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介護・看護・リハビリ 2020-06-17

『訪問入浴介護』で働くための基礎知識

訪問入浴介護は、看護職員と介護職員が要介護者の自宅を移動入浴車で訪問し、特殊な浴槽を使って入浴の手助けを行うサービスで、寝たきりの利用者(お客様)の入浴のサポート、または自力での入浴が困難な利用者ができる限り自立した日常生活を送れるように手助けするのが目的です。

※移動入浴車とは、浴槽や湯沸かし機能を搭載した車両のことです。浴槽を車から出して利用者の部屋に置き、外(利用者の水道)からの水を車に搭載した湯沸かし器で温めて、そのお湯を入浴に使用します。単に「入浴車」その他、「訪問入浴車」「入浴専用車」とも呼ばれます。

高層マンションやエレベーターのない建物、狭い部屋や給排水の距離など、様々な問題にも柔軟に対応可能です。男性が足を伸ばせるサイズの浴槽を使うため、利用者もゆったりと入浴を楽しむことができます。

訪問入浴介護サービスの特徴は

・訪問入浴介護とは
自力での入浴が困難な人、そもそも自宅に浴槽がない人、浴室での転倒や血圧の上昇などをおそれて入浴したがらない人などに、安心して入浴してもらうサービスです。

医療的なケアを行うデイケアや複合したサービスを提供するデイサービスとは異なり、入浴の心地よさで利用者に心と体のケアを提供するサービスと表現することができるでしょう。

入浴は要介護者にとっても介護をする家族にとっても負担が大きい行為ですが、その分、お互いに受ける充足感もとても大きいもの。その手助けをプロフェッショナルが担当するというわけです。

・訪問入浴介護サービスを利用できる人
訪問入浴介護は介護保険の給付対象となるサービスなので、要支援、要介護の度合いが、いずれかの1以上の認定が必要となります。また、入浴は疲れることもあるので、他のサービスとの時間的な調整が必要です。

・訪問入浴介護サービスのメリットとデメリット
入浴は身体の清潔を保つだけではなく、体の痛みを軽減する効果やリラックス効果もあり、とても大切な生活習慣です。しかし、ご家族が体の不自由な要介護者を入浴させるのは、なかなかの重労働。浴室での転倒や思わぬ血圧の上昇といったリスクは家族も要介護者も怖いものです。しかし、専門スタッフの適切なケアを受けることで、安心して入浴を楽しむことができるのが訪問入浴介助の大きなメリットです。

デメリットとしては、大がかりな準備が必要となるため、利用料金が比較的高いこと。施設によっては体調不良の際にキャンセル料がかかるところもあります。可能であれば、デイサービスや訪問介護などのサービスも検討してみると良いでしょう。スタッフが異性の場合、利用者によっては抵抗があり、入浴そのものを楽しめないこともあります。

・訪問入浴介護を利用する方法
訪問入浴介護サービス利用するには、まずは市町村の介護保険担当課で要介護/要支援認定の申請を行うことが必須です。認定が決まった後は、介護(介護予防)サービス計画書(ケアプラン)を作成しますが、要支援と要介護では作成依頼先が異なります。

要支援:地域包括支援センター
要介護:ケアマネジャーのいる、県知事の指定を受けたケアプラン作成事業者。

・訪問入浴介護で受けられるサービス
訪問入浴介護ではまず、組み立て式の浴槽を利用者の居室などに設置します。この際部屋に防水シートを敷き、必要に応じて家具の移動などを行いますが、入浴後にスタッフがきちんと片づけまで行います。

サービスの流れとしては、お湯が浴槽に溜まったら、看護師(ナース)、介護職員2人が一緒になって顔拭き、洗髪、洗身、上がり湯(所要10~15分)を行います。タオルで体を拭いたあとは、保湿や髪の乾燥、爪切りや髭剃りなどのサービスも受けられます。

入浴の前後には看護師が体調チェックも行います。結果入浴が難しいと判断された場合は洗髪のみ、清拭、部分浴などの代替サービスを行います。

施設にもよりまずが、準備・後片付けも含めて一回の入浴につき40分程度が所要時間の目安となります。

タオルやシャンプー、ボディーソープを用意する施設もありますが、利用者が普段から使っているお気に入りのものがあれば、それを使ってもらえるように伝えておくと良いでしょう。ただし、指定のものしか使用できないという施設もあります。

※サービスを中止・変更・追加する場合は、できるだけ早く事業者に連絡しましょう。

訪問入浴介護はどんな方が働ける

訪問入浴介護は、浴槽を運んだり利用者を抱えたりと何かと力仕事が多いのが大きな特徴。一日に数件利用者を訪問するためフルタイムでの勤務を求める職場も多いようです。勤務時間が長く、残業もあります。「介護は体力第一」と言いますが、オペレーターとして重い機器・物品を運ぶ必要があるこの職種はある程度の筋力が求められることを頭に入れておきましょう。また、利用者の肌に直接触れる仕事ですから、よりいっそうのホスピタリティ精神が必要と言えるでしょう。

看護スタッフの場合は看護師(正看護師・准看護師)免許が必須です。介護スタッフは介護福祉士、介護職員基礎研修修了者、介護職員初任者研修修了者、ホームヘルパー2級といった資格を取得していると便利です。運転免許もあるに越したことはありません。美容師の経験者は洗髪の際に利用者から喜びを感じ得るでしょう。

訪問入浴介護の求人を探す時の注意点

<待遇・福利厚生>
近年はほとんどの会社で対応済でしょうが、求人広告に「各種社会保険完備」の記載があるなど、社会保険に加入できる会社であることを確認しておきましょう。

<休日>
一般人にとって入浴は毎日のことなので、訪問入浴介護で働くとなかなか休暇が取れない気がしますが、土日休みの事業所も少なくありません。週休は何日くらいになりそうか、育児休暇は取得できるのかなど、しっかり仕事情報を確認した上で、自分のライフスタイルに合った職場に応募しましょう。
求人広告だけでは確実なことがわからない場合は、ひとまずキープ(検討中フォルダに保存)しておきましょう。

<仕事内容>
訪問入浴介護の仕事には、看護職員・介護職員・オペレーター・運転手などの役割があり、中には看護職員のみを募集している事業所もあります。求人広告の募集職種を確認の上、面接の際には希望する職種をしっかり伝えて採用に繋げましょう。

訪問入浴介護で働く時の注意点

<入浴の注意点>
要介護者にとって、入浴というのは介助されていても大変危険な行為です。更に、介護者にとっても腰を痛めるなどの危険が伴っています。第一に心掛けることは「安全・安心」です。

<突然の空き時間>
予定していた利用者の急変などがあると、その時間が空いてしまうことがあります。正社員であれば月給制なので問題ありませんが、非常勤の場合は時給で働くことが多いため、その間の給与が発生しないことがあります。実際、どのように対処しているかは事業所によって異なるので、事業者に確認しておきましょう。

<身分証明書の携行>
指定居宅サービスの基準では、「事業者は訪問介護員に身分証明書を携行させ、初回訪問時や利用者又はその家族から求められた時は、身分証明書を提示しないといけない」という趣旨の内容が記されています。何かあった時のために、仕事中は身分証明書を携帯しておきましょう。

よくある質問・相談

ここでは、訪問入浴介護関連のよくあるご質問・ご相談について回答していきます。

Q1.訪問入浴サービス何人で行くのが普通ですか?

A1.基本は看護職員1人と介護職員2人がチームとなって行います。ただ、入浴により利用者の身体に支障がある恐れがない場合は、主治医の意見を確認した上で、看護職員0人、介護職員3人で行うこともできます。ただし、この場合は介護費用の減算になります。
高齢者にとって入浴は数少ない楽しみであり、訪問入浴を心待ちにしている方も多いと言います。利用者のニーズに適したスタッフでのサービスを提供しましょう。

 

Q2.訪問入浴介護は経験がなくてもできる仕事ですか?

A2.資格や経験がなくても働けます。求人広告に「未経験OK」と記載してあるところも多く、最初のうちは同行しながら先輩に教えてもらえます。不安な場合は新人研修制度がしっかりしている職場を探すと良いでしょう。興味があるなら、心配せずにまず飛び込んでみましょう。

 

Q3.県の実地指導の際、書類や資料はデータ(PDF)で提示しても問題はありませんか?

A3.手書きの文書で、いつでも確認できる場所(ラック等)に保管されていることが求められます。まず、紙ベースでないと利用者のサインや承諾印の確認ができませんからね。ケアマネジャーとの受け渡し書類も、手書きのサインが入っているものが必要です。賃金がちゃんと支払われているか、ちゃんと休暇を取れているかなども確認されることが多いようですので、シフト表なども準備しておいた方が良いでしょう。

 

Q4.訪問入浴の仕事で、事業所の掛け持ちはできますか?

A4.アルバイトやパートなどの非常勤の場合はできます。もちろん、曜日や時間帯が重ならないことが絶対条件ですが。訪問先が少なくなると困るという理由で、実際掛け持ちしている人も多いようです。ただし正社員の場合、ほとんどが兼業禁止です。その場合は就業規則で確認しましょう。

 

Q5.最初から清拭目的で利用者宅を訪問しても良いのですか?

A5.それは良くないですね。「当日訪問して、体調が悪いから清拭にしましょう」ということならありますが、本来清拭自体は訪問入浴介護員の仕事ではありませんから、最初から清拭の計画を入れることはありません。

 

Q6.正しい洗身の順序ってありますか? 「老計第10号」に従うべきですか?

A6.「老計第10号」には[入湯]→[洗体・すすぎ]→[洗髪・すすぎ]→[入湯]と書いてありますが、同時にこうも書かれています。
「また、今回示した個々のサービス行為の一連の流れは、あくまで例示であり、実際に利用者にサービスを提供する際には、当然、利用者個々人の身体状況や生活実態等に即した取扱いが求められることを念のため申し添える。」
つまり、あくまでも一例ということです。利用者の状況や希望に合わせて、臨機応変に対応しましょう。

 

Q7.訪問入浴介護業務でも、三年間勤務したら介護福祉士の受験資格を得られますか? また、それで介護福祉士になれたとして、訪問入浴介護を3年間経験した介護福祉士より、特養を3年間経験した介護福祉士の方が雇用の際に優遇されますか?

A7.受験資格対象に「指定訪問入浴介護」が入っているので問題ありません。ただし、3年のうち540日以上の勤務日数が必要です。次の質問ですが、訪問入浴介護経験者より特養(特別養護老人ホーム)経験者の方が就職に有利という話は聞いたことがありません。訪問入浴介護経験者は在宅ケアの経験が評価されるはずです。

 

訪問入浴介護で働く魅力は

「風呂は命の洗濯」といった言葉があるように、湯船につかる瞬間の気持ち良さは世代を問いません。また、入浴は医学的に見ても身体の清潔を保つ、血流を改善する、痛みを和らげるなど、生活の質の改善につながります。訪問入浴は、利用者みんなが心待ちにしている介護サービスなのです。

利用者の大半を占める高齢者は、普段の生活では私たちほど汗をかくことはありませんが、それでも入浴の気持ちよさはこたえられないもの。利用者の感謝の気持ちや、リアルな喜びの表情や声を見聞きすることは、ケアする側にも大きな充足感を与えてくれます。また、利用者がスタッフに自身の体を見せるという介護であることから、利用者とスタッフとの信頼関係がとても大切です。

「最初は正直抵抗があったけれど、利用者と入浴の喜びを共有する瞬間が嬉しくて、やみつきとなった」という方も多い、やりがいの大きな職場です。

<監修>
氏名:早坂信哉(東京都市大学人間科学部 教授)
経歴:東京都市大学人間科学部教授 博士(医学)温泉療法専門医 ​(一財)日本健康開発財団温泉医科学研究所所長、日本入浴福祉研究会理事​、日本入浴協会理事。自治医科大学卒、同大学院医学研究科修了。浜松医科大学准教授、大東文化大学教授などを経て、現職。

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