たねいちかんた)さん
鍼灸師/「BODY REMAKER鍼灸治療院」代表
カイロプラクティックをベースにした鍼灸整骨院に5年勤務して技術を磨いたのち、2019年に独立。「BODY REMAKER鍼灸治療院」を立ち上げる。3年ほど前からエコーを利用した鍼治療を業界で初めて取り入れたほか、ラジオ波やメディセルなど最新の技術を導入。患者さんにあった治療を提供することをモットーにしており、平均リピート率8割を誇る。慢性痛を改善した例も多数。エコーを利用した鍼治療を研究する「西洋鍼灸研究会」の代表も務める。
流産した妻を1人で病院へ。家族との時間を大切にするため独立を決意
――5年前に独立開業されたとお聞きしました。そのきっかけは?
家族との時間をもっと大切にしたいと思ったのが、きっかけです。以前に勤めていた整骨院は、技術について学ばせてもらいましたし、感謝しかないのですが、家族との時間を取りづらいところがありました。忘れられないのは、1人目を妊娠した際に、自宅で流産してしまったときのことです。本来であれば、流産してしまった子どもと一緒に私も病院に行きたかったのですが、その日、私の予約が入っていてどうしても休むことができなくて。流産した妻を1人で病院に行かせるという酷なことをさせてしまいました。
そこから自分は何のために生きているんだろうということを考えてしまって。家族のために独立開業をしようと決意したんです。
――では、その整骨院を辞めてすぐに開業されたのですか?
いえ、1年間の空白期間がありました。整骨院で働いていたときに、幸いにもまた妊娠する機会に恵まれ、子どもを無事出産することができました。私も子育てにしっかり関わっていきたいと思ったのですが、前に働いていた職場には育児休暇という制度がなかったので仕事を辞め、妻と協力しながらの育児、独立開業の準備、アルバイトをする期間を過ごしました。宅急便配達のアルバイトをしていたのですが、たまたまこの店舗が空いているのを見つけ、1週間後にはオープンにこぎつけました。内装も全部自分で作ったので、かなりざっくりしていますが(笑)。
リピーターと口コミがあれば、集客は必要ない
――独立してから一番苦労したのはどんなことでしょうか?
準備をする時間がほとんどなかったので、集客を一切しないままオープンすることになってしまい、最初は患者さんがほとんど来なくて苦労をしました。初月の売上は8万円くらいだったと思いますね。そこからちょっとずつあがっていって、4カ月目には60万円くらいになり、段々と安定していきました。
――オープン後に集客の手を打ったのですか?
いえ。最初はここを通りかかった方が偶然何人か来てくださって、その方たちが効果を実感してくださり、紹介で広めてくださったので、結局集客をすることはありませんでした。あとはリピート率が8割と、一度来てくださった患者さんが何度も来てくださることも大きいと思います。患者さんのおかげで、徐々に安定させていくことができました。
鍼灸業界を発展させるため、エコーを使った技術を広げていきたい
――和装姿でお仕事をされている姿が印象的です。着始めたのはなぜですか?
元々、鍼灸師が白衣を着ていることに違和感があって。我々は医療者ではありますが医師ではないですし、西洋医学をベースにしているわけではないので、なぜ白衣を着ているのだろうという思いがあったんです。それと白衣を着ているとすごく肩が凝るんですよね(笑)。
そこで鍼灸師っぽくて、楽に動ける服はないか探していたときに、ふと江戸時代の鍼灸師だった杉山和一という人のことを思い出して。その方は筒に鍼を入れて打つ管鍼法を確立した人で、和服姿で施術をしていました。今までにない方法を見つけ出したことにたいするリスペクトも込めて、和服姿で施術をするようになりました。肩も凝らないですし、楽に動くこともできて気に入っています。
――最後に今後の目標を教えてください。
鍼灸師業界を変えていくことが私の大きな目標です。その1つの手段としてエコーを用いながら鍼灸を実践して研究し、エビデンスを作っていきたいと思っています。この知見を広めていくために、鍼灸師向けのオンラインサロンを展開しているところです。鍼灸業界が安全に、多くの人に受け入れられるよう発展していけばうれしいですね。
また今後は、今までにない形の鍼灸師と医師の連携を広げていきたいと思っています。これまで、医師と鍼灸師が同じ場所で仕事をする場合、医師のトップダウンの元で仕事をするのが一般的でしたが、同じ立ち位置で仕事ができる方法を模索しているところです。医師に鍼灸師の需要を広めて、医師の元で鍼灸ができる雇用が広がっていけばいいな、と。
もうすでに何人かの医師の方とつながって一緒に仕事を始める準備も進めていますが、この連携を広げるためには、エコーを使いながら鍼にできることを、医師との共通言語で伝えていくことが大切だと思っています。そんなことができる鍼灸師をもっと増やしていきたいと思っています。
鍼灸師の常識にとらわれず、道を切り開いてきた種市さん。その行動の大元には、患者さんの痛みを少しでも改善したいという、ひたむきな思いがありました。この真摯な姿勢があるからこそ、患者さんからの厚い信頼を集めているのだと感じました。