子育て中スタッフの働きやすさが入居者様の笑顔へつながる。自主保育で多世代交流を/介護リレーインタビューVol.30【介護士・石野郁花さん/管理者・八重樫亮一さん】#2
介護の世界で働く方々のインタビューを通して、介護業界の魅力、多様な働き方を紹介する本連載。今回は、社会福祉法人奉優会が運営する「優っくりグループホーム鎌田」(所在地:東京都世田谷区)へお邪魔しました。
前編では、大勢の施設スタッフをまとめる主任介護士・石野郁花さんから、人材マネジメントの工夫や介護の仕事の面白さについて伺いました。後編では、上司である管理者・八重樫亮一さんもお迎えして、多様な働き方に対する取り組みや今後の目標などを教えていただきます。
育休復帰を実現させた職場内の自主保育
──後編では、管理者の八重樫さんからもお話を聞かせていただきます。
八重樫さん(以下敬称略):
よろしくお願いします。管理者を務める八重樫です。当施設には2年間勤務しています。
──石野さんは6年目でしたね
石野さん(以下敬称略):
はい。私がここへ異動してきたのは、家庭の事情が理由でした。実は、産休中に出産した子どもが障害を負っており、入園できる保育園が自宅近隣になくて。育休が開けても職場復帰は無理だろうと半ば諦めていたんです。でも、会社に相談したところ「優っくりグループホーム鎌田なら働けるのではないか」と提案されました。
八重樫:
その頃「優っくりグループホーム鎌田」では、施設のみんなでお互いの子どもの面倒を見合う「自主保育」の取り組みが実践されていたんですよ。
当時、こちらには小さな子どもを抱えるスタッフが多数在籍しており、お迎え等で働ける時間に制限があったり、夏休みなど長期休みはシフトに入れなかったりと、働く上でみんなが何らかの不自由を感じていました。そこで、自身も育児中で家庭との両立に理解があった前管理者が、職場に子どもを連れてくることを認めるようになったんです。
──施設内での自主保育とは画期的ですね!
石野:
この自主保育制度のおかげで、私は息子を連れての出勤が可能となり、職場復帰が叶いました。ほかのスタッフも、幼稚園のお迎え後に子どもと一緒に施設へ戻ってきて夕食前まで業務に就くなど、それぞれが家庭の事情に合わせた働き方をしていましたね。子どもたちはスタッフや入居者様と一緒にリビングで過ごしたり、休憩室で宿題や読書をしたり。年齢に合わせて、思い思いに過ごしていました。
──とても柔軟な働き方ができる素敵な職場だと思います。
八重樫:
法人内でも初の取り組みだったため、先進的なモデルケースとして多くのスタッフが応援し、見守ってきました。この自主保育の成功があったからこそ、2020年には目黒区の特養で事業所内保育園が開所するなど、新規事業へもつながったんですよ。
それに、能力とヤル気があるにもかかわらず、子育てをはじめ家庭の事情で退職したり働く時間をセーブせざるを得なかったりするのは、会社としても多大な損失です。特に介護業界は、女性スタッフの活躍に支えられている部分が大きいですからね。彼女たちの気配り・目配りがなければ、福祉施設は立ち行きません。だからこそ、女性のライフスタイルの変化に寄り添った、柔軟な働き方を支援していきたいと法人全体としても考えています。
肌で実感した多世代交流の意義と希望
──日常的に子どもたちが出入りすることで、入居者様へ何か変化はありましたか?
石野:
まず、顔つきが変化しました。普段スタッフに対しては表情に乏しい方も、それはもう素晴らしい笑顔を子どもたちに向けるんです!「〇〇さん、そんなに顔中くしゃくしゃにして笑える人だったの?!」ってちょっぴり悔しくなりました(笑)。
入居者様は育児経験のある方が多いので、ご自身の役割を思い出すんでしょうね。子どもたちに「危ないよ」と自然に声を掛けたり、遊びを教えてあげたり。親の私たちに対しても、お姑さんのようにいろいろなアドバイスをしてくれました。誰かのお世話を焼くという行動は、認知症の症状好転に向けて有益なことだなと実感しましたね。
──おじいちゃん・おばあちゃん世代の入居者様とふれあうことは、子どもたちにも良い影響がありそうですね。
石野:
そうですね。入居者様だけでなくスタッフもいますから、これだけ幅広い世代の人間が一緒に時間を過ごす機会ってあまりないこと。この多世代交流は、関わった全員にとってプラスになったのではないでしょうか。
うちの子に関していうと、まったく人見知りしない性格に育ちました。1歳前後って「ママ、ママ」って泣いちゃうと思うんですけど、誰に抱っこされてもニコニコして動じず、施設の人気者として存分に可愛がってもらいました(笑)。この取り組みを受け入れてくださった入居者様と発案してくれた当時の管理者に、心から感謝しています。
自分の常識を当たり前と思わない。柔軟な考え方で、より介護の本質を知る
──これからの目標を教えてください。
石野:
まだ施設勤務の経験しかないため、在宅介護の現場に興味があります。居宅介護支援に関わりたくて、ケアマネの資格に向けて勉強中なんですよ。施設・在宅とさまざまなケースを経験して、高齢者介護についてもっと知見を広げていきたいですね。
八重樫:
私はやっぱりいつかは現場へ戻りたいなぁと。だから、早く石野を育てて後釜に据えようと目論んでいます(笑)。ここへ異動してくる前は小規模多機能型居宅介護に携わっていたんですが、その時のことをよく話して聞かせています。「施設と在宅では、見える世界がまったく違う。価値観がひっくり返るぞ」って。うまい具合に影響されてくれましたね(笑)。
──誘導しているんですね(笑)。では、施設勤務と在宅支援ではどういった違いがあるんですか?
八重樫:
施設の常識が、在宅では非常識になる場合も多いんです。例えば施設では、夜間に着用した紙パンツは、汚れていなくても翌朝の起床時に廃棄します。でも在宅の方々にとっては「まだ使えるのに捨てるなんてもったいない!」という感覚が一般的なんですよね。訪問介護は、利用者様が暮らしているお宅へ伺って介護サービスを提供します。紙パンツのように小さなことでも、それぞれの暮らしに即した節約意識や行動基準を、利用者様・ご家族とすり合わせていかなければいけません。
「自分の当たり前は、相手と場所によっては当たり前じゃない。」さまざまな形態のケアを知ることは、改めてそれを気付かせてくれる良い機会になると思います。
──なるほど。介護の世界の奥深さを感じます。
石野:
両方の経験を積むことで、自分の対応力の質が変わるんじゃないかとワクワクします。これからもどんどん内面をアップデートさせていきたい。そう思っています。
──期待しています。では最後に、介護業界を目指す方に向けてメッセージをお願いします。
石野:
介護の仕事は「しんどそう、キツそう」と思われがち。実際に私も、友人から「仕事、大丈夫なの?」と心配されることがあります。でも、え?なんでそんなこと言うの?と不思議でたまりません。命をお預かりする重責も全部含めて「楽しいよ!」と心から言える仕事。ぜひチャレンジしてみてください。
八重樫:
私は、介護ほど面白い仕事はないと思っています。入居者様の見せる顔は毎日違って、現場には1日として同じ日はなく、変化に満ちあふれています。介護業界20年の私が言うんですから真実味があるでしょ(笑)。それだけ日々新鮮さを感じられる魅力的な仕事です。また、人生の先輩である入居者様から教わることは数多く、価値観や人生観は人それぞれだと気付かされるのも奥深い。介護の世界で「人間らしさ」を一緒に感じましょう!
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人材育成を担当するお二人へ、はじめて介護の仕事をする人に何を求めるかを聞いてみました。
「知識やスキルは後から付いてくるもの。それよりも、人のミスを許せる寛容さを持つことが大切かな。相手を許せないと自分の失敗も受け入れられず、追い込まれるだけですから。」
相手を許す・自分を許す。人間は老いとともに自分ではできないことが増え、他者と支え合って生きていかねばなりません。日々、高齢者介護に携わるお二人だからこその優しい視点。とても印象に残ったお話でした。
取材・文/黒木絵美
撮影/高橋進