レクエーション中に起きた利用者の方との思い出をご紹介 介護福祉士の日常あるある#9 【Q&A編】
利用者の方に楽しく活動的な時間を提供するレクリエーションのお仕事。しっかりと準備をし、1人でも多くの利用者の方に楽しんでいただきたいものです。ところが、元ベテラン介護福祉士の國廣幸亜さんによると、中には参加を拒否されてしまうほど興味を持たれないこともあったとか。今回はそんなレクリエーションの現場の温度感を國廣さんに伺いました。リアリティ溢れるエピソードをお届けします。
Q.レクリエーション中の印象的なエピソードは?
A.利用者さんの意外な一面を見た時ですね。施設で働いていた時、話しかけづらいと感じた、強面な男性の利用者さんがいました。レクリエーションで童謡を歌う会を開いた時に「なんだこんなもん! くだらんな!」と言うことも。近づき難いな…と思いながらよく見ると、目から大粒の涙をこぼしていました。職場の先輩にそのことを伝えたら「ご自身が歌ったり、聴いていたりしていた頃を思い出して、涙されることもあるよ」と聞いて共感。親しみを感じ、話しかけたところ、日常会話ができるほど心の距離が近づいたこともありましたね。
また、椅子に座ったまま風船をトスで渡す『風船バレー』というレクリエーションをしていた時、「こんなつまらないことをやりたくない!」と参加を拒む女性利用者さんがいました。ある日、椅子に座って風船バレーの様子を眺めていその方に向かって風船が飛んで行きました。利用者さんは自身の爪を長く伸ばされていたので、鋭い爪先が風船に刺さって割れる事態に。「怒られる!?」と思いましたが、よほどびっくりしたのか「なによこれ!」と、ケラケラ笑い出し、普段見られない笑顔に場が和みました。それからは風船バレーにだけ参加してくださるようになりました(手袋をして)。ほかにも、利用者さんが元気になって嬉しかった思い出がまだあります。
Q.利用者の方が元気になった思い出は?
A.ご主人を亡くしたばかりの利用者さんとの思い出です。ひどく落ち込んでいて何を話しかけても「ふうん…そう…」と元気のない様子で食欲も落ちていました。そんな時、塗り絵をするレクリエーションを開催。お誘いしてみたところ、手先が器用だったためかとてもキレイに仕上げていました。私と他の利用者さんがびっくりし、「お上手ですね!」と声をかけたところ、にこにこと笑顔。それからは、塗り絵や手作業などのレクリエーションをおすすめすると笑顔で取り組み、周りの利用者さんに教えるなどして活気を取り戻していかれました。食事も残さず完食されることも増え、「毎回ここへ来るのが楽しみだわ」と言ってくださるようになり職員一同喜びましたね。また、視点や考え方が異なる利用者さんから気づかされた経験もありました。
Q.利用者さんの行動から気づかされたことは?
A.認知症の利用者さん数人とおやつ作りのレクリエーションをしていた時のこと。利用者さんが「私は料理なんてうんざりするほどやったからね」と参加を拒否。「では見ていてくださいますか?」と促して椅子に座っていていただいたのですが、急に立ち上がり「今日は誰が亡くなったの?」と法事だと勘違いした発言。それにつられて別の利用者さんが「沢山人が来るから食事を用意しているのよ」とその方に説明をされるなど、他の利用者さん達も法事だと思いはじめる事態に。なぜ利用者さんが法事だと勘違いしたのか先輩に聞いたところ「法事に人が集まった過去の経験と重なって、レクリエーションを法事だと勘違いされたんだと思う」とのこと。
それからは、法事という設定でお菓子作りを進めたところ、その利用者さんにも参加していただけるようになりました。昔は今と違って家に人が集まるという機会が沢山あり、その度に協力して準備をしていたのかな、と若かりし頃の利用者さんの姿を想像しました。
もうひとつ、ボールを投げてピンを倒すボーリングゲームをしていた時の思い出です。車椅子であまり力を出せない利用者さんをピンの近くへ連れていき、ボールを投げていただくことに。すると別の利用者さんから「あの人だけずるい! どうしてひいきするんだ」とクレーム! 確かに公平ではありませんが出来るだけ皆さんに参加していただきたいし、レクリエーションのゲームでそこまで厳しくしなくても、と正直思いました。
すると「あの方はレクリエーションのゲームでつい熱くなってしまうんだよね。でも、それだけ楽しみにしてくださっている。用意した私達にとっては嬉しいことだよね」と先輩。確かに参加したくないという方もいる中、とてもありがたいと思い直し「良かったら上手な投げ方を教えてもらえませんか?」と声をかけました。すると意気揚々と指導してくださって、それをもとに車椅子の利用者さんもピンを倒すことに成功! 最後は「身体がしんどいのに素晴らしい心意気だ」と褒めていただくことも。利用者さんそれぞれの気持ちを大切にしていくことがレクリエーションを円滑に進めていくコツだと感じました。
Q.レクリエーションの魅力は?
A.レクリエ―ションの準備と実行を通して、利用者さんに楽しく新鮮な時間を提供し、喜んでいただくことです。レクエーションは施設によっては毎日あり、利用者さんに毎回楽しんでもらう新鮮なレクリエーションを提供することはとても大変。参加していただいただいたものの「実は心の底から楽しんでもらえていないのでは…」と悩むこともありました。ですが、施設とご自宅の往復や通院のみという日常に刺激が少ない利用者さんも多かったためか、一緒にレクリエーションの準備をしたり、季節を感じられる工夫をしたりすることで、利用者さんが生活に張り合いを持っていただけていると感じました。
さらに、「今日は書道がある日だよね」や「すごく楽しかった」など期待の声や楽しかったという感想をいただいた時や、ご家族から「昨日のレクリエーションがとても楽しかったみたいで家で何をしたか説明してくれたんですよ」などご自宅に帰ってからもデイでの出来事を話してくださっていることをうかがった時は、やって良かったとやりがいを感じました。レクリエーションは日常に刺激が少ない利用者さんに楽しい時間を提供したり、季節を感じ生活リズムを整えていただくきっかけと成り得る大切なお仕事のひとつだと思います。
國廣さんが思う・レクリエーションの魅力3選
1.利用者さんの意外な人柄に触れる経験ができる
2.利用者さんと仲良くなるきっかけ作りになる
3.利用者さんに刺激的な時間を提供し、笑顔を見ることができる
取材・原文/井上桂佑(レ・キャトル)
イラスト・漫画/國廣幸亜
教えてくれたのはこの人!
國廣幸亜さん
訪問介護や介護老人保健施設、デイサービスなど多くの介護現場を渡り歩いたベテランの介護福祉士として活躍し、現在は自身の豊富な介護経験を題材にした漫画などを手がける人気の漫画家として活躍中。
所有資格:介護福祉士