驚き時々、励まされ。そんなトイレ介助中の思い出をご紹介。介護福祉士の日常あるある #11 【Q&A編】
利用者の方の大切な排泄を手助けする「トイレ介助」のお仕事。トイレまで連れて行ったり、時には様子を見に行ったりする仕事というイメージはできるものの「実際の現場の温度感はどうなの?」と気になる介護従事者もいるのでは? そこで今回は、ベテラン元介護福祉士の國廣幸亜さんに、トイレ介助中の思い出について伺いました。よりリアルな現場の温度感をお届けします。
Q.トイレ介助中の印象的なエピソードは?
A.車椅子中心の生活にも関わらず、職員の介助なしでトイレを済まされる女性利用者さんがいました。職員同士で「あの方はご自分でしたい気持ちが強いから声をかけずに見守っていよう」と話していました。ある日、なかなかトイレから出て来られないので声をかけに行くと「今日は体調が悪くて落ち込んでしまって…本当はこんな風に声をかけてもらったり、たまに車椅子を押してもらえると嬉しいのよね…」とボソリ。利用者さんのご自分でしたい気持ちの中に、実は助けても欲しいという気持ちがある事を忘れずに、気にかけていこうと思った出来事でした。
他には、ご家族も手を焼くほど頑固な男性利用者さんとのエピソードです。「家ではワガママと文句しか言わなくて本当に疲れ果てています」と奥様がいつもぼやいていました。ところが、トイレ介助の際に「家ではトイレに連れて行ってもらうのが申し訳なくて、水やお茶などを飲まないようにしているんだよね」と発言。ご家族に伝えると「そんな風に気を遣う人だったなんて」と驚いたご様子。これからは気を遣わずにお水やお茶などをたくさん飲んでねと話し合ったそうです。
Q.ほっこりするような思い出はありましたか?
A.お通じが良くない女性利用者さんとの話です。飲む薬の配分調整をするなどしても、なかなか解消されずに苦労されていました。自立されているのでトイレ介助は必要ないのですが「ちょっとそばにいて欲しいの…!」と言われ、付き添う事に。悪戦苦闘の末、お通じがあったのですが、あまりの苦しみと喜びで「出産は何度やっても大変よね!」と赤ちゃんを産んだと思い込んでいらっしゃる様子。私も嬉しかったので「おめでとうございます!」と二人で感動を分かち合った事もありましたね。当時はただ驚いたけど、あとで笑い話になった思い出もありました。
Q.どんなことに驚いた?
A.トイレの時間が長い利用者さんがいました。そのため、いつもトイレが済む頃合いを見計らって様子を見に行っていましたが、ある日、見に行くと「おだんごが出来たよ!」とご自分の便を手のひらでキレイに丸めていました。驚きつつも冷静を保ち「そうですか…本当に丸いですね」と返すと、「そう! 会心の出来だよ」と嬉しそうに答える利用者さん。掃除や着替えなど大変な仕事が後に待っていましたが、あまりの喜びようと見事な球体に感動すら覚えてしまいました。当時は凄く驚きましたが、今を振り返ると笑い話ですね。それから、利用者の方に励まされた事もありました。
Q.トイレ介助中に励まされた事とは?
A.仕事で少し落ち込んでいた時、利用者さんの前では明るく振舞っているつもりだった私。しかし、トイレ介助で利用者さんと二人きりになった時、「今日は元気がないね〜、つらい事でもあったんでしょ」と言い当てられてしまいました。正直に「そうなんですよ…ちょっと落ち込んでしまって」と泣き言を言うと「大丈夫! あなたは大丈夫」と励ましてくださいました。心配してくださった上に励ましていただき、とても元気が出ました。
もう1つ、とにかく人の世話を焼くのが好きな認知症の症状がある女性利用者さんとのエピソードです。介助用トイレに入った途端、「あなたはいつも忙しそうだからね。お掃除しておいてあげるわね」と、ご自分の排泄は後回しにして、トイレ掃除を手伝ってくれる事に。その後もトイレの洗面台の鏡に映った私の姿を見て「あら! ○○さん久しぶりじゃない! ご病気だって聞いていたけどここはとてもいい所だから一緒にお茶でもしていきましょうよ」と私を旧友の方と勘違いして施設の食堂に連れて行こうとした事もありました。ご自分の事はそっちのけで人の事を気遣う優しさに、つい元気づけられましたね。
Q.トイレ介助の魅力は?
A.利用者さんの自尊心に関わるデリケートな部分もある難しい仕事。反面、普段トイレで排泄出来ない利用者さんが出来た時や、上手に排泄が出来てスッキリした気持ちになっていただいた時は、利用者さんの喜びが自分の事のように感じ、嬉しい気持ちになる時もありました。さらに、トイレという個室空間だと利用者さんの本音を聞けたり、その人の普段見せない顔を見る事が出来たりします。集団生活とは少し違う空気感があり、大変な仕事である分、喜びも大きいのがトイレ介助の奥深いところだと私は感じています。
國廣さんが思う・トイレ介助の魅力3選
1.トイレ介助中に、励ましていただく事もある
2. 排泄できたとき、自分の事のように嬉しくなる
3. 利用者さんの本音が聞ける
取材・原文/井上桂佑(レ・キャトル)
イラスト・漫画/國廣幸亜
教えてくれたのはこの人!
國廣幸亜さん
訪問介護や介護老人保健施設、デイサービスなど多くの介護現場を渡り歩いたベテランの介護福祉士として活躍し、現在は自身の豊富な介護経験を題材にした漫画などを手がける人気の漫画家として活躍中。
所有資格:介護福祉士