【今さら聞けない!? 介護のお仕事の基本vol.30】「おむつにして!」家族から『本人の意向と違う』要望が…
介護技術だけでは乗り切れないことも多い介護職。時には、利用者の家族からの要望や苦情にどう対応するのがよいのかと苦心することもあるのでは? 今回は、利用者は望んでいない「おむつ」の着用を家族が要望してきたケースの対応についてご紹介します。
トイレで排泄したい利用者とおむつにしてほしい家族。どう立ち回る?
脳卒中の後遺症で構音障害と左半側の運動機能の低下があり、日常生活に介助が必要なCさん。週に4日、デイサービスに通い始めました。右手足は動かせて、認知症の症状もなく、尿意・便意は適切に伝えられるため、デイサービスではおむつは使用せず、トイレ誘導を行っています。
このことをCさんは喜んでいたのですが、しばらくして家族から「トイレ誘導をやめて、おむつ着用による排泄介助に戻してほしい」と抗議の連絡がありました。自宅では家族が忙しくて、Cさんをトイレに誘導するのが難しいという理由だそうです。しかし、Cさん自身は、排泄はおむつではなく、トイレでしたいと思っているよう。
介護職としては、Cさんの思いや尊厳を最優先したいところですが、家族の訴えを無視するわけにもいきません。こういった場合、介護職はどう対応するのがよいのでしょうか。ポイントを押さえながら見ていきましょう。
ポイント1:『介護の倫理』を家族に理解してもらえるよう働きかける
介護の倫理では、利用者の立場が優先され、健康な頃の状態が維持できるように支援を受ける権利が保障されています。Cさんが望む限り、トイレ誘導を行うことは人権擁護や尊厳の保持には欠かせない支援です。
Cさんの発音は不明瞭ですが、内容は適切で意思疎通には問題がありません。排泄をトイレでしたいと思い、おむつに抵抗を感じるのは、決してCさんの「わがまま」ではありません。まずはこのことを家族に理解してもらえるよう、話し合い等の伝える機会を設けましょう。
ポイント2:トイレ誘導に反対する理由を解消できるよう働きかける
Cさんの意向を尊重するためとはいえ、そこで家族に不都合が生じてはいけません。家族の理解と協力を得るには、家族の相談に応じたり、サポートしたりする必要があります。まずは、「忙しいから」という理由の根本を見極めましょう。考えられる要因は、大きく次の3つではないでしょうか。
1. 居宅での「排泄介助」の方法などへの知識不足
2. 生計を立てるうえで、家に不在な時間が多い
3. Cさんの介護に対して複雑な思いや経済的な悩みを抱えている
家族に【1】が当てはまる場合だと、「トイレ誘導」「排泄介助」と言われても、どうすればいいのか分からないのかもしれません。上長やケアマネージャーとも相談の上、ポイント1で取り上げた『介護の倫理』について話し合う際に、資料やビデオなどを用いて、一般的な「排泄介助」についての説明をしてみてはいかがでしょう。やり方が分かれば、拒否感を和らげられるかもしれません。デイサービスでの様子を見学してもらうのも一案です。
【2】【3】の場合、家族は物理的理由や心理的理由から、Cさんの望む介護ができる状態ではありません。Cさんと家族、双方の都合を調整して、互いに損得を応分に負担し、互いの人権や尊厳が保持できる生活の仕方を見つける必要があります。「デイサービスの日を増やす」「朝夕のトイレ誘導はするが、夜間はおむつにする」「施設に入所する」など、さまざまな可能性と選択肢について、主治医、ケアマネージャー、介護職、家族、Cさんで十分に話し合って最善の対応を見出せるといいですね。
利用者家族からの苦情対応で注意すべき2つのこと
1.利用者の意向を確認する
2.利用者の意向を無視して家族の要望を優先しない
家族からクレームが来た時に、その勢いに圧倒されてしまうこともあるでしょう。ですが、勢いに圧されて、その要望が適切なものなのか、不適切なものなのかの判断がおろそかになってしまうのは避けたいところです。介護職としてしっかりと、『尊厳ある介護実践』の意味を十分に理解して行動しましょう。そのためにも、クレームを受けた際は一呼吸おいて、利用者の意向を確認しましょう。家族の要望が利用者の意向に反するものであれば、即応はせず、まずは上長やケアマネージャーへ報告・相談することから始めましょう。
文:細川光恵
参考:「介護現場の「困りごと」解決マニュアル」中央法規
監修
中浜 崇之さん
介護ラボしゅう 代表/株式会社Salud代表取締役/NPO法人 Ubdobe(医療福祉エンターテイメント) 理事/株式会社介護コネクション 執行役
1983年東京生まれ。ヘルパー2級を取得後、アルバイト先の特別養護老人ホームにて正規職員へ。約10年、特別養護老人ホームとデイサービスで勤務。その後、デイサービスや入居施設などの立ち上げから携わる。現在は、介護現場で勤務しながらNPO法人Ubdobe理事、株式会社介護コネクション執行役なども務める。2010年に「介護を文化へ」をテーマに『介護ラボしゅう』を立ち上げ、毎月の定例勉強会などを通じて、介護事業者のネットワーク作りに尽力している。