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ヘルスケア 2023-12-20

業界も専門家も大注目! 話題の「料理特化型デイ」の仕組みと工夫【介護リレーインタビュー Vol.40/なないろクッキングスタジオ(神永美佐子さん)】#1

介護業界に携わる皆様のインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。

今回お話を伺ったのは、

料理をコンセプトにした業界初のクッキングデイサービスで注目を集める

「なないろクッキングスタジオ」の神永美佐子さん。

前編では、料理特化型デイの仕掛け人として、「なないろクッキングスタジオ」が生まれた経緯やその特徴を伺います。

スタッフへの丁寧な教育と育成が
サービス向上に繋がる

――介護業界歴20年と伺いましたが、この業界に進んだきっかけは?

以前は大手出版社に勤務していたのですが、退職した先輩が女性のための業界初の人材請負事業を立ち上げるということで、誘われました。「女性が活躍する場をつくりたい」という思いに惹かれて、私も転職したんです。その後、その会社が介護事業に参入することになり、気がついたら介護業界に関わっていましたね。当初は介護職を目指す人の教育と全国の介護職の採用を担当していました。

そのあとご縁があって今の会社(株式会社SOYOKAZE)に転職したのですが、入社時の面談で「今の介護業界は地味で暗い。本社が都心にあるのに都心に自社の施設が少ない。23区内におしゃれでトレンド感があって、いわゆる“アクティブシニア”が自ら喜んで来たくなるような、都会スタイルの新しい介護サービスをつくってほしい」というオーダーを受けました。

たしかにこれからの時代は脱・介護保険が謳われていますし、介護保険に頼らない新しいサービスを行うには、今までの介護サービスを見直す必要があります。それを目的としてできたのが「なないろクッキングスタジオ」です。

――では、転職されてすぐこちらの施設に取り掛かられたんですか?

いえ。入社して1年目に任されたのは、介護スタッフや本社管理職の教育研修の仕組みの構築でした。当時、弊社には教育研修の専門部署がなく、毎年プロジェクトベースで教育チームを編成していたんです。でもそれだと継続した教育や人材育成がしにくく、研修後のフォローアップなど手厚いサポートができません。

そこで教育企画部を立ち上げ、部署として教育をサポートできるようにしました。それまでは主に社内のベテラン介護士が講師を担っていましたが、それだと会社の枠を超えた幅広い教育は難しい。そこで外部講師に依頼し、教育内容や最新の情報も広く得られるようにしました。研修テーマも、現場に直接アンケートを取り「どういうことを教えてもらいたいか」「どういう研修をしてほしいか」を全事業部に細かく要望をヒアリングしたんです。

――大改造されたんですね!

急にやり方が変わったので戸惑われた方もいたと思います(笑)。特に外部講師を入れる提案は、ハードルが高かったですね。でも、働く社員が成長することでサービスの質が上がれば会社としてもいいことだと思います。最終的にOKが出て、さらにエリアごとに50項目ほど用意した多様なテーマのなかから3つの研修を自分達で選んで受けられる「オーダメイド研修」のシステムをつくりました。本社の管理職向けのマネジメント研修や全国の自社施設を1年かけて行脚し、介護スタッフ向け研修を開催し、その後、当初予定していた新規事業の企画に着手しました。

五感を全て刺激する「料理療法」は
認知症の予防改善に効果的

――なぜ「料理」に特化したデイサービスをつくろうと思ったのですか?

じつは、どんなコンセプトがいいかいくつか企画を提出してみたのですが、「まずやってみて」と言われて(笑)。であれば……ということで物件探しを始め、見つかったのが1号店となる「自由が丘」でした。

そこから、この立地に合うサービスはなんだろうと考えた時、「自由が丘は、センスがいい人が集まっているエリアだから、質の高いサービスを求める人も多いのではないか。おいしいものもよく知っていて、食に対する感度も高いはず」と思い、最初に提案した案の中から、まだどこにもなかった「料理に特化したデイサービス」をつくることにしたんです。

――場所に合わせてコンセプトを決めたんですね。それにしても「料理特化」とは、あるようでなかったサービスですよね。

そうですね。ただ、料理を用いたレクリエーションというのは、以前からどこの介護施設でも行っていて人気があります。でも「料理教室」となると話は別。「料理するだけで時間はもつのか」「包丁や火を使っても危険はないのか」「認知症の人がちゃんと料理が出来るのか」など、課題は山積みでした。

とはいえお客さまの多くは、若い頃バリバリ家事や子育てをこなしてきた元ベテラン主婦。もちろん介護スタッフのサポートもありますし、危険がないようしっかりケアをさせていただくので、みなさまイキイキと安心して調理されています。

――料理特化のいいところは?

料理は、味はもちろん、食欲をそそる匂いもあり、調理中の音もあり、手で食材を触り、盛付けの見た目にもこだわる。五感全てを刺激するので、脳活性化にすごくいいんです。実際に調理中の脳波を調べると、脳活性に欠かせない前頭前野がすごく刺激されているというデータも出ています。これは認知症の予防改善に効果的です。

また、「料理療法」という認知症のリハビリテーションにもなります。ただし、今までは主に回想療法として、昔のことを思い出して作業(調理)することが認知症の進行を緩和すると言われていました。

しかしここでは昔ながらの思い出料理だけでなく、ちょっと珍しい食材を使ったり、最近流行の料理なども作ります。そういった新しい情報に触れるのもいい刺激になるようで、料理療法を提唱している京都教育大学の湯川先生も見学に来られ、とても驚いていました。

あえて調理の作業工程を増やし、
機能訓練としての工夫こらす

――独自のメソッドを少し教えてください。

プロのシェフがいる、まるで料理教室のような雰囲気を演出しているのが「なないろクッキングスタジオ」の特徴です。

まずは「なないろ」という名前にもあるように「色」ですね。大抵の介護施設は白や木目を基調にして色味のトーンを抑えていることが多いのですが、ここではカラフルなインテリアを取り入れて施設感をなくしています。入口を入った瞬間からテーマパークに来た時のような高揚感を感じられるように演出しているんです。また、はっきりとした明るい色は高齢者でも識別しやすいので、危険回避の効果も期待できるんですよ。

そして本物のシェフを講師にしていること。これはお客さまの自尊心を傷つけない仕掛けの1つです。ベテラン主婦として何十年も料理を作ってきた人たちからすると、若いスタッフに今さら料理を教えてもらうというのは、プライドを傷つけかねませんからね。

ちなみに調理器具は、できるだけ一般家庭用で使うものを使用しています。ここはあくまで自立支援を促すデイサービスなので、機能訓練を兼ねています。介護用品を使うとご自宅で再現しにくいですから。また、フードプロセッサーなどの便利グッズもできるだけ使いません。あえて調理作業の工程を増やすのがポイントです。

――確かに、機能訓練が本来の目的ですもんね。

機能訓練という点ですと、動線を考えて設備配置しているのもポイントです。学校の家庭科室のように、一つの島に水場もコンロも全部揃っていると、移動(歩行訓練)が少なくなりますし、お客さま同士のコミュニケーションも生まれにくくなります。コンロはこっち、水場はあっち、とあえて島を分けることで、自然と行き来することが増え、違うグループの人たちとも会話ができるようにしました。

ただし歩行には危険がつきもの。狭いながらも転倒リスクを減らすために、カウンターやテーブル、椅子の背もたれの高さを揃えています。手すりがなくともこれらをつたって移動できるようになっているんですよ。

もちろんスタッフのサポートも重要です。でも、先回りして準備したり、手取り足取り支えることだけがサポートではありません。お客さまご自身でできることを減らさず、むしろ増やしてもらうために、できるだけ言葉での誘導やサポートに徹するよう努めています。

家とは別人⁉︎
料理に集中することで得られる脳の活性化

――それにしてもみなさんイキイキしてテキパキ動いてらっしゃって、正直介護が必要な人たちには見えません。

でもここにいらっしゃるのは、要介護1以上で認知症などを患っていて見守りや介護が必要な人だけなんです。ご家族によると「家では引きこもって、寝ているかテレビを見ているかで、全く動かない」という人も多いのですが、「なないろ」に来るとこんなに自らテキパキ動いている。料理に集中することで、脳に変化が表れているんだと思います。

その変化は文字にも表れていて、毎回ここに来ると今日作るメニューや調理のポイントを紙に書き写してもらうのですが、最初は読めないような文字を書いていた人も、半年後にはすごく読みやすい字で、内容まできちんと整理して書けるようになったりします。脳が活性化されている証拠ですよね。

――そこまで改善するんですね。ちなみに料理はみなさんここで召し上がられるんですか?

1時間の調理で5品作るのですが、午前の部は昼食として、みなさんで一緒に召し上がってからお帰りになります。午後の部に参加する人たちは食べずに持ち帰り、ご家族と一緒にご自宅で夕食として召し上がっていただきます。

ちなみにコロナ前は年2回、ご家族や担当のケアマネジャーを招待する「成果発表会」を開催していました。実際の活動の様子が観られるのでご家族に大変喜ばれますし、お客さまも張り切って作業するので大好評でした。また、近い内に再開したいと思っています。


後編では、自由が丘の施設で実際に働かれている石川大輔さん、山本奈々さんにもご登場いただき、施設での働き方を伺います。

取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄

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