保健師になる方法とは? 仕事内容や必要な能力を分かりやすく解説
保健師とは、乳幼児から高齢者まであらゆる世代の心と体の健康を支える「予防の専門家」です。地域住民の健康を守る上で、とても重要な役割を果たしています。しかし、保健師になるにはさまざまな段階を踏む必要があり、国家資格も取得しなければなりません。
この記事では、保健師になるためのルートや仕事内容、必要とされる能力・知識、労働条件などについてご紹介します。
保健師になるためのルート
保健師になるには、必ず保健師国家試験に合格しなければなりません。保健師国家試験の受験資格を得るには、専門の教育課程を修了し、看護師国家試験に合格していることが前提となります。
そのため、高校卒業後は看護系の大学や短期大学、もしくは専門学校で3年から4年の専門教育を受けるのが一般的です。下記が、保健師になるためのルート図になります。
卒業と同時に国家試験に臨めるのは、看護師・保健師になるための統合カリキュラムを専攻して学んだ人たちです。それ以外の人は、保健師国家試験をすぐには受験できず、看護系大学院で2年間学ぶか、看護大学専攻科・別科、看護短期大学専攻科、保健師養成所のいずれかで1年間の教育を受けなければなりません。どの道を選ぶにせよ、保健師国家試験と看護師国家試験の両方に合格することが、保健師になるための必須条件となります。
これらをクリアしたあと、保健所や病院、保健師養成学校、大学などの研究機関、訪問介護ステーションといった勤務先が用意されています。
国家試験の内容と合格率
保健師国家試験は、毎年2月頃に北海道や宮城県、東京都、愛知県、大阪府、福岡県などの主要都市で行われます。試験内容は公衆衛生看護学や疫学のほか、保健統計学、保健医療福祉行政論などが出題されます。
合格率は毎年80~90%ほどで、非常に高い基準で推移しています。特に新卒受験者は合格率が高い傾向にあります。
保健師とはどんな職業か?
保健師は、保健・医療・福祉・介護といった幅広い分野で必要な保健サービスを提供しています。しかしながら対象となる年齢やジャンルが幅広いため、その業務は多岐にわたります。
ここでは保健師を3つのジャンルに分類し、それぞれの主な勤務先や具体的な働き方をご紹介します。
地域保健師
地域保健師は、都道府県の保健所や市区町村の保健センターなどに勤務しています。新生児から高齢者、障害者まですべての地域住民を対象にした、病気予防や健康増進のためのアドバイス・支援が仕事です。例えば、喫煙者に対する保健指導を行ったり、必要があれば家庭訪問をして個別の健康相談に応じたりもします。
保健所で働く保健師においては、エイズ患者や難病患者、心身に障害を抱える人などに対しての保健指導や対応が求められ、幅広い疾病に関する知識も必要になります。さらに、新型インフルエンザなどの感染症が発生した場合、専門的な知識をもって感染症対策を呼び掛ける重要な役割も担っています。
学校保健師
小学校や高等学校のほか、大学・短期大学・専門学校などに在籍して働く保健師です。ケガや病気の応急措置をはじめ、健康診断の結果をもとに教職員や児童・生徒への健康管理を行い、万が一結果が思わしくない人には、生活習慣の指導などを行います。また、学生同士によるいじめや、教職員によるセクシャルハラスメント・パワーハラスメントの問題にも向き合います。
入学から卒業まで、多感な時代の生徒や児童たちの心に寄り添い、身近な存在として成長を見守っていけるのは、学校保健師ならではの魅力です。
産業保健師
主な勤務先は企業や事業所になり、そこで働く従業員の健康維持の指導や健康管理を行います。2015年12月には、労働者のメンタルによる不調を未然に防ぐための「ストレスチェック」を実施することが義務化されました。これは一定規模以上の職場に適用される制度ですが、もし要件に該当する労働者より申し出があった場合、医師による面接指導が行われるほか、必要に応じて就業上の措置を取ることが可能です。そのほか、産業保健師は健康診断の結果に基づく保健指導や環境の調整なども行います。
多くの保健師が地域住民の健康を守るのに対し、産業保健師は経営者と従業員の双方にアプローチをかけ、そこで働くすべての人々の健康を守ることが前提となります。このような地道なサポートが、結果的に会社全体の利益にもつながっていくのです。
保健師に必要とされる能力・知識
厚生労働省の職業情報提供サイト(日本版O-NET)によると、保健師には「傾聴力」「他者の反応の理解」「対人援助サービス」が特に必要とされる能力・知識として挙げられています。ひとつずつ詳しくみていきましょう。
傾聴力
傾聴力とはその名の通り、相手の話に根気よく耳を傾けるコミュニケーションスキルのひとつです。カウンセリングにも使われている手法で、より相手を理解できたり、信頼関係を築けたりするメリットがあります。必要に応じて的確な質問を投げかけることで、スムーズに会話を進めることができるかもしれません。
他者の反応の理解
他者の小さな反応に気付き、なぜそのような反応を起こしたかを理解するスキルのことです。本当は困っているのに言えないことなど、表面上には見えない本質的な部分を探り、くみ取ろうとする姿勢が大切になります。
例えば、うつ病などの精神疾患をもつ患者の危険な兆候を見逃さないのも、このスキルが活かされています。相手が同意を拒むような態度を見せた場合は、無理に話を進めず、相手の反応を細かく観察・分析するように心掛けましょう。
対人援助サービス
対人援助サービスとは、困っている人などに対してどのような援助やサポートが有効かを探し、積極的に行動していくスキルのことです。相手が望むことに真摯に向き合い、それを先回りして行動に起こすことで、援助される側の満足度をより高めることができます。
上記のスキルのほかに、保健師は「他者との関わり」や「協調性」が求められる場面も少なくありません。似通った健康の悩みを抱えた人同士のネットワークづくりなど、保健師が人と人とをつなぐ役割を果たすこともあるからです。チームで仕事を進めることも多いため、普段から周囲と円滑なコミュニケーションを取ることを意識しておくと良いでしょう。
保健師の労働条件と仕事内容
平成27年に行われた国税調査によると、保健師の就業者数は39,530名でした。その後に厚生労働省が発表した「平成28年行政衛生報告例の概況」では、就業人数は51,280名と示されており、増加していることが分かります。
多くが公務員として働いており、その際の給与や労働条件は公務員の規定に基づき決定されます。企業や病院などでは場所によって差はあるものの、公務員並みの条件が保証されるケースもあります。残業の有無や休日の制度などについては、面接の際にしっかりと確認を取るようにしましょう。
就業場所はさまざまですが、自治体(保健所・市区町村など)、病院、診療所などで活躍している保健師が多いようです。また、学校に属して健康管理を行う学校保健師や、企業の従業員を対象に健康管理を行う産業保健師という働き方もあります。下記に就業場所を表でまとめてみました。
保健師の就業場所別の割合(平成28年末時点)
安定した職業ではありますが、介護施設や訪問看護ステーションで働く保健師の場合、休日や夜間にも勤務を求められるかもしれません。パートタイマーも含め、最近は多様な働き方ができるようになっています。
保健師の仕事内容
保健師の大まかな仕事は既にご説明しましたが、ここではより具体的で細かなタスクを含めてご紹介します。
・健康に関する相談を受けて適切な指導をする
・医師との連携のもと、健康診断を行う
・病気の予防方法の普及活動をする
・子育て中の親に対して、育児についての指導や助言を行う
・家庭訪問をし、乳幼児の発育の状態を確認する
・園児の保護者に、乳幼児の保健全般に関する情報を提供する
・精神疾患をもつ患者への助言や援助をする
・地域の保育園や幼稚園と手を組み、子育て支援をする
・生活習慣病を予防するための教室を開く
・出産や子育て準備のための両親学級を行う
・地域保健関連施設の企画・立案・実施・評価
上記はあくまで一部であり、働く場所やサポートを行う対象者によって業務内容は大きく異なります。最近では、地域の特性を活かした持続可能の健康的なまちづくりや、災害対策などにおいても役割を果たすことが求められています。
どのような業務を行うにせよ、乳幼児から高齢者まで、幅広い世代の人々が健康で質の高い日々を過ごせるようにサポートすること。それが保健師の役目というのは変わりません。
おわりに
保健師は地域の人々の生活に寄り添い、心と体の健康を守るやりがいのある仕事です。診断や治療を実際に行うわけではないですが、「保健指導」という重要な役割を担う保健師の需要は、今後もますます高まっていくでしょう。
また、高齢化社会に伴い保健師の活躍領域は拡大しており、多くの選択肢からその人に合った活躍の場を見いだすことが可能です。保健師に興味がある人は、本記事の情報を参考にして行動を起こしてみてはいかがでしょうか。
参考元:
保健師|職業情報提供サイト(日本版O-NET)
保健師|独立行政法人 福祉医療機構
保健師になるには|公益社団法人 愛媛県看護協会
『産業保健21』(2018.1 第91号)
『改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について』|厚生労働省
『平成 28 年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況』|厚生労働省
保健師国家試験の施行|厚生労働省