「料理特化型デイ」は海外でも注目される、新しいビジネスモデル【介護リレーインタビュー Vol.40/なないろクッキングスタジオ】#2
介護業界に携わる皆様のインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。
今回お話を伺ったのは、
料理をコンセプトにした業界初のクッキングデイサービスで注目を集める
「なないろクッキングスタジオ」のみなさん。
前編では、料理特化型デイの仕掛け人である株式会社SOYOKAZE 事業統括本部 部長・神永美佐子さんに、「なないろクッキングスタジオ」が生まれた経緯やその特徴を伺いました。
後編では、自由が丘の施設で実際に働かれている石川大輔さん、山本奈々さんにもご登場いただき、施設での働き方を伺います。
各店舗の利用者に合わせて
料理の作業工程も調整する
――みなさんの担当業務と、お仕事の流れを教えてください。
神永さん(以下、敬称略):私は事業統括本部に所属しているので、現場のサービスには直接関わっていません。運営のマネジメントをする側として、サービスの質や運営面のサポートを行っています。お客さまは安全で快適に、スタッフは効率的にオペレーションできるよう、現場の率直な意見を聞きながら、問題を解決できるようにサポートしています。
神永:ちなみにスタジオ(デイサービス)は上の表のようなスケジュールで動いています。午前の部・午後の部とお昼に入替があり、1日2回転するのも、弊社としてはオープン当初、新しい試みでした。石川は自由が丘のセンター長 兼 管理者 兼 生活相談員の3役をこなしています。デイの運営の中心となり、高いホスピタリティでサービスの質を上げてくれています。
石川さん(以下、敬称略):僕はふだん、お客さまの送迎を行った後、事務所で事務処理や電話対応などを行いつつ、スタジオの様子を見ながら適時対応しています。あとは、新規のお客さまの見学や契約の手続きの担当ですね。みなさまそれぞれ病歴があったり要介護度が違ったり、もちろん性格や生活環境も違いますので、お一人お一人のニーズにあったサービスを提供できるよう努めています。
神永:山本は前職、外資系ホテルのレストランでシェフとして働いていたんですが、調理師に加え、介護福祉士の資格も持っているんです。まさに「なないろクッキングスタジオ」にぴったりの人材! 料理のクオリティを管理してくれています。
山本さん(以下、敬称略):私は自由が丘の調理責任者として、お客さまの調理をサポートしています。ここで作る料理は既存3拠点の代表のシェフと神永部長が2ヶ月前に主となるメニューを決め、それをベースに各店舗でお客さまの嗜好に合わせたメニューやレシピに調整します。作業工程が少なすぎてもいけないし、多すぎても時間内に終わらないので、その塩梅を考えるのは大変ですが、やりがいがありますよ。
団塊世代の利用者が増えることで、
今後ますます多様なサービスが求められる!
――現場のお二人の働き方をもう少し詳しく教えてください。石川さんは介護業界は長いんですか?
石川:14年近くなりますね。友人が先に介護業界に携わっていたことで興味を持ち、僕も前職を退職したのを機に介護業界に入りました。この会社は今年で4年目になります。
――どんな時にこの仕事のやりがいや魅力を感じますか?
石川:新規のお客さまの見学や契約をお手伝いする際、ご家族からご自宅での様子を伺うのですが、やはりみなさま引きこもりがちな人が多いんです。正直、デイに来ていただいても、ご満足いただけるような対応が自分達にできるか心配な時もあるのですが、実際ご利用されると、まるで違う人のようにテキパキと料理をされていて。僕もその姿に驚きますし、なによりご家族が見に来られた時、すごく驚いて喜ばれます。その時はやりがいを感じますね。
介護職って、まだまだ世間一般的には「大変」というイメージがあると思うんです。従来の業務は入浴介助や排泄介助などがメインですから、なおさらでしょう。でもこれからの介護職はもっと幅広くなる。団塊世代の人たちが介護の対象になってくると、さらに多様なサービスが求められるでしょう。
そういったなかで、この「なないろクッキングスタジオ」のような新しいサービスに取り組み、喜んでいただけるっていうのは誇りです。今はこの自由が丘の他に成城、三軒茶屋の計3店舗ですが、その他にももっと展開していきたいですね。
神永:じつは来年、杉並に4店舗目ができる予定なんです。そちらもこの自由が丘のように賑わってくれると嬉しいです。
――山本さんは、前職でホテルのレストランシェフをされていたとか。介護資格はいつ取られたんですか?
山本:高校が福祉資格の取れる学校だったので、その時に取りました。当時はそのまま介護士として就職する予定だったんですが、実習で料理に携わる機会がありまして、調理の仕事にも興味が湧き。調理の専門学校に進学して、そのまま仕事につきました。
――介護の資格も調理の経験も活かせる「なないろ」のお仕事は、まさにぴったりですね! 調理サポートでは、どのようなことを意識されていますか?
山本:お客さまには認知症の人が多いのですが、10秒前にお話ししたことも忘れてしまうことが多々あります。そういう場合でも失礼な態度は絶対取らず、人生の大先輩としてお話しするように努めています。
例えば、「違うよ」「そうじゃないよ」という否定的な言葉は使わないこと。これはスタッフ全員気をつけています。もし間違ったことをしてしまったとしても、それはそれでいいんです。「次はこういうふうにお願いします」という感じで、お客さまの意欲を損なわないように心がけています。
あと、これは当たり前のことですが、大きな声でゆっくり話すこと。「言って終わり」ではなくて、きちんと伝わっているかどうかまで確認するようにしています。
――ここでの仕事は、どんなところが魅力ですか?
山本:やはり喜んでもらえることが一番嬉しいです。認知症の人でも、前回いらした時の雰囲気をなんとなく覚えていて、「ここに来ると明るい気持ちになるわ」「ここは楽しいわね」というような前向きな言葉が聞ける。それって一般的な介護施設だと、なかなかないと思うんです。「おもしろくないから行きたくない」という声もよく聞きますし、「デイを利用していることをご近所さんに知られたくない」という理由で、通うことを躊躇している人もいます。でもここなら「料理教室に行っている」と言えますからね。
神永:ここの送迎車には「なないろクッキングスタジオ」としか書いていないので、一見デイサービスの送迎車とはわかりにくいんですよ。小さなことですが、この配慮はご近所の目を気にするお客さまやご家族からも喜ばれています。
山本:人によっては見守りだけでよかったり、しっかりと介助が必要だったり、みなさまそれぞれです。「高齢だから」「認知症だから」というくくりではなく、お一人お一人に寄り添って対応し、笑顔や楽しいという気持ちを引き出してあげたい。お客さまが喜んでくれると、ご家族も喜んでくださるので、その分やりがいも2倍になりますよ。
ニーズが変わればやり方も変わる!
求められる人材は、何事にも柔軟に対応できる人
――こういったサービスは、今後ますます求められそうですね。
神永:近年、介護保険外のサービスも求められるようになってきています。先ほど石川の話にもありましたが、これから団塊の世代の人たちが介護の対象になってくると、自分のお金で自分が受けるサービスを選ぶようになると思うんです。そうなると、従来通り「ただ、時間内を施設で過ごしてもらい、1日お預かりする」というだけでなく、ニーズに合わせたサービスを提供したり、目的を持って過ごしてもらうことが必要になる。
じつは最近、海外のビジネス誌からも取材を受けました。以前から日本の介護はレベルが高く、おもてなしやホスピタリティの精神がすばらしいと世界各国からの問合せなど関心を寄せていただいていましたが、今回、新しいビジネスモデルとして取り上げていただいたんです。とても嬉しいことですし、誇れることだと思っています。
現状は、料理特化型デイとして「なないろクッキングスタジオ」の展開に注力していますが、もしチャンスがあれば、また新しいサービスの開発や他にないコンセプトの施設を作りたいですね。
――介護の現場も変わってきているんですね。となると、今後どのような人材が求められるようになりますか?
神永:これは私が採用する時のポイントにもしているのですが、新しいことや変化に柔軟に対応できる人ですね。
どうしてもこの業界は固定概念というか、「昔からのやり方」が根強くて、新しいことや変化を受け入れがたいところがあります。でもそれだと、いつまで経っても変えられないしよくならない。変化や知らないことを受け入れるのが不安なのはよくわかりますが、求められるニーズや環境、世の中の情勢など周囲が変わってきている以上、やり方も考え方も柔軟に変えて対応していかなければ取り残されます。「こうしなくてはいけない」という思い込みをなくし、視点を変えることができれば、思ったよりも簡単に効率化できたり、課題を解決出来て合理的になったりすることも多々あるはずです。
例えば、自由が丘で導入している最新型の「歩行トレーニングロボット」。これは現場スタッフの提案から取り入れたものです。「スタジオ内でお客さまが、椅子などにつまずいたり転んだりして怪我をしないためには、どうしたらいいか」という問題に対して、「もっと体幹を鍛えれば、転びにくくなるのでは」という答えを導き出したんです。
素晴らしい発想だと思いました。大抵の場合、「施設の作りが悪い」「広い歩行スペースが必要」「椅子を買い替える」「床を滑らなくする」「障害物をなくす」という答えに行き着きますが、「転ばないために体幹を鍛える」というのは目から鱗。介護方針としても、この方が絶対いいはずです。
料理特化型デイサービスだから歩行訓練は出来ないし、しなくてもいいという固定概念を取り払い、柔軟な対応と着眼点、発想ができる人が、今後求められると思いますし、介護業界の発展にも欠かせない人材になると思います。
――ありがとうございました。最後に前編・後編のまとめとして、介護業界で働く3ヶ条を教えてください。
・ホスピタリティを忘れない
・変化に対応する柔軟性を持つ
・チームの一員であるという意識を持つ
神永:介護サービスはチーム戦です。お客さまと対応する時は一対一かもしれませんが、みんなで情報共有し、連携してお一人お一人を支えています。スタッフそれぞれ能力もスキルも経験値も違いますが、それぞれ足りないところを補い合ってこそのチーム力だと思うので、みんなで協力・連携して介護サービスを実現することを大切にしてほしいです。
取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄