ミッションは「男性看護師が男の子のなりたい職業第1位」にすること【介護・看護・リハビリ業界のお仕事企画 Nurse-Men 代表 看護師 秋吉崇博さん】#2
業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載「介護・看護・リハビリ業界のお仕事企画」。今回は、看護師を男の子のなりたい職業第1位にすることをミッションに一般社団法人Nurse-Menを立ち上げた秋吉崇博さんにお話を伺います。
前編では、病院の仕事との掛け持ちでハードな生活を送った看護学生時代、救急医療の看護師からトラベルナース、サロン運営について聞きました。
この後編では、Nurse-Menの開設理由とその背景、一次救命処置の講習会を行う「命のバトンプロジェクト」など精力的な活動について詳しくお伺いします。
お話を伺ったのは
Nurse-Men代表
看護師 秋吉崇博さん
救急医療の看護師として10年以上活動。憧れていた先輩がキャリアアップしていくにも関わらず疲弊していく姿に違和感を感じ、フリーランスナースに転向。看護師を軸にセラピストやデザイナー、実業家など他のプロフェッショナル分野とかけ合わせた活動をする男性看護師仲間と出会う。医療機関を飛び超えたオリジナルの看護は、看護師の活躍の場を広げ、医療業界だけでなく社会さえも変えられるという思いで一般社団法人Nurse-Men設立。訪問看護やキックボクシング×体質改善サロン運営の他、全国の小中高校や企業に一次救命処置の体験会や講習を行う「命のバトンプロジェクト」など精力的な活動を展開。
ミッションは「男性看護師が男の子のなりたい職業第1位」にすること

日本の男性看護師の割合は全体のわずか8.6%(厚生労働省が発表した資料「令和4年衛生行政報告例の概況」による)。
――秋吉さんが代表を務める一般社団法人Nurse-Menの設立理由を教えてください。
僕自身15年以上男性看護師として働く中で、肩身の狭い思いをしてきたこともありました。住みたい街ランキング上位エリアの病院でも男性更衣室があるのは暗くてカビ臭い地下2階。職場でのコミュニケーションに傷ついても、相談できる同性の看護師がいないことで働くモチベーションが下がる。そういった悪循環をどうにか改善したい。男性看護師の地位が「男の子のなりたい職業」第1位になるくらい向上することを目指して、2020年一般社団法人Nurse-Menを設立しました。
――Nurse-Menでは実際にどんな活動をされているのですか。
まず訪問看護事業があります。看護業界は「穴の開いたバケツ」と言われているのをご存じですか。看護師になりたい人が蛇口からジャージャー出ているのに、給与面などの労働環境の部分を中心にたくさん穴が空いているため、男性に限らずどんどん人が漏れていく。この穴を塞ぐ作業をしていくことが絶対的に必要。だから先陣切って、自分で営業して、いまの看護師の平均時給を上げていくような仕事を作り出したいと思っているんです。
――訪問看護事業がそのひとつなのですね。
訪問看護は基本的に夜勤がない、病院みたいに同時に何人もの患者さんに呼び出されることもなく、その利用者さんだけと向き合えるので一度現場を離れた人も復帰しやすいという側面があります。
いまNurse-Menには従業員1人、非常勤の看護師が3人いますが、利用者の中には暴言暴力、アルコール中毒などで看護が厳しい方も。先日も、室内の衛生状態が悪く、暴言の傾向がある高齢の兄弟の依頼があり、女性看護師は対応に困っていました。でも僕が担当になり、ときには厳しく注意することで彼らの態度が変わり始めたんです。これは同性だからこそ厳しく、対等な関係で接することができた結果。一旦関係性ができれば、その後は女性スタッフも対応できて、男性看護師の存在意義が証明できた案件だったと思っています。
「命のバトンプロジェクト」で全国民が目の前の命を救える時代へ

Nurse-Menでは音楽フェスでの医療支援や能登の災害支援も。「バケツの穴を塞ぐだけじゃなくて、新しいバケツの種類を増やす活動も重要」と秋吉さん。
――訪問看護以外にはどんな活動を?
いま僕らがいちばん力を入れているのが「命のバトンプロジェクト」。「全国民が目の前の命を救える時代へ」をミッションに、一次救命処置の体験会や講習を行っています。
日本では、年間8万2,000人が心臓突然死で亡くなっています。僕は10年以上救急の看護師をしていたので、毎日のようにその現場に居合わせていました。日本では救急車が現場に到着するまでに平均10分以上。心臓マッサージの方法を知らなければ救急車を待つしかないですよね。でもそれを知っていれば助かる命は確実に増えます。
実は、日本は世界一AEDを所有している国なんです。でもAEDがどこに置かれているのかも、その使い方を知っている人も少ない。その現状を打破するために「命のバトンプロジェクト」を行っています。

小学校で実施した「命のバトンプロジェクト」講習風景。
――どんなところに向けて発信しているのですか。
全国のイベント会場や小中高校、企業に向けて体験会や講習を行っています。昨年たまたま吉野家ホールディングス様にご縁をいただきプレゼンさせていただきました。地図を見なくても分かる吉野家にAEDがあって、且つそこに救命救急ができるスタッフがいたら、吉野家は安くて早くてうまい牛丼が食べられるだけじゃなくて、人の命も救える場所になる。
管理職の方がプレゼンを真剣に聞いてくださって、講習会が実現しました。「いままで何度もAEDの研修を受けてきたけど、いつも難しいとか怖いという思いで終わっていた。でもNurse-Menの研修を受けた後は、不謹慎だけど誰か倒れてないかなと探してしまう」と。一次救命救急の処置をする自信があるから、試したい、助けたい。そこにたどり着いてくれたことは本望ですね。
その2週間後、社員旅行で行った先の温泉で部下が倒れ、救命処置を行い助けることができたそうなんです。これはぜひ社内に取り入れたいと、現在までに全国の店長クラスの方約400人に研修をさせていただきました。
看護師の比率女性9.2:男性0.8を5:5にしたい

「Nurse-Menのアニメやドラマ、映画も作ってみたいです」(秋吉さん)
――Nurse-Menの今後の展望は?
まずは「困ったときはNurse-Menを呼べ」と言われるようなヒーロー的存在にしたいです。能登にも一番辛いときに入ったんですが、その後も豪雨があったりと常に恐怖と隣り合わせで生活されている中で、僕らが行くと本当に涙を流してくれるんですよ。災害は起きてしまうけど起きたときにはNurse-Meがいるからと伝えたい。
最終的には、アプリをつくって登録メンバーがGPSをONにすると、自分がどこにいるか、どこで事故や事件が起きているかがマッチングでき、出動した人に報酬が発生する。人を助ける仕事が常にできるような仕組をつくりたいです。
――Nurse-Menは看護師なら誰でも入れるのでしょうか。
登録希望者には対面かオンラインで僕が必ず会うようにしています。Nurse-Men のコンセプトや活動内容はSNSで周知しているので、熱い人間じゃないとアプローチしてこないです。(ヒーローを目指しているので)かっこつけてるからキラキラしてまぶしいみたいで(笑)。でもそれも一つのフィルターみたいな感じでいいのかなと思っています。現在登録者数は男性看護師のみで約2,000人。誰の近くにもNurse-Menがいるという状況を作りたいです。
――では最後に男性看護師の未来像をお聞かせください。
いま日本の看護師は女性9.2:男性0.8。これを5:5にしたいです。ただ男性が増えればいいというわけではなく、うまく立ち回れる男性看護師を増やしたいんです。
なりたくて看護師になったのに、看護師を続けられないとかやっぱり不本意じゃないですか。男性看護師は男性看護師としての強みがあるので、それをどう活かすかが重要。その強みを武器に、男女関係なくうまく連携がとれて、男性看護師がひとりいると現場の空気がいいねと言われるような職場環境になったらいいですね。性別関係なくいいバランスで看護業界が医療業界を引っ張っていきたいですね。
秋吉さんの看護師ライフが充実している理由は
1.はじめて自分から楽しいと思えたのが看護師の仕事だった。
2.自分自身のため、周囲のために働きやすい環境づくりを常に考えいてる。
3.自分試し・自分磨き・自分探しを怠らない。
男性看護師の数が圧倒的に少ないことで肩身の狭い思いをしたこともあったそうですが、根っからの優しさをうまく活かし、看護師という仕事に磨きをかけ続けている秋吉さん。超ハードな看護学生時代からNurse-Men代表としての秋吉さんの活動を追うことで、男性看護師の魅力とリアル、無限に広がる未来像をキャッチしていただけたでしょうか。
撮影/山田真由美
取材・文/永瀬紀子