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ヘルスケア 2023-10-25

お金や介護のことだけじゃない! 「終活」に関わる仕事とは?【介護リレーインタビュー Vol.39/介護福祉士・終活スタイルプランナー 鈴木治美さん】#2

介護業界に携わる皆様のインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。

今回お話を伺ったのは、

介護福祉士・終活スタイルプランナーの鈴木治美さん。

現役介護福祉士として働きながら「株式会社Living Proof」を開業し、終活の情報発信を行ったり、個人相談・セミナーを開催したり、終活スタイルプランナーとしての活動も行われています。

前編では、そんな鈴木さんが介護士になったきっかけや現在の働き方、利用者さんと向き合う際に心がけていることなどを伺いました。
後編では、終活スタイルプランナーとしての活動や今後の目標、介護士を目指す人へのアドバイスなどを伺います。

感謝を伝えたり、楽しい思い出を共有することも
立派な終活のひとつ

――終活スタイルプランナーになられたきっかけは?

まず「終活スタイルプランナー」という肩書きについてですが、これは自分でネーミングしました。今、終活は色々な団体や協会があって「終活〇〇」という、資格を取得するための講習が各所で行われています。私も以前、そのうちの1つの協会で資格を取得しました。講習はとても勉強になりましたが、「終活=資格」ではなく、誰もがもっと身近に、もっと普通に終活できるよう、総合的に見て分かりやすい、いい名前をつけたいなと思ったんです。

そこで考えたのが、終活って100人いれば100通りのスタイルがあるな、ということ。年齢や家族関係はもちろんのこと、自分自身の終活なのか、親の終活なのか。さらにいうと、介護のこと、保険のこと、相続のこと、お墓のこと、何が一番不安なのか。そんな一人一人の不安に向き合っていきたいという思いで名付けました。

少し話がそれましたが、終活の仕事をしようと思ったきっかけは、介護施設などで利用者さんやそのご家族とお話ししていると「こんなことになると思わなかった」とおっしゃる方が想像以上に多かったこと。特にご家族ですね。私自身も母が倒れた時に同じことを思いましたし、ご本人もご家族も、自ら積極的に施設に入る人なんてほとんどいません

でも、どういう形であれ、いずれ施設に入る可能性は誰にでもありうるわけなので、いざその状況になって慌てたり後悔したりすることはないよう、元気なうちに気持ちの準備をしてもらいたいなと思ったんです。

――でもなかなか先々の不幸って、考えたくないですよね。

そうなんです。でも終活は先ほどお話ししたように、お金のことだけではありません。例えば「いつか旅行に行こうね」という約束も、「いつかきちんと感謝を伝えよう」という思いも、「いつか」と先延ばしにしていると、そのタイミングはいつになっても訪れず、後悔を残したまま見送ることになるんです。そんなの悲しすぎますよね。

やっぱり元気なうちにたくさん会話をして、いろんなところに行って、思い残すことなく過ごしてほしい。それも立派な終活です。もちろん、どんな介護をしてもらいたいか、実家の片付けはどうして欲しいか、相続はどうして欲しいか、ということもしっかり話し合っていただきたい。

でも「何から始めればいいの?」という人がほとんどです。そういう人に向けて情報発信をしていくのが、私の活動のひとつ。「これも終活なんだ!」と驚かれる人も多いですが、そういう気づきを与えるのも大事だと思っています。

クラファンを利用してツアーを企画。
今後はコミュニティ作りにも力を入れたい

――ちなみに会社を立ちあげて、事業として行っている理由は?

もちろん個人事業主でも活動できます。私も事業を立ち上げるまでは、個人事業主として個人相談を受け付けたり、講演依頼を受けて登壇したりしていました。でも活動の幅を広げるにあたり、それが対・企業や対・施設となった時、会社として対応した方がより信頼していただけると思いますし、私の本気度も伝わるかなと思ったので、思い切って開業することに。とはいえ一人社長で運営しているので、大変なんですけどね(笑)。

――現在の活動内容をまとめると?

大きく分けると、
・終活スタイルのヒアリング&アドバイス
・SNSなどを使った情報発信
・セミナー&イベント開催
・講演会登壇
です。イベントは、今後もっと増やしていきたいと思っています。

例えば、遺影撮影のイベント。すでに少しずつ始めているのですが、コロナで一時中断してしまったので、そろそろ再開したいですね。

あと、これは終活スタイルプランナーというより介護士としてのイベントになりますが、「生演奏のレクリエーションコンサート」というツアーを企画しています。クラウドファンディングを使ってサポートを募ったら、目標金額を大幅に超えた支援が集まりました。

最初はクラファンにいいイメージが持てず、少し悩んだのですが、コンサルティングをお願いしている人に相談したところ、「事業のブランディングにもなるし、何か社会貢献したいけど自分自身では何もできなくて悩んでいる人も、支援という形で思いを叶えられる。ぜひやったほうがいいよ」と言われたんです。

クラファンを一から勉強するのは大変でしたが、チャレンジしてよかったなと思います。正直大変なのはこれからで、今ツアー準備に追われていますが、ちょっとワクワクしていますね。

――楽しみですね!

またイベント以外では、「50代・独身・子どもなし・女性」など、ターゲットを絞った終活セミナーを開催したいと思っています。これもすでに少し動き出しているのですが、終活は三者三様とはいえ、ある程度ターゲットを絞ると、似たような悩みを抱える人たちが集まる。そういう人たちのコミュニティを作りたいんです。

私が講義をするだけでなく、同じような悩みを持った人たち同士が共感したり相談したりできる場を作りたい。「今、私はこれが不安なんだ」と正直に打ち明けられる相手がいるだけでも、気持ちがずいぶん軽くなりますからね。来年にはプラットフォーム化できるように進めています。

――着々と動き出していますね。

あともう一つ! これは私個人の晩年の夢なのですが、おばあちゃんたちのシェアハウスを作りたいです。1階はデイサービスにして、2階から上がシェアハウス。デイサービスは日中だけにして、夜は「スナック治美」を営業するんです(笑)。なんだか楽しそうでしょ?

正しい接遇マナーを学んで、
思いやりのあるケアをしてほしい

――これから介護士を目指す人や終活に関わる仕事をしたいと思っている人が、経験しておくといいことや学んでおくといいことはありますか?

コミュニケーションの取り方ですね。実は私、介護施設における接遇マナーの講師もやっているのですが、これはぜひみなさんに学んでほしいです。

そもそも接客と接遇は違います。特に介護施設などの接遇は、航空業界やホテル業界、ウエディング業界などの「今日一日、この空間で過ごす時間を心からおもてなしする」というのとも違う。日常的な生活のサポートになるので、テンションを上げすぎてもいけないし、かといって流れ作業になってもいけない。意外と難しいんですよ。

対応面でいうと、寝ている人の部屋に入る時「ドンドン」と大きなノックをするとびっくりするだろうし、ノックもせずに入るのはもっての外。カーテンの場合も、勢いよくシャーッて開けると、結構耳に響きます。でもみなさん、意外とやってしまっているんですよね。そう言う私も何度も不手際をやらかしてきました……。

対話面だと、何度言っても伝わらない時についつい「何回言えば……」と言いたくなってしまいますが、やはりそこは我慢が必要。家族ではありませんからね。

介護施設のような生活に根付いたサービスというのは、非日常的な場のサービスと比べて、どうしても素が出やすいといいますか、ついつい油断しがちになるので、そのあたりをしっかり意識して、学んでおくといいと思います。

――ありがとうございました。最後に、介護士&終活スタイルプランナーとしての心得3箇条を教えてください。

・初心を忘れない
「どうしてこの仕事に就こうと思ったか」って、意外と忘れちゃうんです。でもきっと「おじいちゃんおばあちゃんを笑顔にしたい」とか「不安を抱えている人の助けになりたい、力になりたい」とか、優しい気持ちを持ってこの業界に入った人が多いはず。その思いを忘れないでいてほしいです。

・相手のこれまでの人生を思う
介護士は、認知症になってしまったおじいちゃんとか、後遺症で会話ができなくなってしまったおばあちゃんとか、その人の「今」の状態しか見えません。でもその人にだってバリバリ働いていた時代がある。そういう、今まで歩んできたことにもちゃんと意識を向けることで、より相手を敬い、尊重した対応ができるのではないかと思います。

終活の仕事の場合も同様です。基本的には相手の「今」の心配事について、一緒に解決法を探すのですが、それにはその方がどういう人生を歩んできたか、どういう人生観を持っているかというところも知ることが大切。「今」だけでなく、その人の「過去」や「未来」にも寄り添う気持ちを持ちましょう。

・丁寧に行う
これはどんな業界にも当てはまりますが、一つ一つの仕事を丁寧に。「あなたの仕事、丁寧ね」って言われたら、嬉しいですよね。

取材・文/児玉知子
撮影/喜多 二三雄

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