「その人らしさ」を諦めないで。創意工夫が介護の楽しさの秘訣/介護リレーインタビューVol.30【介護士・石野郁花さん】#1
介護の世界で働く方々のインタビューを通して、介護業界の魅力、多様な働き方を紹介する本連載。今回は、社会福祉法人奉優会が運営する「優っくりグループホーム鎌田」(所在地:東京都世田谷区)へお邪魔しました。
前編では、20代の若きリーダーとして、数十名のスタッフをまとめる介護士・石野さんからお話をお聞きします。彼女が実践する人材マネジメント術や、介護の仕事のやりがいについて詳しくうかがいました。
より自分に合った職場で働きたい。保育士志望から介護の現場へ
──介護の世界で働くことになったきっかけを教えてください。
人と関わる仕事がしたかったのと子ども好きなこともあって、高校卒業後は保育士を目指して専門学校へ進学しました。でも、実習先の保育園で「女性ばかりの職場は自分に合わないかも」と気が付いて(苦笑)。幸い、保育のほかに福祉も学べる学校だったため、福祉職へ進路転換することにしたんです。
介護士の資格を取得し、新卒で社会福祉法人奉優会へ入社。最初は港区にある特別養護老人ホームへ配属となり、2年間働きました。こちらの「優っくりグループホーム鎌田」は勤続6年目となります。
──現在のお仕事はどういった内容ですか?
当初は介護士として、入居者様の身体介助をしていました。2020年5月からは主任という立場になり、新人育成やスタッフ約30名のシフト管理など、人材マネジメントが主な業務となっています。もちろん、人手が足りない時は現場のフォローへも入りますよ。
勤務スタイルは基本的に9〜18時勤務で、お休みは月に10日。夜勤には月5回程度入っています。
28歳の若さでリーダー職へと着任
──大勢のスタッフをまとめることはご苦労も多いかと思います。
そうですね。学生から70代まで幅広い年齢層のスタッフが働いていますから、自分よりも年上の方へ指導する場面もありますし、普段接する際も世代によって対応を変える必要があります。
例えば、社会経験を積んできた方は比較的ストレートに意見や提案をぶつけてくれますが、若い世代はSOSすら発信できない子が多いんですよ。そのため、こちらから「大丈夫?」と声をかけ、積極的にコミュニケーションを取るようにしています。もし私に話しづらければ、他の誰かに愚痴として言ってくれればいい。そうすればそのスタッフを通じて知ることができるので、方法は何だって構いません。とにかく、みんなが悩みや心配事を溜め込むことがないように気を付けています。
──リーダー職として心がけていることはありますか?
中立・公平な立場を貫くこと。トラブルが起こった時も、ひとりだけの言葉で判断するのではなく、何人ものスタッフから話を聞いて、俯瞰的で広い視点から物事を見るようにしています。
あとね、面白いことに、同じ施設内であってもフロアによって入居者様やスタッフのカラーが全然違うんですよ。主任になる前は、自分が働いていたフロア以外の状況をあまり知らなくて。だから、まずは全体を把握するために、各フロアのベテランスタッフにすごく助けてもらいました。知らないことはすぐに聞いて「分からない」を解決する、素直な姿勢が大切だなと思っています。
──常にニュートラルな意識が必要なんですね。
福祉施設ではスタッフ同士の連携が取れていないと、結局は入居者様へご迷惑をかけてしまいますから。私がフラットな立場で「つなぎ」の役割を果たすことで、スタッフみんなが働きやすい職場になることが第一の目標です。
利用者様の希望に寄り添うチャレンジが、介護士の腕の見せ所
──特別養護老人ホームでの勤務経験もあるとのことでしたが、介護士に求められるスキルの違いなどはありますか?
こちらへ異動してきて一番に感じたのは、入居者様との距離感の違いです。グループホームは認知症の方がご入居される施設ですが、自立度が比較的高く、お元気な方が多いのが特徴。だからこそ、身体介助以外に日々のコミュニケーション能力が介護士には求められます。入居者様との関わりが深く、毎日に変化が感じられて面白いですよ。
一方、以前働いていた特養では、介護依存度の高い寝たきりの方が半数を占めていました。非言語でのコミュニケーションの取り方を実践でき、とても良い経験になりました。また、従来型の1ユニット50名定員という大きい規模の施設だったため、業務のスピード感や効率性なども求められましたね。介護技術の向上という面で大いに鍛えられたと思います。
──介護のお仕事で、やりがいを感じる瞬間はいつですか?
入居者様の「やりたいこと」を叶えられた時です。もちろん、集団生活という施設の特性上、すべてのご希望に沿えるわけではありません。けれど、手元にないものは手作りしたり、関係各所と調整・手配したり、実現に向けてスタッフみんなで知恵を絞ります。さまざまな制限がある中でも、なんとかして入居者様に喜んでもらいたい。その想いが実を結んだ時のやりがいは格別ですし、創意工夫の過程も楽しいです。
特養にいた際は「息子の経営する飲食店へ食事に行きたい」という入居様のご希望を叶えるべく、医師と相談し、交通手段の手配やご家族との調整などを経て、お店へお連れできたことがあります。「ありがとう、ありがとう」と何度も感謝の言葉をいただき、介護士冥利に尽きる出来事でした。
──入居者様との心のつながりを大切にされているんですね。
施設とはいえ、ここは入居者様にとっての「自宅」であり「日常」です。私たちスタッフは、入居者様のお家へお邪魔しているという感覚を持ちながら、日々の支援に当たっています。
だからこそ、これまで入居様が当たり前に送ってきた「何気ない毎日」を諦めずにすむよう、介護士は全力を尽くしたい。桜を見に公園へ散歩に行ったり、天気の良い日は外へテーブルを出しておやつを頂いたりね。流れ作業のようにただ介護するのなら、機械にだってできること。いかに「その人らしい生活」をお手伝いできるか。それを常に頭に入れながら、仕事に取り組んでいます。
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29歳という若さながら、大所帯のスタッフを率いる石野さん。「仕事って試行錯誤するからこそ楽しいんですよ」と笑顔で語ります。彼女のポジティブな姿勢があるからこそ、スタッフの皆さんも安心して日々の業務に取り組まれているのでしょう。
後編では上司である管理者の八重樫亮一さんもお迎えして、働きやすい職場づくりへの取組みや今後の目標などをお聞きします。
取材・文/黒木絵美
撮影/高橋進