訪問介護で独立開業するにはどうすればいいの? ひとりでも開業できる?
社会的なニーズも高く、やりがいのあるホームヘルパー。介護保険ではホームヘルパーは「訪問介護員」と呼ばれており、病気や加齢で体が不自由になった高齢者が在宅での生活を継続できるように支える大切な役割を果たしています。訪問介護で独立開業してみたいと思ったら、どんな準備をしていけばよいのでしょうか。訪問介護事業所の開設のために必要な資格や開業の条件、手続きや設備、人件費など費用の準備について解説します。
訪問介護で独立開業するにはどうすればいいの? ひとりでも開業できる?
訪問介護で独立開業するためには、「訪問介護事業所」を開設しなければなりません。ここからは、訪問介護で独立開業する方法について解説します。
1. 訪問介護事業所を開設するために必要な資格は?
訪問介護員になるには、介護職員初任者研修を受講することが必要です。さらに介護福祉士実務者研修を受けることで、訪問介護事業所に必要な「サービス提供責任者」の役割を担うことができるようになります。介護福祉士実務者研修の過程を修了し3年の実務経験があれば、国家資格である「介護福祉士」を取得することが可能ですので、取得しておくとより望ましいでしょう。
2. 法人格を取得しよう|株式会社・NPOなど
介護保険事業は個人事業主では開業できません。「法人」であることが必須条件となります。続いては、個人で立ち上げることができる法人にはどのようなものがあるかを確認しておきましょう。
営利|株式会社
株主からの出資を集めて事業をおこなう株式会社です。株式を発行することで、返済期限のない資金を集めることができます。株式会社は決算報告をして、出資金の額に応じて利益を分配しなければなりません。
営利|合同会社
合同会社は資金や技術、労力などの出資者が経営もおこない、利益の分配も自由に決めることができます。「法人設立」を所轄の税務署に提出するだけで設立できるので手間や費用も少なくて済み、株式会社と比べると柔軟性を持たせた運営ができることが特徴です。
非営利|NPO
NPO法人は「非営利活動法人」の略称で、収益を分配することを目的としない社会貢献活動をおこなう法人です。NPOでは組織の構成員として理事3名・監事1名・社員10名が最低限必要となります。NPO法人を設立する際は、都道府県もしくは市区に必要書類を提出し、「NPO設立の認証」を受けなければなりません。多少手間がかかりますが費用はほとんどかからないうえ、税制上の優遇措置を受けることができます。
非営利|一般社団法人
一般社団法人は人の集まりを法人格として認めたもので、理事1人・社員2人以上が必要です。「法人設立」を所轄の税務署に提出して設立します。非営利法人であり、収益を上げた場合でも、理事や社員などの関係者に剰余金や残余財産を分配しないことになっているのです。非営利型が徹底されていると認められれば、税制上の優遇措置も受けることができます。
3. 事務所を設立しよう|設備に関する基準とは?
訪問介護事業所の事務室が必要な設備として定められています。事務室は事務机と椅子、書類棚などを置いたうえで、相談スペース、衛生スペースなどが確保できると理想的です。
運営に関する基準|業務運営・訪問介護
訪問介護事業所の運営基準には「訪問介護サービスに関する基準」と「業務運営に関する基準」があります。訪問介護サービスに関する基準は、サービス提供の際のリスク管理としても①~④の整備が欠かせません。
①内容・手続きの説明および同意
②サービスの提供が困難になった際の対応
③身分を証する書類の携行
④緊急・事故発生時などの対応
業務運営に関する基準では⑤~⑦の運営規程の整備をおこないます。
⑤利用料等の受領方法
⑥訪問介護計画の作成
⑦介護等の総合的な提供
4. 人員を確保しよう|管理者・サービス提供責任者・訪問介護員
訪問介護事業所には、ホームヘルパー(訪問介護員)のほかに「サービス提供責任者」と「管理者」が必要です。それぞれひとつに限り兼務することが可能ですが、3つの役割を兼務することはできません。
管理者はとくに資格がなくてもなることができますが、訪問介護員は介護職員初任者研修を受講し修了試験に合格することが必須条件です。さらにサービス管理責任者になるには、介護福祉士実務者研修を修了するか介護福祉士の資格を取得するかしなければなりません。
また、訪問介護事業所には常勤換算2.5人の訪問介護員が必要ですので、有資格者は全体で最低3人必要ということになります。利用者の体に触れる「身体介護」ができる資格である、看護師や准看護師などの資格でも可能です。
ひとりでは開業できない!
訪問介護事業所には、訪問介護員とサービス提供責任者という有資格者3人が必要です。そのほかに管理者が1人必要となりますので、まずは一緒に働く仲間を見つけて資格を取得していきましょう。
5. 備品を揃えよう
訪問介護事業所の事務所では、訪問介護計画や介護保険の入力業務、連絡調整業務、相談業務などの事務がおこなわれます。事務机や椅子、通信手段である電話やパソコン、衛生管理用品などの備品をそろえましょう。行政からの連絡はまだまだファックスで届く場合も少なくありませんので、電話はファックス兼用がよいでしょう。また、訪問のための自動車が必須となる地域もあります。
6. 指定申請書類を提出して審査を受けよう
訪問介護事業所を開設する際には、都道府県や市区に指定申請書類を提出して審査を受けなければなりません。指定申請書類の様式や要件は各都道府県や市区によって異なりますので、ホームページでチェックしてみましょう。東京都では申請前に管理者の新規指定前研修の受講が必要です。
開業するためにはどんな費用がかかるの?
訪問介護事業所を開業するためにかかる費用には、どのようなものがあるのでしょうか。開業にかかる費用について解説します。
1. 法人設立費用|登記にかかる費用とは
訪問介護事業所を法人として登記する準備として、「定款認証手数料」と定款に貼付する収入印紙代がかかります。さらに、設立登記の際にも「登録免許税」が必要です。費用は法人の形式で異なります。株式会社では30万円程度、合同会社と一般社団法人では10万円程度の費用が必要です。NPOでは設立費用はほとんどかかりませんが、手続きに労力を要します。
2. 事務所の物件取得費用
訪問介護事業所を開設するためには事務室が必要です。事務室は六畳以上の広さを要しますし、狭くてもよいので相談室も必要です。事務室に自宅の一部を使う場合は費用を抑えることができますが、購入したり、賃貸したりして取得する場合には費用がかかります。都市部では10万円前後の賃料になります。また、車を使って訪問する場合には駐車場付きの物件か、近所に駐車場を借りることが必要です。
3. 人件費
常勤のホームヘルパーの人件費は月18~25万円が相場です。管理者を除き3人の有資格者が必要となりますので、月60万円前後の人件費が必要になります。介護報酬は翌月請求で支払いはさらに翌々月になりますので、開業から2~3カ月間の人件費はあらかじめ用意しておく必要があるでしょう。
4. 設備・備品費|車両も必要に
訪問介護事業所の事務所では、訪問介護計画や介護保険の入力業務、連絡調整業務などの事務がおこなわれますので、事務スペースにひと部屋必要です。また、相談に応じるためにプライバシーに配慮した相談スペースも設置しましょう。忘れがちなのが衛生管理のための設備です。トイレとは別に、洗濯室または汚物処理室といった衛生スペースを設け、手洗い場にはお湯が出る設備を用意しておきましょう。ビルの一室を借りた場合、トイレが共有だと衛生設備を整えるための出費が膨らんでしまいますので注意が必要です。訪問する際に使う車両の確保も必要となります。
自己資金でまかなえない場合は融資を利用しよう!
自己資金で訪問介護事業所の開業費用を用意できない場合には、国からの融資などを利用する方法もあります。そのような融資があるのか確認しておきましょう。
日本政策金融公庫|新規開業資金
「新規開業資金」は日本政策金融公庫がおこなっている、これから新たに事業を始めるものや、事業を始めてからおおむね7年以内のものを対象とした創業関連融資のなかのひとつです。国民生活事業部で取り扱っている新規開業資金は、個人企業や小規模企業向けの小口融資で、平均700万円の融資がおこなわれています。
スムーズな開業を目指そう!
訪問介護事業所を開業するためには、会社を作って法人となることが必要です。介護職員初任者研修だけでなく介護福祉士実務者研修も受けて、サービス提供責任者の役割も担えるようにしておくとよいでしょう。訪問介護事業所の開設では、事務室の賃料、人件費、開業手続きなど費用がかかり、開業してから介護報酬が支払われるまでの2カ月間の運転資金を準備しておくことが必要です。日本政策金融公庫の「新規開業資金」などのスタートアップのための融資を利用してスムーズな開業を目指しましょう。
参照元:
内閣府 NPOホームページ NPOとは
東京都福祉保健局 東京都指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営の基準に関する条例