業務形態や人間関係に悩む介護士さん必見! 「単発派遣」という働き方【介護リレーインタビュー Vol.39/介護福祉士・終活スタイルプランナー 鈴木治美さん】#1
介護業界に携わる皆様のインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。
今回お話を伺ったのは、
介護福祉士・終活スタイルプランナーの鈴木治美さん。
現役介護福祉士として働きながら「株式会社Living Proof」を開業し、終活の情報発信を行ったり、個人相談・セミナーを開催したり、終活スタイルプランナーとしての活動も行われています。
前編では、そんな鈴木さんが介護士になったきっかけや現在の働き方、利用者さんと向き合う際に心がけていることなどを伺います。
介護士になることは
母から託された使命だった⁉️
――介護士になろうと思ったきっかけは?
38歳の時に母が突然倒れてしまったんです。脳梗塞だったのですが、それ以来寝たきりになってしまい、食事はもちろん意思疎通も取れなくなり……。一夜にして要介護者になってしまった母は、介護士の方にお世話になるようになりました。当時私はウエディングプランナーとして働いていたのですが、毎日母のお見舞いに行くなかで、私自身も初めて介護士の仕事に触れることになったんです。
担当した新郎新婦さんにも介護士さんはいらっしゃったので、夜勤明けで打ち合わせに来られたり、すごく疲れていらしたり、「介護士って大変な仕事なんだな」というのは感じていました。でも、直接そのお仕事の様子を見ることはなかったので、実際目の当たりにすると、いろいろ考えさせられましたね。
それはいいことばかりではなく……。想像以上に忙しい現場で、いかに人手不足なのか、というのもよくわかったのですが、なかには「ちょっとそれは良くないのでは?」という対応をされる方もいて。もちろん、すごく丁寧に対応してくださる方もいたのですが、担当する人によってさまざまなんだなと感じました。
――それは困りますね。
でも、それって直接言えないですよね。もし何か言って、その後の対応がもっとひどくなったらどうしようとか、逆ギレされちゃったらどうしようとか。そもそも、私自身が介護の仕事をよく知らないのに、口出ししてもいいものなのか、というのもありました。
そこで「私も介護を学んで、介護をする側の人間になれば、対等な立場で伝えられるかも」と思ったんです。それに当時、今後は母のような重篤な人も「自宅で介護しなさい」という国の流れになるかも、と言われていたので、今後父にもしものことがあった時に、という考えもありました。
――それがどれぐらい前の出来事ですか?
約14年前です。介護士になることを決心してからは、ウエディングの仕事をパートに切り替え、介護の勉強を始めました。今でいう初任者研修、私の時代はヘルパー2級といっていたのですが、その資格を取ったんです。
正直すごく大変でした。パートとはいえ仕事をしているし、母の病院にも毎日通っているし、実家には父がいるので家事もしないといけないし。私自身はすでに離婚して子どももいなかったので、自分のことはなんとかなるとは言え、本来2週間ぐらいで取れるはずの資格も、取得するまでに2ヶ月かかりました。
――壮絶ですね!
母から託された使命のような気がしていたので、がんばれたんだと思います。そんな母も、私が無事資格を取り、実際に介護士として働き始めた2ヶ月後に他界しました。きっと、私がちゃんとこの道に進み始めたのを確認してから逝ったんだろうなと感じています。
――介護士の仕事は、それまでのお仕事と比べてどうでしたか?
最初に戸惑ったのは、介護の仕事って、出社したら腰を落ち着ける間もなく、すぐに体力勝負の仕事をしなくてはいけないところでした。
ウエディングの仕事の時は、出社したらまずデスクに座って、一息ついてメールチェックをする、という感じだったんです。でも介護業界は、出社して身支度したら前日の記録を見て申し送りをして、すぐ介助業務が始まるんです。一息つく暇なんてない。私にとってこれはすごく衝撃的でしたし、慣れるまで大変でした。
――残業などはどうですか?
それは、施設によって異なりますね。どの施設も基本的な就業時間は8時間なのですが、残業ありきで動いているところもあれば、残業そのものをしてはいけない、というところもあります。
今の働き方に悩んでいる人は
一度「単発派遣」をしてみてほしい
――施設ごとにシステムは変わってくるとおっしゃっていましたが、鈴木さんはどのような施設で働かれていますか?
今の事業を始める前は正社員として老健(介護老人保健施設)や特養(特別養護老人ホーム)などで働いていましたが、開業してからは単発派遣として週2~3日、様々な施設に行っています。
――ちなみに、単発派遣と正規スタッフだと、働き方に大きな違いはありますか?
どちらも「利用者さんの介助を行う」という点では同じ業務ですが、気持ちの部分がずいぶん変わってくると思います。
というのも、同じ場所にずっと勤務するということは、利用者さんも他のスタッフも毎日同じ顔ぶれで働くことになりますよね。そうなると、良い面も悪い面も見えてしまうので、時には衝突が起こることもあるんです。
それは業務についても同じで、慣れるということは作業時間が短縮できたり、効率的に動けるようになったりなど良い面がある分、小さな見落としが起きやすくなったり、「いつものことだから」と油断したばかりに何か問題が起こってしまう、ということもありうるんですよね。
これが単発派遣だと、毎回異なる施設に伺うので、利用者さんお一人お一人の状況やご事情がわからないゆえに丁寧な仕事ができたり、利用者さんや職員さんに優しく対応できたり。よりいっそうきめ細やかな仕事を心がけますよね。
もちろん派遣されるということは、人手が足りずそれなりに忙しい施設でしょうから、率先して動ける行動力は必要になりますが、一つの施設でしか働いたことがなく、「私、もしかしたら介護士に向いていないかも。やめようかな」と思っている人がいたら、ぜひ単発派遣をやってみてほしいです。
――確かに、毎回新しい現場だと、嫌なことを引きずらないという利点がありますね。
そうなんです。施設にも人間関係にも慣れてくると、無理なお願いをされることもありますからね。しかも優しい人ほど、お願いされると断れない。それが少しずつ負担になって辛くなることもあります。そういう人はぜひ試してもらいたいですね。単発派遣を通して、自分に合いそうな施設が見つかったらそこに就職するのも一つの手です。
心に余裕を持つことで、
拒否をされても冷静に対応できる
――ご利用者さんと向き合うときに大切にしていることはありますか?
何かをお願いするときは、常に「施設の都合に合わせてもらっている」という気持ちを忘れないようにしています。
例えば、入居されている方の中には、「この時間に寝たくない」「この時間にご飯を食べたくない」「この時間にお風呂に入りたくない」と拒否される方もいらっしゃいます。正直介護スタッフとしては困っちゃうんですけど、でも冷静に考えると仕方ないんですよね。普通にご自宅で生活されていたら、寝る時間も食事を摂る時間もお風呂に入る時間も、全部自分で決めますから。
特にお風呂は介護施設だと日中に入浴してもらうことが多いのですが、一般的には夜入ります。そう考えると、「こんな明るい時間に入りたくない」というのも納得です。
働いている側としては「そう言わずに今入ってもらわないと……」と、つい思ってしまうのですが、そこは利用者さまの思いを汲んで「そうですよね、こちらの都合に合わせていただいちゃって、すみません」という気持ちでお願いする。そういう心の余裕を持てるように普段から意識しています。
――スタッフさんからすると「仕事」ですけど、利用者さんからすると「生活」ですもんね。ちなみに、この仕事でやりがいを感じるときはどんなときですか?
利用者さんには本当にいろんな方がいらっしゃって、感情の起伏が激しい方とか、いつも怒っている方とか、なかには感情がうまく表現できずにずっと無表情、という方もいらっしゃいます。それは病気によるものだったり、環境によるものだったり、原因はさまざまなんですが、私が働いていた現場では「いつも笑っていて、陽気」という方は少なかったように思います。
でも、そういう方がふいに笑ったくれた時、その喜びは何倍にも感じます。それがいちばんのやりがいですね。だから私も、「なんとかこの人を笑顔にする方法はないかな?」と考えるようになりますし、ちょっとした表情の変化にも注目するようになります。特にコミュニケーションがうまく取れない利用者さんの表情がふっと緩んだときは「今、笑顔になりましたね!」と思わず声をかけるくらい嬉しいです。
後編では、終活スタイルプランナーとしての活動や今後の目標、介護士を目指す人へのアドバイスなどを伺います。
取材・文/児玉知子
撮影/喜多 二三雄