【今さら聞けない!? 介護のお仕事の基本 vol.16】耳が遠くなってきた利用者と接するときの心構えは?
「あれ?こういう時どうしよう?」と思っても、忙しそうな先輩や同僚には聞きづらい…そんな介護職に向けた当企画。介護の現場で起こりがちな困りごとのケーススタディと、その基本的な対処法をご紹介します。
耳が遠くなってきたKさんに、大きな声で話しかけたら怒らせてしまった…
最近特に耳が遠くなってきたKさん。このことは、スタッフの間で共有しています。ある日、新人スタッフがKさんに話しかけた時のことです。
「Kさん。Kさん!」と新人スタッフが何度か声をかけたのですが、Kさんからの反応はありません。そこでKさんのすぐ脇まで行き、「Kさん、聞こえますかー? レクリエーションの場所はこっちですよー!」と大きな声で呼びかけました。するとKさんは「急に大きな声でなんだ。びっくりするじゃないか! あっちへ行け!」と、吐き捨てるように言って背を向けて立ち去ってしまいました。
耳が遠くなってしまった利用者はめずらしくありません。そういう利用者とうまくコミュニケーションをとるにはどうしたらいいのか、ポイントをおさえながら見ていきましょう。
ポイント1:利用者の『自尊心』を忘れない
年齢を重ねて耳が遠くなってしまうことは仕方のないこととはいえ、そのことを受け入れられず、恥ずかしいと感じていたり、周りに知られたくなかったりする人もいます。ですから、相手の聞こえる度合いにもよりますが、極端な大声で話しかけるのは避けましょう。
ポイント2:聞きたい気持ちになってもらう
耳が遠い、遠くないにかかわらず、どんなに大きな声を出そうとも、相手が聞こうとする気持ちになっていなければ言葉は伝わりません。つまり、大切なことは、声の大きさではなく、聞きたい気持ちになってもらえる声かけです。例えば、「わぁ! Kさん、今日のセーターも素敵ですね!」という声かけはどうでしょうか。<感動して、つい大きな声になってしまった>という内容とフレーズは、自尊心を傷つけることなく、聞きたい気持ちになってもらえるひとつの方法です。
「耳が遠い」利用者へやってはいけない2つのこと
1.離れた場所から話しかける
2.むやみに大声をはりあげる
耳が遠くなってしまった高齢者とのコミュニケーションの基本は、1.なるべく静かな場所で、2.お互いの顔の表情や口の動きが見える位置で、3.少し大きめの低い声で、4.自然な速さではっきりと話すこと。耳が遠いのを分かっているのに、遠くから大きな声で呼びかけるのはデメリットしかありません。忙しく余裕のない中では、近くに歩み寄ることも省いてしまいたくなるかもしれません。ですが、急がば回れです。基本を大切にしていきましょう。
文:細川光恵
参考:「こんなときにはどう言葉をかけたらいい? 介護の言葉かけタブー集」誠文堂新光社
監修
中浜 崇之さん
介護ラボしゅう 代表/株式会社Salud代表取締役/NPO法人 Ubdobe(医療福祉エンターテイメント) 理事/株式会社介護コネクション 執行役
1983年東京生まれ。ヘルパー2級を取得後、アルバイト先の特別養護老人ホームにて正規職員へ。約10年、特別養護老人ホームとデイサービスで勤務。その後、デイサービスや入居施設などの立ち上げから携わる。現在は、介護現場で勤務しながらNPO法人Ubdobe理事、株式会社介護コネクション執行役なども務める。2010年に「介護を文化へ」をテーマに『介護ラボしゅう』を立ち上げ、毎月の定例勉強会などを通じて、介護事業者のネットワーク作りに尽力している。