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ヘルスケア 2023-09-16

理想は介護に関わるすべての人がハッピーになれること【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事 Vol.113/メディカル・ケア・サービス株式会社 杉本浩司さん】#2

ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。

前回に続き、介護福祉士の上級資格である「認定介護福祉士」策定時の人物モデルに選ばれた「日本一かっこいい介護福祉士」杉本浩司さんにお話をお聞きします。

後編では、杉本さんがお仕事のなかで大切にしていることや、これからヘルスケアのお仕事を目指す方へのアドバイスをお聞きします。

お話を伺ったのは…
メディカル・ケア・サービス株式会社 杉本浩司さん

コーポレートコミュニケーション室 室長/認知症戦略部 部長
介護福祉士として、介護の面白さを伝える講演や自立支援、人材育成、経営管理等、日本全国で延べ1,000回超の講演活動を行う。施設アドバイザーやコンサルタント、各団体幹事や顧問、理事としても活躍。テレビ・新聞・対談・インタビュー等、業界内外から注目されている。

Instagram:@koji_sugimoto_gre

自立支援介護は、介護する側もされる側もハッピーになれる


――お仕事のなかで大変なことは?

介護の仕事というと、介助面での大変さを考える方は多いと思います。でも、介助が大変なのであれば、楽な介助を覚えたらいいんです。僕は常に、自分の体に負担がなく、相手も楽な介助を追求してきました。それは究極のところ、できる限り自分でできることはしてもらう介護なんです。それが自立支援介護です。

でも何故か現場では過剰な介護をしがちです。車いすを自分でこげるのに、わざわざ後ろから押してしまう。それを続けていると、どんどんできることができなくなっていくんです。だから本人たちができることを増やせば、介護の仕事は楽になる。認知症にしても、こちらが大変だと感じる症状を、どうやったら取れるか考えて実践していくのは楽しいことです。

逆に僕が大変だと感じたのは、自分がいないときに同レベルのケアが展開されていないことでした。僕が出勤している日は利用者ご本人にやれることはやってもらうけれど、僕が出勤しない日は他の職員が全介助してしまう。すると、休み明けに出勤すると、前回よりもできることが減っていたりするんです。

人によって提供する介護の強度が違うというのは、介護を受ける側もすごくイヤだろうなと思います。だから、職員みんなと合意形成しながら、同じレベルで介護を提供していく方法を考えたり、仕組みを作っていくことは、すごく重要で大変なことだと感じました。

――介護のお仕事をするうえで大切にしていることは何ですか?

介護=優しい人でないとできないとか、人のために動ける人でないとできないというイメージが、すごくあると思うんです。でも介護職というのは、介護が必要な人の当たり前の生活を取り戻したり、当たり前の生活を実現するためのパートナーです。だからまずは、自分たちのパートナーでもある利用者さんたちのことを、僕らは絶対に諦めてはいけないと思っています。

伴走者である僕たちが諦めてしまったら、その横で介護が必要な人たちが、自分たちが叶えたくても諦めざるを得ない状況になってしまう。でも僕たちが諦めなければ、その人の人生をより豊かにすることができる可能性が、ずっと続いていくということだと思うんですよね。

一方で、僕ら介護する側も幸せでないといけないと思っています。利用者さんが喜んでいる姿を見たら、もちろん僕らも幸せですが、それだけでなく労働環境という意味でもハッピーになるのが理想。加えて利用者さんのご家族も、会社もハッピーになれるように、常に考えながら仕事をしています。

介護するスタッフ、事業所を運営する会社、利用者ご本人、そのご家族。その4者のどれか1つだけが突出して幸せな状況になると、いろんな問題に発展することがとても多いんです。だから、そこはとても強く重視しています。

大切なのは心身共に健康で、認知を能動的に行うこと

――杉本さんにとっての「ヘルスケアのお仕事3か条」を教えてください。

1,心身ともに自分が健康であること
身体の健康はもちろんですが、心の健康のためにも、僕は喜怒哀楽がとても大事だと思っています。なかでも笑うことって忘れがちなので、日々の中でちょっとした楽しかったことに気づくように意識しているんです。月曜日は週末の楽しかったことを部下に報告して、週の始まりから笑わせるのを習慣にしています。

2,認知は能動的に行う
物事の認知は能動的にしか行われないのですが、普段はそれを意識していないものです。例えば、新しい車を買ったら、その日から急に同じ車が目につくようになる。それは、今まで見えていなかっただけで、自分に起きた出来事がきっかけで認知するようになったんです。同様に、見ようと思わないと、人の変化は見えない。自分から意識して、相手の変化を見つけるようにすることが大切だと思っています。

3,返報性を大切にする
要は「先に与えなさい」ということ。例えば部下や職員さんに何かしてもらいたいなら、大変な仕事をフォローしたり、信用してもらう方が先だと思うんです。「そういう人になら多少のことはします」と思ってもらえるのは、先にこちらが与えているから返してもらえるもの。その意識は、忘れないようにしています。

若い世代の認知症に対する正しい理解が
将来の介護環境を大きく変えるきっかけになる


――現在、力を入れている活動を教えてください。

現在は、会社のCSRの一環として、小中高校生をメインに行っている「認知症教育」に力を入れています。部下の提案からスタートした活動で、「若い世代の方たちに認知症を正しく理解してもらうことで、将来が大きく変わる」という考えのもと、首都圏を中心に日本全国で講演をしているところです。若い世代とは言っていますが、講演を通して保護者や学校の先生まで、認知症の正しい知識が広まればいいなと思っています。

2025年には高齢者の5人に1人、2040年には4人に1人が認知症になると言われています。誰もが認知症になる可能性があるけれど、実際に自分の親が認知症になると、急に焦ってしまう人はとても多い。でも、そもそも認知症への理解がある社会になっていれば、ある程度は安心して生活ができるはずなんです。その土台作りとして、「認知症教育」に力を入れていきたいと考えています。

――未来の介護業界のことを考えた取り組みですね。杉本さんは発信力が強いイメージです。

これはずっと継続して取り組んでいることですが、「介護のイメージを変える」というのは、引き続き取り組んでいきたいです。介護は過酷で大変そうとか、『9K』なんて言われますが、「そんなことないよ」ということは、これからも強く発信していきたいですね。

例えば、うちの会社には約7000名の社員がいて、本当にいろんな人間がいます。『THE介護』というタイプももちろんいますし、介護のイメージのない人もたくさんいるんです。そういった人たちにもスポットを当てていけたら、介護のイメージも変わっていくのかなと思っています。

だから今後は後進の育成というか、僕以外にも取材依頼が来るような社員を、どんどん増やしていきたいです。既存の介護のイメージとかけ離れた魅力的な人たちにも、たくさん介護の魅力を発信してもらって、さらに魅力的な人たちが介護の仕事に入ってきてくれるようになったらいいなと思います。

――介護福祉士を目指す方が学んでおくといいことは何でしょうか?

いろんな人の人生史を聞くことです。僕はよくやってしまうんですが、出身地とか学生時代のこととか、いろいろ聞くんです。そうすると相手のことがすごくわかってくるし、考え方や行動のバックボーンが見えてくる。それは介護の仕事のトレーニングにもなるし、自分にとっての良い教材にもなると思います。

――最後に、これからヘルスケアのお仕事を目指す方たちへのアドバイスをお願いします。

悩んでいるなら、一度はこの業界に入ってみたらいいんじゃないかと思います。よくわからないからと二の足を踏むよりは、わからないからこそ経験してみたらいい。介護業界は間違いなく成長産業なので、入らない手はないんじゃないでしょうか(笑)。それに、健康を考えるって素敵なことだと思うので、それを仕事にできるってすごいことですよ!


取材・文/山本二季

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