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ヘルスケア 2021-09-29

「浅い鍼」と「熱くないお灸」ってどんな鍼灸?【ヘルスケアのお仕事 Vol.40 自然なからだ 手塚幸忠さん #3】

ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。

前編・中編に渡り、表参道で鍼灸マッサージ治療室「自然なからだ」を経営し、鍼灸マッサージ教員としても活動している手塚幸忠さんにお話を聞いてきました。

SEから整体師を目指して入学した専門学校で、東洋医学の魅力に気づき鍼灸師&鍼灸マッサージ教員の道に進んだ手塚さん。教員と鍼灸院の共同経営という二足の草鞋から、2017年に自身の治療院をオープンしました。

後編となる今回は、手塚さんの治療技術にフォーカス。多くの鍼灸師を育て、現在も臨床実技の授業を担当しているという手塚さんが得意としている、「浅い鍼」と「熱くないお灸」について詳しく教えて抱きます。

お話を伺ったのは…

表参道鍼灸マッサージ治療室「自然なからだ」
院長 手塚幸忠さん

鍼師、灸師、あん摩マッサージ指圧師。コンピューターエンジニアとして4年半勤めた後、鍼灸の世界へ。専門学校卒業後、鍼灸マッサージ教員免許を取得。教員として活動する傍ら、共同経営サロンに6年勤務。その後、2017年に表参道鍼灸マッサージ治療室「自然なからだ」を開院。サロン経営をしながら非常勤講師としても活動中。

痛みが苦手な自分だからたどり着いた「刺激の少ない鍼灸」

手塚さんは注射も苦手で最初は
「鍼灸なんてありえない」と思っていたそう

―手塚さんは東洋医学をもとにした鍼灸マッサージ治療をされています。施術の特徴を教えてください。

治療としての特徴は、痛みや熱さを感じない優しい鍼灸を行っている点です。僕は浅い鍼が得意で、症状によっては刺さないこともあるくらい。お灸も焼き切らずに、ほんのり温かさを感じる程度です。なるべく浅く、弱い刺激でも効果が出るように考えて施術しています。

最近はお灸をしていない鍼灸院も多いのですが、僕はお灸が好きなので取り入れています。お灸って、昔は火傷させるのが当たり前でしたが今はNGですし、鍼に比べると少し技術が必要なんですよね。でもお灸は本当に気持ちがいいので、取り入れないのはすごくもったいない。だから火傷させなくても効果が出るお灸を研究しました。

―どんなお悩みの方がよくいらっしゃいますか?

ほとんどの方はストレス性や自律神経系のお悩みです。ふだん仕事をバリバリしていて、ストレスや溜まった疲れをリセットしにいらっしゃる感じですね。

僕はストレスがすべてのお悩みに真ん中にあると思っています。ストレスが溜まれば、仕事のパフォーマンスも下がるし、体の不調にもつながる。症状として出てくる部位は人それぞれですが、結局のところストレスというところに集約されていると感じます。ストレスケアはどこに行ったらいいかわからないところがありますが、ぜひ身体全体を診て心身にアプローチできる鍼灸に頼っていただきたいです。

また婦人科系のお悩みがある方もよくいらっしゃいます。僕の師匠が女性で婦人科系を得意とされていたこともあり、僕もよく診るようになりました。この業界に入るまでは婦人科系の悩みの辛さを知らなかったんですが、毎月のように何か不調や不安を感じるのは、本当に大変ですよね。

僕は女子力が高いというか、女性の距離感がしっくりくるタイプ。自分が小さいころ病弱だったこともあり、スポーツマンよりも力の弱い人の気持ちがよくわかるんです。当院はスタッフも僕以外は女性なので、女性の患者さんは多いですね。

患者さんに無理をさせない、心と体に寄り添った施術

細く柔らかい鍼は1mmも刺さっていないほど浅い。
患者さんに聞くと、刺した瞬間も触られたと感じる程度だそう

―施術で大切にしていることは何ですか?

治療中の患者さんとのコミュニケーションでは、「相手の感受性に合わせる」ということを、すごく意識しています。

私は弱い刺激での施術を得意としているので、強い刺激が苦手な患者さんも多いんです。だから治療の際は患者さんの様子をしっかり見て、痛みや刺激を感じていないか寄り添いながら施術しています。

またコミュニケーションの際は、相手のトーンに合わせて会話をします。だから患者さんによって、話し方も全然違います。

元気な先生のところに行くと元気になるということがあると思うんですが、僕の場合は相手の元気がなければ僕も元気なくしゃべるんです。無理はさせない。元気づけるというより、自然と相手の元気が高まって来るのをサポートする感じですね。

だから初診の面接で大人しかった患者さんが、治療が終わるころには元気が出てきてすごいおしゃべりになっていることもあるんです。すごく面白いなと思います。

―おすすめの施術を教えてください。

婦人科系のお悩みがある方には、「箱灸」がすごくおすすめです。箱の中にツボに合わせた配置でお灸を入れ、それをお腹にのせます。子宮がすごく温まって気持ちがいいですよ。

婦人科系のお悩みはお腹をじっくり温めたいので、時間の無駄がないようにコースにしています。箱灸を取り入れている婦人科コースは、下半身の巡りをよくするマッサージもセット。骨盤内の流れが良くなると生理痛も緩和されます。

最近はテレワークなども増え、目の疲れをかかえている患者さんも多いです。そういった方には、「くるみ灸」がおすすめ。

漢方の薬液に漬け込んだくるみの殻にお灸をのせ、目もとを温めていきます。合わせて目の症状に効果的なツボに鍼を打つと、すごく目もとが軽くなるんですよ。

「自然なからだ」の基本の施術の流れ

手塚さんにベーシックな治療の流れを教えていただきました。高い技術があるからこその浅い鍼と繊細なお灸は手塚さんならでは。ぜひ参考にしてみてください。

問診・脈診

問診で気になる症状や体の調子を確認したら、脈をみて現在の身体全体の状態をチェック。

身体全体を整える

まずは全身を整えるツボに鍼と灸を施術。細くて柔らかい鍼を、ごく浅く刺す。感覚として1mmも刺さっていない程度なので、刺す瞬間には触られたと感じるだけ。お灸はツボにピンポイントで置く。指先で火力を調整しながら下まで焼き切らないようにしているため、ほわっと温かさを感じる程度。

仰向けで全身を診る

症状に合わせて全身を診る。とくにお腹は硬いところがないか確認し、指の入りを見ながら関連するツボにも鍼灸を施術。気が巡ると硬さが取れて指が入るように。お腹の流れがよくなったところで、婦人科コースの場合はお腹に箱灸をのせて面で5~10分ほど温めながら下半身をマッサージ。
※撮影時は患者さんの体調を考慮し箱灸を乗せていませんが、通常は箱灸をのせたままマッサージを行います。

うつ伏せで全身を診る

うつ伏せになったら、足から上半身に向けて施術。脚に鍼を打って下半身を巡らせ、背中で内臓系のツボを診ていく。冷えの症状が出ているところには、「灸頭鍼」を施術。鍼を少し深めに刺し、鍼の頭に灸をつけて温める。ツボがピンポイントで温まり、輻射熱により奥まで温まる。冷えや凝りがひどい時に効果的。

肩から上の治療

座って動作確認をしながら、肩~首の治療。症状によっては関連する下半身のツボまで鍼を刺すことも。「くるみ灸」や美容鍼灸をプラスする場合は、座る前に取り入れる。

動作確認をして終了

全身の動きを確認したら、アフターカウンセリングをして終了。

東洋医学は歴史が長く、鍼灸には技がいっぱいあるんです。箱灸やくるみ灸、灸頭鍼など、見たことがない方も多いと思います。そういった技を駆使して、全身の状態を診ていく。身体の変化を患者さんと一緒に楽しみながら治療しています。

―最後に今後の展望を教えてください!

講師として今はお灸と臨床実技、医療面接を担当しているんですが、とくに医療面接は使命として力を入れています。今は患者さんを中心に医療を考えるのが一般的なんですが、昔ながらの先生の中には命令口調になるなど倫理的に問題がある対応をする方もいます。そういうことをなくして、きちんと患者さんと倫理観を持って向き合い、いろんな話を引き出せるような人を育てたいです。また、東洋医学的な鍼灸が出来る人がもっと増えて欲しいと思っていて、その指導も引き続きしていきたいです。

あとは独立してみて経営の大切さをすごく感じたので、若手の方向けに経営の話もしてあげたいなと思っています。まだ勉強中なので、もう1店舗くらい経営がうまくいったら、後進の指導として取り組みたいですね。

そして、「鍼灸を広めたい」というのはずっと思っていること。鍼灸がもっとメジャーになってくれたらいいなと思います。そのために今でも一般の方向けのセルフケア講座などをしているので、そういった地道な活動は続けていきたいです。

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コロナ禍になり、手塚さんはオンライン診療やセルフケア指導「オンライン診療(東洋医学健康相談・セルフケア指導)」などの取り組みもスタートした手塚さん。物腰柔らかく、穏やかで、「こんな先生に診られたい」「こんな先生に教わりたい」と感じる方でした。鍼灸師を目指す方は、手塚さんの講座もチェックしてみてくださいね。

取材・文/山本二季
撮影/米玉利朋子(G.P.FLAG)

Information

表参道鍼灸マッサージ治療院室「自然なからだ」

住所:東京都港区南青山6-12-11 YUKEN南青山302
TEL:03-6419-7213

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